今の会社に入って戸惑ったことのひとつが、自分の業績報告の書き方だ。「自分がAをしたことによってBを達成した」なんていう調子で延々書き連ねる。小学校の理科の授業で、ものごとの影響を調べるときには対照実験をするのだと習った。これを見て上司や人事部は真偽をどう判断するんだろう。腑には落ちないが僕だってボーナスはほしいので、せめて「Aをした」「Bという結果になった」という部分は事実に反しないように様式を埋める。
もうひとつ戸惑ったのが、未来のことを予測できるかのように話す人がいることだ。顧客の需要だとか市場規模だとか諸々。世の中ってそんなに単純なんだっけ??何か仮定を立てないと話を進めにくいのはわかる。わかるのでせめて、私はこうなると思う、みなさんこれに賭けませんか、くらいの言い方をしてほしい。
そんなもやもやした気持ちを挑発的な文章で吹っ飛ばしてくれるのがタレブである。
まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか | ナシーム・ニコラス・タレブ <http://amzn.asia/d/6pW50rw>
著者が身を投じた金融業界ではこのあたりの錯誤がひどいようで、自身の経験を交えて(一部の人々をボロクソに書きながら)人間の不合理や未来の不確実性について述べ、それでもそれらとうまく付き合っていこうじゃないかというのが本書。
この手の本の中でも特徴的だと感じたのは哲学方面にも言及されていることで、特にカール・ポパーの反証主義に関しては非常に納得感のあるもので興味深かった。このあたりは以前から気になっていたので改めて科学哲学や哲学史に関する書籍も探してみようと思う。
人間のバイアスに関してはダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーの研究からの引用が多いので、このあたりはカーネマンの著書ファスト&スローを読まれるのもいいと思う。個人的には歴代ベスト3には入るくらいお気に入りの本で、関連書籍も多い。
ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?<http://amzn.asia/d/30OA1hY>
予測の難しさについては「シグナル&ノイズ」が実例も多くおもしろい。(リンク先のトップレビューが日本語解説者への批判ばっかりだった。なんだこれ)
シグナル&ノイズ 天才データアナリストの「予測学」<http://amzn.asia/d/3yzBxej>
ちなみにタレブ氏は有名なところでは「ブラック・スワン」、最近邦訳されたものだと「反脆弱性」の著者でもある。ブラック・スワンは特におもしろく、こちらもお気に入りなのでいずれ読み返して紹介したい。
ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質<http://amzn.asia/d/daXmhBZ>
先のことはわからなくて人間の行動は矛盾だらけとした上で、それをむしろ楽しもうとするようなタレブ氏の考えは、悲観的になりがちな自分には新鮮だった。このところリスクにばっかり目を向けてばかりだったので、思いがけない良いことも楽しみに生きてみようと思う。