【事件概要】
2019年06月11日にグーグルアドセンスが突然、理由なく停止されました。その時の調査対応と感想をまとめています。ウェブ運営者とウェブの仕組みに興味ある方のための学習教材です。(元記事)
【グーグルアドセンス事件】
2019年06月11日にグーグル(google)社の広告サービスであるアドセンス(adsense)が表示されなくなりました。
アドセンスとは、インターネットにおける広告です。ウェブサイトの所有権を持つオーナーは、グーグルと契約して、自身のサイト空間に、広告を出稿できます。伝統的には新聞・雑誌・テレビなどで扱っていた広告が、インターネットでも取扱いできるようになりました。アドセンスは2003年に開発公開され、2010年以降に本格的に普及し、2019年現在では、インターネットの主要なエコシステム(生態系)となっています。
【参考資料 グーグルの製品開発の歴史】
1995
検索エンジングーグル開発
1998
出資を受けて法人化
2003
アドセンス(adsense)を提供開始
2004
米国ナスダック(NASDAQ)に上場
2006
ユーチューブ(YouTube)を子会社化
【まずは目視確認】
サイトを確認すると、アドセンスはまったく広告表示されないわけではなく、100回に1度くらいの割合で広告表示されているようでした。しかし、全体としては広告表示が停止し、空白の広告枠だけが目立つようになりました。ここまでは目視により、すぐに事実確認できました。
【コンピューターの不具合 論理と表象】
コンピューターの不具合に対しては、2つの水準で診断ができます。1つめは、論理構造による診断で、ハードウェアやプログラムなどに不具合がある場合です。2つめは、表象再現による診断で、五感による認識に不具合がある場合です。
身近な例えでは、音楽の楽譜作曲は論理構造に相当し、楽器演奏は表象再現に相当します。
今回の事件では、論理構造(プログラム)に異常はなく、アドセンスの広告表示のための通信は、行われていました。
このように、問題をいくつかの階層(layer)に分けて考えることを、階層分析(layer analysis)と呼び、情報科学では必須のスキルになっています。
【調査開始】
さらに調査してみると、グーグル社のアドポリシーに違反している可能性があると、わかってきました。アドポリシー(adpolicy)とは、グーグルが広告ビジネスの相手先に求める行動基準です。アドポリシーの基準に違反すると、制裁があるようです。
【制裁とはどのようなものか】
制裁は、広告表示の停止から始まり、重大な違反に対しては、アカウントが停止されることがわかりました。幸い、アカウントは停止されておらず、広告表示が停止されていただけでした。グーグルのようなプラットフォーマーによる制裁は「○○のサービスを停止する」形を取ります。
【アドポリシーの確認】
どのような違反なのか、アカウントにログインすると、通知されている場合があるそうです。そこで2019年06月11日に通知を確認してみました。そこには通知がなく、アドポリシーの違反は特にありませんとの画面があるだけでした。しかし、広告表示が停止されたことは事実でした。
私は不気味な感覚を抱きました。私は広告不正はしておらず、グーグルは何も問題がないと通知していました。しかし、広告表示は停止したままでした。
【問題を再定義する】
グーグルはなぜ制裁を課す必要があるのでしょうか。アドポリシーをグーグルが導入した背景には、インターネットにおける不正があります。旧来のメディアよりも、インターネットは、プログラミングによる制度的な不正が、簡単にできてしまいます。
例えば、誰も見ていないウェブサイトを、AIを利用して、何度も閲覧したかのように見せかけることができます。
【市場と信頼】
すると、広告出稿者(お金を払って広告枠を買う企業)は、実は誰も見ていない広告にお金を支払うことになってしまいます。信頼が損なわれれば、広告を買いたい人と売りたい人の間に、取引が成立しなくなり、グーグルの収益の大半を占める広告手数料も激減します。
【不正に対抗するAI】
そこでグーグルは、市場の信頼を確保するために、不正AIに対抗して、不正を検知するための検知AIを導入しています。インターネットは誰でもアクセスできる反面、犯罪者や不正利用者を、完全には防ぎ切れません。制度運営者(プラットフォーマー)は日夜戦わなければいけませんが、その戦いは、従業員を増員するだけでは、解決しないはずです。人間を雇用して、カスタマーサービスの研修をして、職場に配置していては、インターネットの変化速度に対応できないでしょう。不正検知AIの登場は、社会変化への必然的な対応です。
【AIに不正が判断できるのか】
そのような不正検知AIの性質を理解すれば、今回の事件は説明できます。もちろん納得はいきませんが、説明ならできます。
AIの本質は、確率統計です。ほぼほぼ正しい判断ができても、数パーセントは間違った判断を下すという暴力的な性質を、AIは宿命として持っています。サイトのどこかが、グーグルの検知AIに引っかかると、いきなり広告表示を停止するのでしょう。そして再開の方法は、わからずじまいです。
【アドセンスの代わりの広告を探す】
ウェブサイト運営を続けるために、アドセンスの代わりの広告を探すことにしました。見つかったのはアドマックス(admax)・ネンド(nend)・フラクト(fluct)でした。いずれも国産(日本産)の広告サービスです。グーグルの独占を排除して、資本主義の競争原理に助けられました。
【サイト審査とその結果】
サイト審査については、アドマックス(admax)・ネンド(nend)が即日に対応してもらえ、広告表示が回復できました。フラクト(fluct)はサイト審査が不合格との通知が一方的にあり、その原因も非公開とあり、不誠実な対応に感じました。
【表示広告からわかること】
ウェブサイトが広告配信するためには、審査があります。審査基準は、いくつかありますが、最大のものは記事内容です。ポルノ・暴力・スキャンダルなどの記事があれば、審査が厳しくなります。また審査通過したサイトオーナーは、どのような広告を自分のサイトに表示するのか、選択できます。つまり、サイトにポルノ・暴力・スキャンダルなどが表示される場合は、そもそもサイトのオーナーが許可しています。私の運営するサイトは教育目的なので、ポルノ・スキャンダル・政治などの刺激の強い広告を、出稿しないように設定してあります。
【結末 AIの判断理由はわからないまま】
複数社との広告契約の作業を終えて、プログラムを書き直しました。すると、2019年06月18日、事件発生から1週間後に、何事もなかったかのように、グーグルからのサービスが再開されました。グーグルからの事前通知も特にありませんでした。
今回の事件で、あらためてグーグルが民間企業であり、従業員をどのように内部統制しているのか、私たちは知らないことを思い出しました。
もし私以外にAIの「誤検知」を受けた方は、焦らずに、AIが「正気に戻る」のを待ちましょう。