前回は「クリスペのユーザー数は増やす事ができるのか」というテーマで、クリスペの主にソーシャルな部分を中心に考えてみました。
その中で、「クリスペ以外のゲームの方が良くできている」ということを書きました。
実際にそれは事実だと思うんですが、そんなクリスペであっても、ゲーム単体として他のTCG系ゲームと共に存在する価値が、実はあると思っています。
それは今までのカードゲームがすでに常識としていて崩そうとしていない部分であり、実はその部分を崩したとしてもゲームは成立することを体現しているからです。
いわゆる現在のカードゲームに対するアンチテーゼであり、今のところ類似のゲームはあるようでないし、実はクリスぺ自体もその部分が揺らいでいるので、ここで一度再確認してみようと思います。
まずトレーディングカードゲームの始祖に当たるマジックザギャザリングの話をします。
これはマジックザギャザリングのデザイナー、マーク・ローズウォーターが執筆した記事の一部です。
内容は一応架空の話で、「マーク・ローズウォーターがタイムマシンに乗って過去のリチャード・ガーフィールド(マジックの生みの親)に対して、現在のマジックの状況を語る」というものです。その中に、マジックの初版(アルファ)を作成した当時のリチャードがマジックをどう認識していたのかという文脈があります。
「ちょっと聞きますが、プレイヤーはどれぐらいマジックを買うと思います?」
「最初はスターター・デッキ1つで、それから続けるならブースターを4~6個ぐらいですかね」
「プレイヤーが何箱もブースターを買う、と聞いたらどうです?」
「え。そうなると強力すぎるカードが大量にありますよ。プレイグループにはレアが各種1枚までしかないのが普通だという前提で作っています。無茶苦茶に売れでもしない限りそんな問題は起こらないと思っていますし、それは嬉しい悲鳴というやつですね。問題が出たら直しますよ」
「実際にそうしました。そのために各種の制限禁止リストというものがあります」
「各種のリスト? つまり、マジックは大成功して、いくつものフォーマットを作るほどになったと?」
「想像も出来ないでしょう」
引用:https://mtg-jp.com/reading/mm/0012043/
※メーカーから探梅されるトレーディングカードゲームは基本的に内容が分からないカードの組み合わせ(「スターター・デッキ」や「ブースター・パック」)で販売されています。
この記事から、開発者のリチャード・ガーフィールドは自身のマジックザギャザリングというトレーディングカードゲームが「全員がデッキに必要なカードを所有している」なんていう状態が発生することは考えていませんでした。
そのため、初期のマジックのカードにはどう考えても異常に強いカードがいくつも存在し、今では「パワーナイン」なんて呼ばれていたりもします。
このカードは結構有名ですよね。
さて、マジックザギャザリングが製作者の予想を超える大ヒットをして、みんながデッキを強化しようとしてカードを買いまくりました。
現在販売されているカードで最強のデッキを作れるまでカードを買い続けました。
その結果、プレイヤーのデッキが強くなりすぎてしまい、
「カードが揃っていれば1ターンで勝てる」
というようなことが発生するようになってしまいました。
チャネル/Channel (1993年)
さすがにそうなってしまっては、大会が成立しないということで、運営は「大会で使用するには強力すぎるカード」を大会で禁止カードとし、以後は「全プレイヤーがそのカードを所有しうることを前提に」カードを作成することになりました。
・・・その後も大会が成立するかしないかのギリギリをせめて言っているので、時折禁止カードが生み出されているのですが。
時のらせん(1998年)
王冠泥棒、オーコ(2019年)
最初のトレーディングカードゲームがこの流れになったので、他の追随するトレーディングカードゲームもこの流れに乗る形になりました。
ここがトレーディングカードゲームの分岐点①
「全員が全種類のカードを所有していることが前提となっている」
です。
続けます。
トレーディングカードゲーム熱狂的なファンがいるため、大会で勝利するためにはひたすらカードパックを買って強力なカードを組み合わせてデッキを組む必要が生まれます。
しかし、「カードパックをひたすら購入して、必要なカードだけを使うためにはとんでもない量のカードパックを購入しないといけない、そして買ったカードの大半は使用しない」というのはあまりにも不経済ですね。
元々トレーディングカードゲームというくらいなので、「余ったカード同士で交換してください」という意図で、トレーディングを通じて仲間を作ってほしいというようなメーカーからのメッセージもあったわけなのですが、トレードには共通の価値基準が無いとお互い納得するトレードは難しい。そして周りに欲しいカード交換してくれる友人がいるとも限らない。トレードに関するトラブルが発生します。
そこで台頭するのがトレーディングカードショップです。
トレーディングカードショップは各カードの単品販売を行います。
これにより、みんなの各カードに対する価値基準が統一されました。
そして、トレーディングカードショップはカードゲームを遊ぶ場所も提供します。
そうなってくると当然なのですが、自身の商売敵となるプレイヤーの行為「プレイヤー同士がカードをトレードする」という行為がショップ内で禁止となり、結局のところ、トレーディングカードゲームを遊ぶためにはショップで単品を購入しないと成立しないようになります。
当然ショップは下取りもしてくれるので、プレイヤー同士でトレードするゲームではなく、お店とトレードするゲームになったわけです。
まあ今はオークションサイトがあるのでプレイヤー同士の取引も可能なんですけどね・・・
ここがトレーディングカードゲームの分岐点②
「プレイヤー同士のトレードが制限された」
です。
マーク・ローズウォーターの記事に戻ります。
「他にも進化はあります。例えばコレクター・ナンバーとレアリティの標記です」
「そんなことをしたら、マジックにどんなカードがあるかすぐにわかるようになってしまう。そこは秘密にしておきたいんだ」
「ええ、そこです。世界は見る間に変わっていき、情報の共有がずっと簡単になるんですよ」
「その......電話のせいで?」
「それも1つです。あなたがマジックに秘密の部分を残して、プレイヤーが他のプレイヤーと対戦していく中でカードを見付けていくようにしたいと思っているのは知っていますが、技術の進化がそれを妨害します。また、デッキ技術の共有もコミュニティが育つ中で重要な部分となりました。もう1つ大きな違いが、カードのプレミアム版の導入です。どのカードにも、フォイル加工を施して見た目を綺麗にした版があるようにしました。また、レア枠のおよそ8分の1で、4つめの『神話レア』というレアリティを導入しました」
「それについては考えていたよ。でもそんなことをすると手に入れにくくなりすぎると思ったのさ。まさかプレイヤーがそんなに多くカードを手にするなんて想像もしてなかったから」
つまり最初マジックザギャザリングは全カードのカードリストが公開されていなかったということです。
しかしインターネット上で情報が公開され、その情報がたびたび誤っていたり、リーク情報を含んでいたりして、あまり良い状況にはならなくなった。
また、レアリティ詐欺(実は貴重なカードなのだが、初心者には区別がつかないので価値を知るプレイヤーにだまし取られる、通称シャークトレード)が発生したことも大きいと思います。
また、インターネットの普及によって著しく進化した部門が「メタゲームの進化」つまり「今どんなデッキを組めば勝てるか」という情報が共有されたということです。
いまトレーディングカードゲームの大会に出ると(といっても最後に実際に出たのは1年も前ですが)大抵のプレイヤーが使用しているデッキの完成度は恐ろしく高いものになっています。それもそのはずで、大抵のデッキは最近の流行のデッキのコピーか少々手を加えたものであるからです。
いずれかのプレイヤーの手で新しいタイプのデッキが作成されると、そのデッキのレシピはインターネットによって瞬く間に拡散し、様々な人によって使用され、徐々に改良され、改良されたデッキもまたインターネットで拡散されます。
そうやって全世界の英知を集めて仕上がっていくのが現在のデッキの姿です。
よってカードパックをいくつか買って、所有しているカードから組み合わせて作ったデッキとは強さの次元が違います。
デッキの動きを見て、つい「美しい・・・」といってしまうほどです。
ここがトレーディングカードゲームの分岐点③
「インターネットによる情報の氾濫」
です。
以上がトレーディングカードゲームの製作者が最初思い描いていたにも関わらず、実現の方向に至らなかったポイントになります。
当然今のトレーディングカードゲームの進化で悪いことは無いのですが、歴史のIFを覗いてみたいと思いませんか。
クリプトスペルズの特性を生かせば、それは可能だと思うのですよ。
もう十分に長いので、続きは次回に回します。