序文
この記事を作成するにあたり、Twitterで
「読みたい」と言ってくれたピタゴリさんに感謝と愛を捧げます
さて、
貧困ビジネスをご存知でしょうか。
わかりやすく言えば
「お金を稼ぐことができない人にアドバイスして、
秘密の集団が法律に触れない感じでお金を稼ぐ」
感じでしょうか
平たく言えば
「生活保護の手続きを代行してあげるからその保護金くれ」
みたいな感じです
まぁ違法なんですけれど
そう言う人がそういうビジネスの対象になるかと言うと
高齢者で、病気があって、家族が居ない…
言い方は悪いですけどホームレス的な人がよく餌食になって居ます
もちろんこれは現代のお話ですが…まぁ現代のモデルケースであって、
実際の話ではないという感じで読み流してください
約束ですよ?
とある病院、A病院にしましょうか
そこは凄い片田舎にありました
どれくらい片田舎かというとイオンじゃなくてジャスコがありました
いや、イオンなんですよ
でもその土地の人は「ジャスコ」と呼びます
チラシについてる地図にも「ジャスコ」と書いてある
そんな土地でした
田舎は娯楽がありません
多くの人は車でジャスコに行くか、酒を呑みました
後はパチンコと風俗だけというまさしく人間の欲で動いて居ました
私が居た医局では未だに「お医者サマ」がいて
コメディカルにセクハラをします
余りに堂々と行われるセクハラに一瞬
「これは皆も喜んでいるのか?」と不安になる程でした
しかし後で触られていた女性に話を聞くと
「ここで先生がご不快になられたら入院を取ってもらえません
私が我慢すればそれで良いんで気にしないでください」
と言われて愕然としました
そういう田舎がまだこの世の中には存在していたのです
ここではありませんが、別の土地でも未だにお医者サマはいます
後輩と先日話していたら後輩も田舎の洗礼を受ける予定でした
これから赴任する土地に事前に挨拶に行った時病院で言われたそうです
「ここは南海トラフが起こったら病院以外沈みます
病院だけ計算上津波が来ても大丈夫です
なのでもし村(村です)にいるときに警報が鳴ったら
人を蹴り倒してでも先生だけは病院に来てください
ここの者なら皆先生が逃げる手伝いをします
後ろを振り返る必要はないですからね
必ず手引き通り逃げて必ず
先生だけは病院の医局に避難して下さい」
繰り返し繰り返し後輩はそう言われたそうです
何だかゾッとしますが、
ゾッとすることが出来るのは私が都会の人間だからなのでしょう
話が脱線しましたね
娯楽の話でした
とりあえずそんな土地だからか町は高齢のアルコール依存症で溢れていました
あふれていたってのは大げさかもしれませんが目につきました
とても言い方は悪いですが男尊女卑という概念が根深くあり
よく働く女性を殴りながら酒を飲んでいるオッサンがウジャウジャいました
前はそれで町が回っていたそうです
しかし今はネットやTVがあります
女性も学歴をつけることが当たり前です
ジワジワと起こった意識改革で
気付けば町から若者が居なくなり
帰ってこない状態になっていました
取り残された人間だけがその土地で今まで通りに「見える」
生活を維持していた、そんな土地があった、という空想の話です
A病院はそういう人達が身体を壊したら入院する病院でした
酒を入院している間だけは断酒して、
肝臓もしっかり治療をしていきます
普段食事もとらずに酒を飲んでいる人たちは栄養が足りずガリガリで
唯一病院で治療食を食べている時だけが栄養補給とも言えるかも知れません
そんな風に数ヶ月入院して元気になったら
特に何をする訳でもなし退院させます
結果として数ヶ月で又身体を壊して再入院
そうこうしている間に手持ちの田んぼや山を売りまくり
無一文になったら役所がやってきて生活保護を取らせます
そして今度は保護費で呑む打つ買う三昧
命が尽きるまでそれを繰り返す人がいた…
いや、これは空想の話なんですけれどね
まぁそんな人たちだから町で話を聞けば
「ああ、Bさんね、Cで呑んだくれてたよ」
だの
「Dで他の奴とトラブルになってたよ」
だの
勝手に情報が入って来ます
仮に名前が上がったからBさんにしましょうか
Bさんは色んなところでトラブルを起こしながら
返せない借金を繰り返しつつ酒に溺れるオッサンでした
日本は偉大な国です
そんなBさんを福祉は人間らしく尊厳のある生活を送れるように援助をしてくれます
Bさんは私が最初に見た時から生活保護というレールの中で
上手いこと酒を呑み、パチンコをし、オネーチャンの尻を触り、
時々血反吐を吐きながら病院に搬送されていました
そんなある日、Bさんが行方不明になりました
小さな町です
Bさんの顔を知らぬ者などいません
しかし全員が「見ていない」と言いました
役所も探すそぶりを見せつつも
「どうせ又保護費の時期になったら出てくるだろう」
と半笑いでニヤニヤとしていましたし
警察も
「まだ死体発見の報告はありませんなぁ」
とヘラヘラ笑っていたものでした
そんなこともあったなと数日経った頃
A病院の代表電話に一本の電話がありました
電話の主は同じ県内の都会からであると電話口で名乗りました
「Bさんという方をご存知ですか」
とても丁寧な口調に電話を受けた医局長はお医者サマらしく
「ああ、知っておるけどどうしました」
と偉そうに答えました
「申し遅れました、ワタクシEと申します」
医局長の対応にEと名乗る男性は丁重に答えます
「実はワタクシ共の会社のビジネスにですね
なんというかこうビジネスなんですがね
Bさんがご協力頂けるということで
それは結構なことだよとお手伝いしようと思ったのですが
Bさんはもうビジネスにご協力頂けないようでして」
この時点で危機管理能力に長けた医局長は
素早く電話をハンズフリーにして録音を開始していました
「ほうほう、そうですか、で、Bはどうしてます」
医局長はニヤニヤ笑いながらも目だけは真面目に話していました
私はただ声を出さずに聞いているしか無かったのですが
A病院に長く勤めているお医者サマ達は後ろでジャンケンをしていました
「Bさんはですね、そりゃもうお元気ですよ」
「へぇ、生きてますか。呑んだくれでしたからもう死んだかと思いました」
「いやいや、そんな死ぬだなんて辞めて下さい」
「そちらでお世話になっとるんですかなぁ?」
「まぁこう食事だの寝る場所はもう提供しておりますから」
「Bはお役に立たないでしょうしこっちから迎えに行かせましょうか」
「そうして頂けると助かるんですが…」
電話をしている間に40代後半の先生がジャンケンに負けた気配がしました
「じゃあこっちからFって人間を迎えにやります」
医局長はジャンケンに負けたF先生の名前を相手に告げました
「いやぁ助かります。大変恐縮なんですが…」
「わかってますよ、領収書下さい」
医局長はそう言って電話を切りました
「さぁF先生、Bを迎えに行ってもらえるか
ややこしいから30くらい持ってったらええやろう」
F先生は「向こうで遊びたいから休み下さい」と言いつつ
事務に何かを言い、30万を持って都会に出かけて行きました
翌日にはBがF先生にまさに首根っこを掴まれて町に帰って来ました
F先生は医局で笑いながら
「●●組関係みたいですわ
Bに生保(生活保護の略)取らせてタコ部屋に飼い殺ししよとして
役所に連れてったのにもうBは生保やから困ったらしいですわ」
と言いながらお中元で医局に届いたビールを呑んでいました
「そこは初めてやな
アホやなぁ、もうこの辺にしゃぶれる生保なしなんかそうおらんのに
結局向こうはナンボくれって言うて来たんや」
医局長は特別なことが起こったようには取れない口調で聞きました
「結構真面目なところでしたよ
ちゃんと風呂にも入れててね
部屋ももうちょい詰め込めそうでしたわ
Bの金額は一晩1200円メシ代込みで合計12日分やったけど
まけて12000円で返してくれました」
F先生はそう言いながら医局のソファで昼寝を始め、
普通に仕事が始まりました
医局長がその話に言及したのはそこから半年後の忘年会か新年会で
何かのついでのように話していたのは
「まぁ紳士的でよかったなぁ
今時はどこも紳士的や
昔はもっと吹っ掛けられるか
目の前で自分の患者が殴られるの見せられたわ
Bは死なんですんで良かった良かった」
と言った内容だけでした
その場にいたコメディカルと医局員は皆笑っておりましたが
私だけは何だかこう寒々しい気持ちで口のはしだけを何とか上げて
引きつった笑顔のような何かを顔に張り付かせるだけでもう
精一杯だったのでした
まぁこれは全部想像の話ですけれど