デビュー作「ジュン子・恐喝」所収の初期短編集。
伝奇テイストは皆無で、星新一や世にも奇妙な物語をコミカライズしたような不思議な話が雑多に並んでいる。
未来、サハラ砂漠、会社員の日常とあらゆる舞台にシュールな味を投げかけ、淡々と話を進めるその様は実に職人的。
朴訥な絵柄も手伝って駆け出しの若手とは思えぬ老成さが漂う。
にしても一番不思議なのが、ラストに収録された「ジュン子・恐喝」が、先生独特のあの筆致に最も近かったこと。
デビュー作で既に完成の域にあったとは。
もう老成なんてレベルじゃない。
時空を超えている。
読み終えてから表紙を見返すと、各話の主要キャラ勢揃いなのが判る。
笑うロボットの件が予言的なギャグ風味の近未来SF「コンプレックス・シティ」、シュールな設定をうまく料理するどころか力業で無理矢理引っ張っていく「鯖イバル」、秘密結社的なサバトを今では考えられないようなドタバタ喜劇に仕立て上げた「ブラック・マジック・ウーマン」が良かったけど、後年の片鱗が垣間見える「遠い国から」「砂漠の真ン中に」「海の中」の他、人情ものに近いラスト二編や軽いタッチの掌編もあり、バラエティ豊かな過渡期の作風が楽しめる。