

「安全で確実な投資」として金融機関から勧められることの多い個人向け国債。確かに元本保証があり、国が発行しているという安心感から、投資初心者や保守的な投資家に人気の商品です。しかし、本当にそれは賢明な選択なのでしょうか。実は個人向け国債には、表面上は見えにくい数多くの欠点が潜んでいます。この記事では、なぜ個人向け国債を避けるべきなのか、その具体的な理由を徹底的に解説していきます。
個人向け国債の最大の問題点は、その利回りの低さにあります。2025年現在、変動10年型でも金利は年0.5%前後という水準です。固定3年型や固定5年型に至っては、さらに低い金利設定となっています。これは一見すると「まあ、安全なら仕方ない」と思えるかもしれません。しかし、この超低金利がもたらす影響を冷静に計算してみると、その深刻さが浮き彫りになります。
例えば100万円を個人向け国債に投資したとしましょう。年利0.5%であれば、1年間で得られる利息はわずか5000円です。しかもここから20.315%の税金が差し引かれるため、実際に手元に残るのは約3985円にすぎません。月額にすると約332円です。これはコンビニのコーヒー1杯分にも満たない金額です。
さらに問題なのは、この微々たる利息がインフレによって実質的に目減りしていくという点です。日本政府は2%のインフレ目標を掲げており、実際に近年は物価上昇が進んでいます。仮に年2%のインフレが続いた場合、100万円の実質的な価値は10年後には約82万円程度まで下がってしまいます。つまり、個人向け国債で得られるわずかな利息では、インフレによる資産の目減りを補うことができないのです。
個人向け国債を購入することで失われるのは、単なる金銭的な利回りだけではありません。最も大きな損失は「機会損失」です。同じ資金を他の投資先に振り向けていれば得られたであろう利益を、みすみす逃してしまうことになるのです。
例えば、過去20年間の世界株式市場の平均リターンは年7〜8%程度とされています。もちろん年によって変動はありますが、長期的に見れば株式投資の方が圧倒的に高いリターンを期待できます。100万円を年7%で20年間運用した場合、複利効果により約387万円になります。一方、年0.5%の個人向け国債では約110万円にしかなりません。その差は実に277万円にも及びます。
さらに、近年注目されているインデックスファンドや投資信託を活用すれば、専門知識がなくても分散投資が可能です。特に全世界株式インデックスや米国株式インデックスなどは、長期的には安定したリターンを生み出してきた実績があります。個人向け国債にしがみつくことで、こうした成長の恩恵を受ける機会を完全に失ってしまうのです。
個人向け国債には中途換金制度がありますが、これには大きな制約があります。まず、購入後1年間は原則として換金できません。つまり、急に現金が必要になっても、1年間は資金が拘束されてしまうのです。
1年経過後は中途換金が可能になりますが、その際には「直前2回分の利息相当額×0.79685」が差し引かれます。これは実質的なペナルティです。ただでさえ低い利息しか得られないのに、中途解約するとさらに目減りしてしまうのです。
この流動性の低さは、予期せぬ出費や緊急事態に対応できないという大きなリスクをはらんでいます。医療費、家族の急な事情、事業資金、あるいは絶好の投資機会など、人生では予測できない資金需要が発生します。そんな時に資金が凍結されていては、チャンスを逃したり、高金利のローンを組まざるを得なくなったりします。
銀行の普通預金や定期預金、あるいは証券口座のMRFなどであれば、必要な時にすぐに引き出すことができます。投資信託も通常は数営業日で換金可能です。しかし個人向け国債は、この点で明らかに劣っているのです。
先ほども触れましたが、個人向け国債の最も深刻な問題の一つがインフレリスクです。変動10年型は半年ごとに金利が見直されるため、ある程度はインフレに追随できると宣伝されています。しかし、その見直しは基準金利に0.66を掛けた数値に基づいており、実際のインフレ率に追いつくには不十分です。
歴史を振り返れば、インフレは決して珍しい現象ではありません。1970年代には世界的な石油危機により、日本でも二桁台のインフレが発生しました。近年でも、エネルギー価格の高騰や円安の進行により、生活費は確実に上昇しています。食品、光熱費、ガソリン代など、あらゆる物価が上がっているのは、誰もが実感しているはずです。
このような環境下で、年0.5%程度の利回りしかない個人向け国債を保有することは、実質的に資産を減らしているのと同じです。名目上の元本は保証されているかもしれませんが、その購買力は確実に低下していきます。これは「名目上の安全」と「実質的な損失」のギャップです。
真の資産保全を考えるなら、インフレに強い資産を持つべきです。不動産、株式、コモディティなどは、一般的にインフレ環境下でも価値を維持しやすい特性を持っています。少なくとも、インフレ率を上回るリターンを狙える投資先を選ぶことが重要なのです。
個人向け国債から得られる利息には、20.315%の税金が源泉徴収されます。これは所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の合計です。一見すると標準的な税率に思えますが、実は他の投資手段と比較すると不利な面があります。
例えば、NISA制度を活用すれば、株式や投資信託から得られる利益は非課税になります。年間360万円までの投資枠があり、長期的に運用すれば大きな節税効果が得られます。同じリスクを取るなら、税制優遇のある制度を活用する方が賢明です。
また、iDeCo(個人型確定拠出年金)を利用すれば、掛金全額が所得控除の対象となり、運用益も非課税です。老後資金の準備という点では、個人向け国債よりもはるかに効率的な選択肢です。
さらに、ふるさと納税や小規模企業共済など、他にも税制メリットのある制度は多数存在します。限られた資金を効率的に運用するためには、こうした制度を最大限に活用すべきであり、わざわざ個人向け国債を選ぶ理由はほとんどありません。
個人向け国債が広く販売されている背景には、金融機関の営業戦略があります。銀行や証券会社にとって、個人向け国債は販売しやすい商品です。なぜなら「国が保証している」「元本割れしない」という安心感を前面に押し出せば、投資知識の乏しい顧客でも購入してくれるからです。
しかし、金融機関の利益と顧客の利益は必ずしも一致しません。銀行員や証券マンが熱心に勧めてくる商品が、本当にあなたのためになるかは疑問です。彼らには販売ノルマがあり、手数料収入を重視する傾向があります。
特に注意すべきなのは、個人向け国債を入り口として、その後に投資信託や保険商品などを販売しようとする営業手法です。「まずは安全な国債から始めましょう」と言いながら、徐々に他の商品を勧めてくるのです。このような営業戦略に乗せられて、結果的に不利な条件で金融商品を購入してしまうケースは少なくありません。
賢明な投資家は、金融機関の言いなりになるのではなく、自分自身で情報を集め、判断する必要があります。ネット証券やロボアドバイザーなど、より透明性の高いサービスも増えています。わざわざ対面営業で個人向け国債を買う理由はないのです。
ここまで個人向け国債の欠点を列挙してきましたが、では代わりに何を選ぶべきなのでしょうか。実は、より優れた選択肢は数多く存在します。
まず、安全性を重視するなら、ネット銀行の定期預金や個人向け社債が選択肢になります。ネット銀行の中には年0.3〜0.5%程度の金利を提供しているところもあり、流動性の面でも個人向け国債より優れています。
もう少しリスクを取れるなら、インデックスファンドへの積立投資が有力です。全世界株式や先進国株式のインデックスファンドなら、長期的には年5〜7%程度のリターンが期待できます。しかもNISA制度を使えば税金もかかりません。
不動産投資も選択肢の一つです。REITなら少額から投資でき、分配金による定期的な収入も得られます。実物不動産投資は管理の手間がかかりますが、インフレヘッジとしては優秀です。
さらに、自己投資という選択肢も忘れてはいけません。スキルアップのための教育費、健康への投資、ビジネスの立ち上げ資金など、自分自身に投資することで得られるリターンは、金融商品をはるかに上回る可能性があります。
個人向け国債は確かに元本保証があり、国の信用力に裏付けられた安全な商品です。しかし、安全であることと、良い投資であることは別問題です。超低金利、機会損失、流動性の低さ、インフレリスク、税制上の不利さなど、多くの欠点を抱えているのが現実です。
「元本割れしない」という安心感に惑わされて、実質的に資産価値を減らしてしまっては本末転倒です。真の資産形成を目指すなら、もっと賢い選択肢を検討すべきです。
もちろん、全ての人に同じ投資方針が当てはまるわけではありません。年齢、資産状況、リスク許容度、投資目的などによって、最適な選択は異なります。しかし少なくとも、個人向け国債が「最善の選択」であるケースは極めて限られているのです。
金融機関の営業トークに流されず、自分自身でしっかりと情報を集め、比較検討してください。そして、本当に自分の資産形成に役立つ選択をすることが重要です。個人向け国債の購入を検討しているなら、一度立ち止まって、他の選択肢を真剣に考えてみることをお勧めします。あなたの大切な資産を、最も効率的に増やす方法を見つけてください。











