

投資を始めようとする人が最初に接触する金融機関として、銀行は最も身近な存在です。給料の振込先や公共料金の引き落とし口座として長年利用してきた銀行から、投資信託の購入を勧められることも少なくありません。しかし、インターネット上では「銀行で投資信託を買ってはいけない」という意見が数多く見られます。果たして、銀行での投資信託購入は本当に損なのでしょうか。
この問いに対する答えは、単純な「イエス」や「ノー」ではありません。確かに、銀行での投資信託購入にはいくつかのデメリットがありますが、一方でメリットや適した状況も存在します。重要なのは、銀行と証券会社それぞれの特徴を理解し、自分の状況や目的に合った選択をすることです。本記事では、銀行で投資信託を購入することの実態を多角的に検証し、賢明な判断を下すための情報を提供します。
銀行での投資信託購入が批判される最大の理由は、コストの高さにあります。多くの銀行が取り扱う投資信託は、ネット証券で購入できる商品と比較して、販売手数料や信託報酬が高い傾向にあります。販売手数料については、購入時に2パーセントから3パーセント、場合によってはそれ以上を徴収する商品も珍しくありません。一方、ネット証券では販売手数料が無料のノーロード投資信託が主流となっています。
信託報酬についても同様の傾向が見られます。信託報酬とは、投資信託を保有している間、継続的に差し引かれる運用管理費用のことです。銀行が積極的に販売する投資信託の信託報酬は年率1パーセントから2パーセント程度であることが多く、中には2パーセントを超えるものもあります。対して、ネット証券で人気のインデックスファンドは、年率0.1パーセント程度の低コストを実現しています。長期投資において、この差は複利効果により雪だるま式に拡大していきます。
商品ラインナップの限定性も問題点として指摘されます。銀行が取り扱う投資信託の本数は、大手ネット証券と比べると圧倒的に少ないのが実情です。ネット証券では数千本の投資信託から選択できるのに対し、銀行では数十本から数百本程度に限られます。しかも、銀行が積極的に勧める商品は、銀行にとって手数料収入の大きい商品である傾向があり、必ずしも顧客にとって最適な商品とは限りません。
対面販売における営業圧力も懸念材料です。銀行の窓口では、担当者から特定の商品を強く勧められることがあります。担当者は親切で丁寧に説明してくれますが、彼らにも販売ノルマが課せられており、手数料の高い商品を優先的に勧める動機が存在します。投資初心者にとって、専門家に見える銀行員の勧めを断ることは心理的に難しく、結果として自分に合わない商品や高コストの商品を購入してしまうリスクがあります。
具体的な数字で比較すると、コストの差がより明確になります。例えば、日本株のアクティブファンドを銀行で購入する場合、販売手数料3パーセント、信託報酬年率1.5パーセントという条件が一般的です。100万円を投資すると、購入時点で3万円が手数料として差し引かれ、実際に運用されるのは97万円となります。さらに毎年1.5パーセント、金額にして約1万4,500円が信託報酬として差し引かれます。
一方、ネット証券で人気のeMAXIS Slim全世界株式のような低コストインデックスファンドでは、販売手数料は無料、信託報酬は年率0.05775パーセント程度です。100万円を投資すれば、全額が運用に回され、年間のコストは約578円で済みます。この差は歴然としています。
20年間の長期投資で考えると、この差はさらに拡大します。仮に年率5パーセントのリターンが得られたと仮定すると、低コストのインデックスファンドでは100万円が約265万円に成長します。しかし、高コストのアクティブファンドでは、販売手数料と高い信託報酬により、最終的な資産額は約220万円程度にとどまる可能性があります。同じリターンでも、コストの差だけで45万円もの違いが生じるのです。
ただし、すべての銀行商品が高コストというわけではありません。近年、一部のメガバンクやネット銀行では、低コストのインデックスファンドの取り扱いを開始しています。また、特定の条件下では販売手数料を割引するキャンペーンを実施している銀行もあります。したがって、銀行で購入する場合も、商品選びとコスト確認を慎重に行うことが重要です。
ここまで銀行でのデメリットを強調してきましたが、銀行で投資信託を購入することにもメリットは存在します。最も大きなメリットは、対面での相談ができることです。投資の知識がまったくない初心者にとって、専門家に直接質問しながら商品を選べることは大きな安心感につながります。ネット証券では基本的に自分で調べて判断する必要がありますが、銀行では担当者が資産状況や投資目的をヒアリングし、それに応じた提案をしてくれます。
既存の取引関係を活用できる点も見逃せません。給与振込や住宅ローン、定期預金などで長年取引のある銀行であれば、新たに証券口座を開設する手間が省けます。また、すべての資産を一つの銀行で管理できることで、資産全体の把握が容易になります。ネット証券、銀行預金、保険など、複数の金融機関に資産が分散していると、全体像を把握しにくくなります。
地方在住者や高齢者にとっては、物理的な店舗の存在も重要です。インターネット操作に不慣れな人にとって、ネット証券のウェブサイトやアプリは使いにくく感じられることがあります。近所の銀行支店に出向いて、紙の書類でやり取りできることは、デジタルに不慣れな層にとって大きなメリットとなります。
銀行によっては、投資信託の購入によって優遇サービスが受けられる場合もあります。ATM手数料の無料回数増加、振込手数料の割引、住宅ローン金利の優遇など、総合的なメリットを考慮すると、多少のコスト差を補える場合もあります。また、一部の銀行では投資信託の保有額に応じてポイントが貯まるサービスもあり、実質的なコスト負担を軽減できます。
銀行とネット証券のどちらを選ぶべきかは、投資家のタイプや状況によって異なります。まず、投資経験や知識レベルが重要な判断基準となります。投資について自分で調べ、判断できる人であれば、低コストで豊富な商品ラインナップを誇るネット証券が最適です。一方、投資がまったく初めてで、何から始めればよいかわからないという人は、まず銀行で相談し、基本的な知識を得てから、徐々にネット証券に移行するという段階的なアプローチも有効です。
投資金額も判断材料の一つです。少額投資であれば、手数料の絶対額も小さいため、銀行とネット証券の差は限定的です。例えば、10万円の投資で3パーセントの販売手数料は3,000円ですが、1,000万円では30万円にもなります。大きな金額を投資する場合は、コスト差が顕著になるため、ネット証券の優位性が高まります。
投資期間も考慮すべき要素です。短期的な投資や、一時的に余裕資金を運用したいという場合は、販売手数料の影響が相対的に小さくなります。しかし、20年、30年といった長期投資を考えているなら、信託報酬の差が累積的に大きな影響を与えるため、低コストのネット証券を選ぶべきです。
投資の目的や方針も重要です。つみたてNISAやiDeCoを活用した長期の資産形成を目指すなら、低コストのインデックスファンドが豊富なネット証券が適しています。一方、特定のテーマやアクティブ運用に興味があり、銀行でしか取り扱っていない商品に魅力を感じるなら、銀行での購入も選択肢となります。
もし銀行で投資信託を購入することになった場合、いくつかの重要な注意点を押さえておく必要があります。まず、担当者の勧める商品をそのまま受け入れるのではなく、必ず自分で商品内容を確認することです。目論見書には、投資対象、リスク、手数料などの重要情報が記載されています。特に、販売手数料と信託報酬の水準は必ずチェックし、他の類似商品と比較しましょう。
勧められた商品がアクティブファンドの場合、その運用実績を確認することも重要です。高い手数料を支払う価値があるかどうかは、過去のパフォーマンスである程度判断できます。ただし、過去の実績が将来を保証するものではないことも理解しておく必要があります。多くの場合、長期的にはアクティブファンドよりもインデックスファンドの方が良好なパフォーマンスを示すという研究結果があります。
複雑な仕組みの商品には特に注意が必要です。通貨選択型、デリバティブを活用した商品、毎月分配型など、仕組みが複雑な商品は、一見魅力的に見えても、隠れたコストやリスクが大きい場合があります。完全に理解できない商品には投資しないという原則を守るべきです。
銀行での購入を決めた場合でも、定期的な見直しは必要です。購入後も運用状況をチェックし、パフォーマンスが期待に応えていない場合や、より良い商品が見つかった場合は、ネット証券への移管や商品の切り替えを検討しましょう。投資信託は、証券口座間で移管することも可能です。
銀行かネット証券かという二者択一ではなく、両方を使い分けるハイブリッド戦略も有効です。この方法では、それぞれの長所を活かしながら、短所を補完することができます。
具体的なアプローチとして、まず銀行で相談して投資の基本を学び、自分に合った資産配分や投資方針を決定します。銀行の担当者は、資産全体の状況を見ながらアドバイスしてくれるため、ファイナンシャルプランニングの観点から有益な情報が得られます。その上で、実際の投資信託の購入はネット証券で行うという方法です。
また、用途によって使い分けることも考えられます。長期投資やつみたてNISAは低コストが重要なのでネット証券で、短期的な運用や特定のテーマ投資は銀行で、といった具合です。あるいは、メインの運用はネット証券で行い、銀行取引の優遇を受けるために最低限の金額だけ銀行の投資信託を保有するという戦略もあります。
世代によっても使い分けは有効です。現役世代は自分でネット証券を使い、高齢の親世代には使い慣れた銀行を勧めるといった形です。デジタルリテラシーや投資経験に応じて、最適な金融機関は異なります。家族全体の資産を考える際には、この点を考慮に入れることが大切です。
近年、銀行業界にも変化の兆しが見えています。顧客の金融リテラシー向上とネット証券の台頭を受けて、一部の銀行では商品ラインナップの見直しや手数料体系の改善を進めています。メガバンクの一部では、つみたてNISA対応の低コストインデックスファンドの取り扱いを開始し、販売手数料無料の商品を増やしています。
ネット銀行の中には、従来の銀行とネット証券の中間的な位置づけで、低コストと対面相談の両立を目指すサービスも登場しています。オンライン相談やビデオ通話でのサポートなど、デジタルと対面のハイブリッドサービスが拡充されつつあります。
金融庁も、顧客本位の業務運営を金融機関に求めており、手数料の透明化や適切な商品提案を促進しています。今後は、銀行とネット証券の差が徐々に縮小していく可能性もあります。ただし、現時点ではまだ大きな差が存在するため、投資家自身が賢明な判断を下すことが重要です。
銀行で投資信託を買うことが絶対にダメというわけではありません。しかし、多くの場合、特に長期投資においては、ネット証券の方がコスト面で有利であることは事実です。重要なのは、自分の状況、知識レベル、投資目的を正確に把握し、それに基づいて判断することです。
投資初心者で、まず専門家に相談したいという人は、銀行から始めても構いません。ただし、勧められる商品のコストを必ず確認し、できるだけ低コストの商品を選ぶようにしましょう。そして、ある程度の知識と経験を積んだら、ネット証券への移行を検討することをお勧めします。
一方、自分で調べて判断できる人や、長期的な資産形成を真剣に考えている人は、最初からネット証券を選ぶことで、より効率的な資産運用が可能になります。コストの差は長期的に見ると非常に大きな影響を与えるため、できるだけ早い段階で低コストの運用に切り替えることが、将来の資産を最大化する鍵となります。
最終的には、金融機関の選択よりも、長期的な視点を持ち、分散投資を行い、コストを意識し、継続的に積立を行うという投資の基本原則を守ることが最も重要です。銀行であれネット証券であれ、この原則に従った投資を実践することで、着実な資産形成が可能になるのです。











