

スナイプトレードという名前を聞いたことがあるだろうか。この手法は、まるで狙撃手が標的を慎重に定めて引き金を引くように、相場の最適なタイミングを待ち構えてエントリーするトレード手法である。近年、FX系YouTuberやSNSで活動するトレーダーたちによって広められ、特に「勝率8割超え」という驚異的な数字とともに注目を集めている。
この手法を広めたトレーダーの一人である「ささっち」氏は、自身のYouTubeチャンネル「ささっちのトレード大学」でスナイプトレードを公開し、多くのトレーダーに影響を与えた。狙撃手のように無駄な弾を撃たず、確実性の高い場面だけを狙い撃つというコンセプトは、特に初心者から中級者のトレーダーにとって、トレードの本質を理解する上で非常に有用なフレームワークとなっている。
しかし、本当に勝率8割という数字は実現可能なのだろうか。そして、どのようにすればその高い勝率を維持できるのだろうか。本記事では、スナイプトレードの具体的な手法、環境認識の方法、エントリーとエグジットのタイミング、そして勝率8割という数字の実現可能性について、詳細に解説していく。
スナイプトレードは、本質的にはトレンドフォロー型の順張り手法である。しかし、単純な順張りとは異なり、相場の転換点を見極め、最も優位性の高い場面でのみエントリーするという点に特徴がある。この手法の根底にあるのは、「トレードは勝率と回数のバランス」という考え方だ。
多くの初心者トレーダーは、できるだけ多くのトレード機会を見つけようとする。しかし、スナイプトレードの哲学は真逆である。狙撃手が一発の弾丸に全てを賭けるように、トレーダーも厳選された場面でのみエントリーすることで、勝率を最大化しようとする。この「待つこと」こそが、スナイプトレードの最も重要な要素なのである。
さらに、この手法では環境認識が極めて重要な位置を占める。エントリーのトリガーやテクニカル指標は、あくまで二次的なものであり、最も重要なのは「今、相場がどのような状態にあるのか」を正確に把握することだ。市場参加者の心理、大きなトレンドの方向性、重要な価格帯の位置関係など、マクロな視点で相場を俯瞰する能力が求められる。
スナイプトレードの基本的な構造は、サポートレジスタンスの転換(サポレジ転換)と20期間移動平均線(20MA)へのタッチを組み合わせた押し目買い・戻り売りの手法である。一見シンプルに聞こえるかもしれないが、この手法の真髄は、どの場面でこのルールを適用するかという判断にある。
まず、環境認識の段階では、4時間足以上の長期時間軸でトレンドの全体像を把握する。上昇トレンドなのか、下降トレンドなのか、それともレンジ相場なのか。この大きな流れを見誤ると、どれだけ精緻なエントリーポイントを見つけたとしても、勝率は大きく低下してしまう。スナイプトレードでは、明確なトレンドが発生している場面を選び、そのトレンド方向にのみエントリーすることが鉄則となる。
次に、重要な高値安値の把握が必要となる。相場には、市場参加者の多くが意識している重要な価格帯が存在する。過去に何度も反発したサポートライン、あるいは上値を抑えられ続けたレジスタンスラインなどだ。スナイプトレードでは、これらのラインがブレイクされ、役割が転換する瞬間に注目する。つまり、かつてレジスタンスとして機能していた価格帯が、ブレイク後にサポートとして機能するようになる、このサポレジ転換のタイミングを狙うのである。
具体的なエントリー方法としては、まず4時間足以上でレンジをブレイクしたことを確認する。上昇トレンドへの転換を狙う場合、重要なレジスタンスラインを上抜けした後、価格が一度そのラインまで戻ってくる動きを待つ。この「戻り」が発生したとき、かつてのレジスタンスが今度はサポートとして機能するはずである。そして、その価格帯で20期間移動平均線にタッチすることが、エントリーのトリガーとなる。
20期間移動平均線は、短期的なトレンドの方向性を示す優れた指標である。この移動平均線が上向きであれば上昇トレンド、下向きであれば下降トレンドの可能性が高い。サポレジ転換が発生した価格帯で、かつ20MAがサポートとして機能する場面は、多くの市場参加者が注目するポイントであり、そこから反発する確率が高くなる。これが、スナイプトレードの基本的なエントリーロジックである。
スナイプトレードにおいて、エントリーのトリガーよりも遥かに重要なのが環境認識である。実際、提唱者のささっち氏も「勝負を決するのは環境認識であり、エントリートリガーは重要度という意味ではかなり落ちる」と明言している。これは一見すると逆説的に聞こえるかもしれないが、トレードの本質を突いた言葉である。
環境認識とは、具体的には「今、相場がどのフェーズにあるのか」を見極めることだ。トレンドが明確に発生しているのか、それともレンジ相場なのか。トレンドが発生しているとすれば、それは初動段階なのか、継続段階なのか、それとも終焉に近づいているのか。これらを判断するためには、複数の時間軸を横断的に分析する必要がある。
具体的なアプローチとしては、まず日足や4時間足といった長期時間軸で大きなトレンドを確認する。ダウ理論に基づいて、高値と安値が切り上がっているか、切り下がっているかを観察することで、トレンドの方向性を判断できる。上昇トレンドであれば、安値を切り上げながら高値を更新し続けている状態であり、下降トレンドであれば、高値を切り下げながら安値を更新し続けている状態だ。
さらに、重要なのは市場参加者が意識している価格帯を見つけることである。過去に何度も反発したサポートライン、あるいは上値を抑えられ続けたレジスタンスラインは、多くのトレーダーが注文を入れている可能性が高い。これらのラインが明確であればあるほど、ブレイクしたときの値動きは強くなり、その後の押し目や戻りでのエントリーの成功率も高くなる。
また、環境認識では市場のボラティリティも考慮する必要がある。値動きが活発な時間帯、例えばロンドン市場やニューヨーク市場が開いている時間帯は、トレンドが継続しやすく、スナイプトレードに適した環境といえる。一方、東京時間のようにボラティリティが低い時間帯では、明確なトレンドが発生しにくく、スナイプトレードの成功率は低下する可能性がある。
環境認識によって優位性の高い場面を特定できたら、次は具体的なエントリーとエグジットのタイミングを決定する必要がある。スナイプトレードでは、このタイミングの取り方にも明確なルールが存在する。
エントリーのタイミングとしては、先述したようにサポレジ転換と20MA へのタッチが基本となる。しかし、これだけでは不十分な場合もある。より確実性を高めるためには、チャートパターンやローソク足の形状も考慮すべきである。例えば、サポレジ転換した価格帯で20MAにタッチした後、強い反発を示すピンバーや包み足などのローソク足パターンが出現すれば、エントリーの信頼性はさらに高まる。
また、一部のトレーダーは、重要な高値安値のブレイクをエントリーのトリガーとして使用することもある。つまり、押し目を待たずに、重要なラインをブレイクした瞬間にエントリーするという方法だ。この場合、トレード回数は減少するが、勝率はさらに向上する可能性がある。ブレイクの初動を捉えることができれば、大きな利益を獲得できるチャンスも増える。
エグジットのタイミングについては、複数のアプローチが考えられる。最も基本的な方法は、次の重要な高値安値や、逆側のレジスタンス・サポートラインを利益確定の目標とすることだ。トレンドフォローの手法であるため、トレンドが継続する限りポジションを保有し続け、トレンドの転換シグナルが出現した時点で利益確定するというアプローチも有効である。
損切りの位置設定も重要である。スナイプトレードでは、エントリーの根拠となったサポレジ転換のラインを明確に下回った(買いの場合)、または上回った(売りの場合)時点で、そのトレードの前提が崩れたと判断できる。したがって、損切りはそのラインのすぐ外側に設定することが合理的である。これにより、勝率は高いが損失も限定的という、理想的なリスクリワード比を実現できる。
スナイプトレードの最も魅力的な主張の一つが「勝率8割超え」という数字である。しかし、これは本当に実現可能なのだろうか。この問いに答えるためには、勝率という指標の本質を理解する必要がある。
まず、提唱者のささっち氏自身が、実践上の勝率が8割以上あると述べている。また、多くの実践者からも、厳密に環境認識を行い、条件に合致する場面だけでトレードすれば、確かに高い勝率が得られるという報告がある。しかし、ここで重要なのは「厳選した場面でのみトレードする」という前提条件である。
スナイプトレードで高い勝率を維持するためには、トレード回数を大幅に制限する必要がある。一日に何度もエントリーするようなスタイルでは、条件に合わない場面でもトレードしてしまう可能性が高く、勝率は低下する。むしろ、数日に一度、あるいは週に数回程度のトレード頻度に抑えることで、初めて8割という高い勝率が実現できるのである。
また、勝率8割という数字は、必ずしも「利益が保証される」ことを意味しない。重要なのは、勝率とリスクリワード比のバランスである。仮に勝率が80%でも、勝ちトレードの平均利益が小さく、負けトレードの平均損失が大きければ、トータルでは損失を出してしまう可能性がある。スナイプトレードでは、勝率が高いだけでなく、適切なリスクリワード比も維持する必要がある。
実際のトレードデータを見ると、スナイプトレードのリスクリワード比は1:1から1:2程度が一般的とされている。これは、勝率が高い手法としては比較的良好なリスクリワード比である。勝率80%でリスクリワード比が1:1であれば、期待値はプラスとなり、長期的には利益を積み重ねることができる計算になる。
ただし、これらの数字は理想的な条件下でのものであることを理解する必要がある。市場環境は常に変化しており、過去にうまくいった手法が将来も同じように機能するとは限らない。また、個々のトレーダーのスキルレベル、経験、感情コントロールの能力によっても、実際の勝率は大きく変動する。
スナイプトレードを実際に運用する際には、いくつかの重要な注意点がある。これらを理解し、適切に対処することで、勝率を維持し、長期的に利益を上げ続けることが可能になる。
第一に、エントリーする通貨ペアの選択が重要である。提唱者のささっち氏は、トレードの6割から8割をポンド系の通貨ペアで行っていると述べている。これは、ポンド系通貨ペアのボラティリティが高く、明確なトレンドが発生しやすいためである。一方、値動きが小さい通貨ペアや、レンジ相場になりやすい通貨ペアでは、スナイプトレードの効果は限定的となる可能性がある。
第二に、感情コントロールの重要性である。スナイプトレードは「待つ」ことが最も重要な手法であるため、エントリーチャンスが来るまで何時間も、場合によっては何日も待つ必要がある。この間、他のトレーダーが利益を上げているのを見て、焦ってエントリーしてしまうことがある。しかし、これは最も避けるべき行動である。条件に合致しない場面でのエントリーは、スナイプトレードの優位性を完全に失わせてしまう。
第三に、過去検証の実施である。スナイプトレードの手法を自分のものにするためには、過去のチャートを使って何度も検証を繰り返す必要がある。どのような場面でこの手法がうまく機能するのか、逆にどのような場面では機能しないのかを理解することで、実戦での判断力が向上する。また、過去検証を通じて、自分なりのアレンジや改良を加えることも可能になる。
第四に、資金管理の徹底である。どれだけ勝率が高い手法であっても、一度のトレードで資金の大部分を失ってしまえば、継続することは不可能になる。スナイプトレードでは、一回のトレードでのリスクを総資金の1%から2%程度に抑えることが推奨される。これにより、連続して負けが続いた場合でも、資金を維持し、次のチャンスを待つことができる。
スナイプトレードは、単なるテクニカル手法ではなく、トレードに対する姿勢や哲学を含んだ包括的なアプローチである。その本質は、「優位性の高い場面だけを選び、そこに全力を集中する」という狙撃手の思考法にある。
勝率8割という数字は、確かに魅力的である。しかし、それを実現するためには、厳格なルール遵守、徹底した環境認識、そして何よりも「待つ」ことへの忍耐が必要となる。多くのトレーダーが失敗する理由は、手法そのものが悪いのではなく、その手法を正しく実行する規律が欠けているためである。
スナイプトレードを学ぶことは、単に一つの手法を習得することではない。それは、相場の本質を理解し、市場参加者の心理を読み取り、確率的思考でトレードに臨むという、トレーダーとして成功するための基本的な考え方を身につけることなのである。
最後に強調したいのは、どのような手法であっても、それを使う人の理解度と実践力によって結果は大きく変わるということだ。スナイプトレードも例外ではない。表面的なルールだけを真似するのではなく、その背後にある原理原則を深く理解し、自分自身のトレードスタイルに合わせて調整していくことが、長期的な成功への鍵となるだろう。











