2023年は回転寿司などでの迷惑動画が炎上しています。その発端が他人の寿司に勝手にワサビを載せるワサビテロであったことは、食べ物を粗末にすることへの批判に加えて、辛いものへの嫌悪感の広がりがあるでしょう。
食べ物を粗末にする迷惑動画は動画普及前からTwitterに写真を投稿するバカッター事件として起こり、繰り返されてきました。迷惑動画は食べ物を粗末にするもので、SDGs; Sustainable Development Goalsの掲げるフードロス削減にも反します。
SDGのターゲット12.3は以下のように定めます。「By 2030, halve per capita global food waste at the retail and consumer levels and reduce food losses along production and supply chains, including post-harvest losses.」(2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる)
2023年の迷惑動画が大きな反響を集めた背景として、単純に汚くて不衛生な従来の迷惑行為に加えて、辛いものを意図せずに食べさせられるワサビテロの恐怖があるでしょう。辛いものを食べさせられることは暴力的な嫌がらせです。辛いものを食べると涙が出たり、咳き込んだり、鼻水が出たり、唇や舌が痛くなったりします。
20世紀までの寿司はワサビが当然でしたが、21世紀はワサビ離れが進んでおり、ワサビ抜きが普及しています。ワサビは元々、殺菌効果を期待してのものですが、今は冷凍保存や衛生管理の技術が進歩しています。素材そのものを味わいたい人には辛さの刺激は余計です。
実写映画『テルマエ・ロマエII』でルシウスは寿司を食べてワサビに苦しみました。松本渚『将棋めし 1』(KADOKAWA、2017年)にはワサビ抜きで寿司を食べる棋士が登場します。辛いものを食べて脳に刺激を与えないためです。ナイーブな人ならば脳に刺激を与えることは脳を活性化させて良いことと考えるかもしれませんが、辛いもので無理矢理刺激することは不健全です。頭を使う棋士にとって避けることになります。
その後は醤油ペロペロやアルコールスプレー噴射の動画が炎上しています。ワサビテロ以上に不衛生で不健康と評価することができます。とはいえワサビテロが相対的にましなのではなく、勝手に辛いものを食べさせられることへの怒りがあったから回転寿司の迷惑動画が注目されたのでしょう。
ワサビテロは恐怖を与えるものであり、テロの原義に忠実な言葉の使い方です。ところが、日本語には飯テロというテロの原義から逸脱した使われ方があります。SNSでは「回転寿司を救いたい」との立場からワサビを沢山つけた寿司を食べる画像が載せられています。これはワサビテロが何故批判されているかを考えれば逆効果になります。食欲を刺激されず、飯テロにもなりません。