映画『翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて』は『翔んで埼玉』の二作目です。2023年11月23日に公開され、12月23日がネタバレ解禁日です。埼玉県をディスる作品として話題になりましたが、二作目は関西が中心です。シリーズ化するとすれば埼玉県を深掘りするよりも、東北や九州など他の地域を舞台にすることになりそうです。
埼玉県の話題としては「横のつながりが弱い」と指摘されました。東京から放射状に鉄道網が伸びている中央集権国家の弊害です。歴史的にも武蔵国は埼玉郡や足立郡と南北に細長い領域が設定されています。この時代から横のつながりよりも縦のつながり重視でした。
埼玉県の東端に位置する埼玉郡が埼玉県の由来です。元は「さきたま」と呼ばれていました。浦和市と与野市と大宮市が合併して「さいたま市」が成立しましたが、これらの市は足立郡の場所にあり、埼玉郡の場所にはありません。果たして「さいたま市」を名乗る資格があるのかという疑問が生じます。その後に埼玉郡の場所にあった岩槻市が合併し、一部は埼玉郡の場所を含むことになりました。映画では浦和と大宮の主導権争いを風刺します。与野も出てきますが、岩槻は出てきません。郡の歴史からは岩槻は離れています。
埼玉郡には「埼玉(さきたま)古墳群」があり、古代に強力な豪族が存在していたことを示します。これに対して律令国家は現在の東京都府中市に国府を置きました。国府があったから府中です。京に近い府中を拠点として自立的な豪族を支配する中央集権体制を貫徹しようとしました。この時代から埼玉は東京に支配される構図がありました。
NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の時代になると武蔵国は有力な武士が併存する分権的な体制になりました。比企郡には比企能員、男衾郡には畠山重忠、足立郡には足立遠元が存在しました。しかし、能員も重忠も北条氏に滅ぼされました。遠元は『鎌倉殿の13人』では珍しく平和裏に退場した人物ですが、足立郡の支配は北条氏に取って代わられます。武蔵守は北条時房を嚆矢として北条一門が就任するポストとなりました。鎌倉時代も鎌倉の北条氏の植民地でした。
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『翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて』では関西の格差を描きます。都会度の高い大阪府、京都府、兵庫県から都会度の低い滋賀県、和歌山県、奈良県が差別されます。歴史的にも滋賀県の近江国や和歌山県の紀伊国は畿内の外でした。これに対して奈良県の大和国は畿内であり、大和朝廷の発祥の地です。京都や大阪にとって親のような存在であり、差別することは滑稽です。
これら三国の共通項は中央政府に容易に従わない抵抗精神となるでしょう。近江守護の六角氏は長享の乱など室町将軍にゲリラ的に抵抗しました。紀伊国の根来衆や雑賀衆は織田信長や豊臣秀吉に抵抗しました。大和国は鎌倉幕府が全国に守護を設置した際も守護が置かれず、興福寺が事実上の守護の役割を果たしました。南北朝時代は後醍醐天皇が大和国の吉野に逃亡し、南朝を打ち立てました。中心地域に同化しないことは、むしろ名誉と言えるでしょう。
映画館のある商業施設のクリスマスツリーには『翔んで埼玉』のオーナメントがありました。
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