なぜサイバーエージェントは高収益体質を維持できるのだろうか?
秘訣は人事組織制度にあるのではないか?
こんにちは、バタフライボード 株式会社創業者のHirocy(@hirocy_vision)です。
一応海外MBA卒ということで、当時の分析レポートを無料公開します。
サイバーエージェントも同様に成長の節々で組織・人事が事業に追いつかず、失敗と改善を繰り返している。
しかし、高収益の子会社を複数産出し、若手社員が活躍を続けている。
その秘訣を探っていこう。
ぜひTwitter(@hirocy_vision)もフォローください!
本記事を読めば、下記の経験・事例を習得できる。
・成長の節を迎えた組織の人事制度の事例と打開策
・「ビジョン」を「人事制度」に落し込み、実運用の方法
・JALが復活した稲森流の組織改革〜「経営者」と「変革担当者:チェンジエージェント」の役割〜
サイバーエージェントの過去の形跡をベンチマークすれば、1つでも吸収できる部分があるはずだ。
・チームマネージャー・人事・組織担当者・経営者・組織を司る全ての人
「企業成長の節」を打破した要因を組織・人材制度にありと踏み、分析をしたので上記の方々のヒントになれば幸いです。
「5段階企業成長モデル」とは、ラリー・E・グレイナーが1979年にハーバードビジネスレビューに発表した論文「企業成長の”フシ”をどう乗り切るか」に記載されている企業の発展モデル
グレイナーによると、企業の成長サイクルには以下の5段階がある。
創造性による成長とリーダーシップの危機指揮による成長と自主性の危機権限委譲による成長とコントロールの危機調整による成長と形式主義の危機協働による成長と新たなる危機
外部資料や書籍からの分析のため、内部社員からすれば稚拙な部分があるだろう。
しかし、外部から見てもこれだけ優秀な人事制度・優秀な若手が育つのだから学ぶべきエッセンスは多い。
その本質を鷲掴みしてもらえれば幸いだ。参考資料集だけでも価値があるのでフォロー頂ければ幸いです。
• サイバーエージェントは、藤田氏・曽山氏(以下敬称略)という2人の強力なカリスマ経営者に牽引され、これまで順調に規模を拡大し成功を遂げてきた。
・今後も引続き持続的な成長を展望していく中では、これらカリスマ不在時にも安定的に運営できる人事制度がデザインされ、運用**されなければならない。
•カリスマ経営者への依存から脱却するためには、現行の中央集権体制(人事部主導)から脱し、現場中心型(部門主導)の組織に舵きりしていく必要がある。
ここでは、社員に共感された哲学を浸透させたJAL復活のプロセスの検証が同社に極めて有効になろう。
株式会社サイバーエージェントを本レポートの対象企業として選定し、その特徴的な人事・人材制度を考察するにあたり、同社のトップマネジメントの2名のカリスマ経営者を抜きにはその議論が成立しえないと考える。
それ故、最初に同社の代表取締役社長である藤田晋氏(以下、藤田)(敬称略)と取締役人事本部長である曽山哲人氏(以下、曽山)(敬称略)について最初に簡潔に紹介したい。
・株式会社サイバーエージェントの創業者で現代表取締役社長
・1973年福井県生まれ。ほぼ同じ時期の起業で成功を収めた堀江貴文や三木谷浩史と並ぶITベンチャーの成功者でいわゆる「ヒルズ族」の筆頭格として語られてきた。
・青山学院大学 (経営学部)卒業後、株式会社インテリジェンスでの勤務を経て、1998年に株式会社サーバーエージェントを設立。(退社したインテリジェンスの出資を受けて株式会社サイバーエージェントを設立し同社の代表取締役に就任した。)
・2000年3月、若干26歳の時に東京証券取引所(マザーズ)への上場を果たす。これは、光通信の社長であった重田康光氏(当時31歳)の記録を破る史上最年少の上場企業社長の記録である。
・著書に「渋谷ではたらく社長の告白」(アメーバブックス) 「藤田晋の仕事学」(日経BP社)「起業家」(幻冬舎)などがある。
・株式会社サイバーエージェント取締役人事本部長。
・1974年神奈川県生まれ
・上智大学文学部卒業後、株式会社伊勢丹勤務を経て、株式会社サイバーエージェントに入社。
・インターネット広告事業本部統括を経て2005年に人事本部人事本部長、2008年より現職
・著書にサイバーエージェント流「成功するしかけ」(日本実業出版社)がある。
当社は前述の通り2000年に東証マザーズにスピード上場を果たした。
この上場タイミングに前後していわゆるネットバブルが崩壊し、それに伴いバブル期の大量入社組の退社が相次いだ。
当時は社員数急増(2000年1月で45人から2003年9月で264人)に伴い「人の違和感」が社内に蔓延していたという。
「違和感」の実態は、「生え抜きvs転職組」の対立の構図であった。
転職組が優遇をされるなど、生え抜き社員と転職組社員の待遇、給与体系が体系化されておらず、不公平感が蔓延る混乱状態で社内矛盾を抱えていた。
相次ぐ退社への対策として社員の定着を図るべく、ストックオプションを全社員に配布するという外的報酬の施策もとられたが、効果は得られずネットバブル崩壊とともに、大量の社員が同社を去っていった。
その後、何が自社の課題なのかを慎重に精査する作業を経て致命的な課題として主に次の3点を発見した。
1: ビジョンや価値観の浸透度が弱いこと
2:社員同士の人間関係が希薄であること
3:個人の認知や自己肯定感の不足していること
2003年、この混乱状況を打開すべく初めて「役員合宿」が行われ人事強化を決定した。
その合宿を通して決定されたことの1つに「軸を明文化すること」がある。
強い組織には必ず「軸」が存在する。
これにより、「たくさんのビジョンにたくさんの意見」の状態から「ひとつのビジョンにたくさんの意見」への脱皮を図った。
つまり、マネジメント層はその考え方を分かりやすく現場に伝え、現場の声から本質を見抜いてマネジメント層にインタラクテイブに提言出来る機能を築いた。
具体的には、2005年に人事本部を設置しその統括に曽山を任命。会社と現場のインタラクテイブな通訳的機能を持たせ、「コミュニケーション・エンジン」と呼ばれる役割を担わせた。
当時、曽山は営業の第一線で活躍中であったが、藤田がイメージして要望を出し、曽山がそれを丁寧に「制度」という確固たる形に落とし込む。
これを地道に繰り返す作業が続いた。曽山が率いる人事本部が変革のエージェントとして機能しはじめたのである。
人事本部長の曽山を中心として、会社の業績を牽引する社員の成長のしかけを創ることと、変革エージェントとしての人事機能の役割を担っている。
サイバーエージェント人事部の掲げる経営と社員に信頼される人事の要諦とは、
①成果果の定義から始めること
②経営と現場の通訳になること
③運用で成功まで導くこと、の3点に集約される。
また、人事強化として「軸を明文化すること」を重要視。
サイバーエージェントのビジョンとして「21世紀を代表する会社を創る」を掲げ、各社員にはマキシムズという明文化された社員の行動規範の豆本を配布し、社員へのその浸透を図っている。
サイバーエージェントでは次々と新たな人事制度が生まれるが、中には成果に繋がらず、あるいは組織の変化に伴い中止された制度もある。
これは人事の成果にこだわった結果と言えよう。人事制度設計の考え方は「安心と挑戦はセットで考える」である。
「安心」を与える制度から「挑戦」を可能にする制度まで幅広いバリエーションがあるのが特徴である。
「ハードルは低く、競争は厳しく」も重要な組織原則とされる。サイバーエージェントの給与制度に年功序列はない。
しかし、終身雇用は標榜している。日本型終身雇用ではなく、「実力主義的終身雇用」。優秀人材に報いる給与制度となっている。
しかしながら、決して非優秀層を捨てることはない。
会社と考え方と価値観が一致するならば、その社員に安心して働いてもらえるように守る。
パフォーマンスによるダイバーシティを許容しながらも、組織として最大限の成果を目指す姿勢が伺える。
もう一つの特徴として金銭的報酬をベースにした制度よりも、非金銭的報酬を増やすための制度が多いと言える。
社員の動機づけの手段として「外的報酬」よりも「内的報酬」を重視していることが分かる。さらに、サイバーエージェントでは組織の一体感を最大化する方法として、
①ビジョンの明文化:ビジョンや価値観を浸透させること②横のつながり:社員同士のつながりを増やすこと③個人への光:個人が認められる機会を増やすこと
の3つを成果として定めて、実現のための制度づくりをしている。
部活動支援制度は、部署を跨いで5名以上集めて活動すると一人当たり月1,500円支給するもの。
仕事以外の共通項を増やすことで、非公式の相談役を増やし社員の定着率を上げる目的で開始された。
社内報サイバーでは「わたしの履歴書」「となりの先生」といった記事で社員を取り上げ、お互いの顔が見え、連携がしやすくなることを目的にしている。
部署間のつながりを強化して組織を活性化することにより、ストレスマネジメントやエンゲージメントに貢献する制度だと考えられる。
曽山氏によれば、「顔と名前が分かること」は安心感を生み、いざという時に相談しやすくなり、トラブルの回避や早期解決につながるという成果があるという。
毎月末に部署ごとにメンバーが集まって営業成績などの表彰者をほめたたえる「締め会」を行っている。
表彰は役員からのメッセージという考えに基づき、経営戦略や方針を変える際には必ず表彰内容を見直して戦略実行に役だつ表彰を行っている。
さらに、半年に1回開催の全社員が参加するグループ総会では、各部門において半期最も活躍した社員やプロジェクトを全社からの投票により事前選出し表彰する。
現場推薦+事業部長推薦+人事推薦でより多くの社員が注目されるきっかけをつくっている。
社員総会の重要な評価項目は「人望」および「人格」であり、「社員の模範として、こうなってほしい」という経営陣から全社員へのメッセージとなっている。
これらの表彰は同僚や会社から自分の成果を認められたという充足感をあたえ、内的報酬を高める効果がある一方で、表彰されない社員も納得できる評価をしないと白けてしまう可能性があるため、選考には慎重さが求められる。
「ジギョつく」とは年齢や入社年次は関係なく社員全員が参加可能な事業プランコンテストである。
半年に一度、直接経営陣に新規事業の提案ができ、優勝者やアイディア賞を受賞したものは子会社の社長や事業責任者を任せることもある。
このプログラムは有望な新規事業を生み出すのと同時に、社員に経営・起業経験をもたらし、人材育成の場ともなっている。
「あした会議」は取締役8名が中心となり、事業責任者や専門分野に精通した若手を選出し、サイバーエージェントの「あした(未来)」に繋がる新規事業を考える会議である。
ここで生まれた新事業には若手社員がベンチャー企業の経営者として抜擢される。
また、サイバーエージェントでは、新規事業を営業利益等の目標数値をもとに、フェーズを5つに分ける。
グループからプロジェクト、カンパニーへと成長させる「CAJJプログラム」があり、昇格・降格と撤退の基準を明確化している。
明確な基準があるため、撤退が決まった事業のメンバーの個人攻撃や自己否定につながら無い。
また、次の配属先を人事部が紹介するなどして「挑戦した結果の敗者にはセカンドチャンスを」というマキシムズの一説を体現している。
「キャリチャレ」は現部門での勤続年数が最低1年を経過すると、1月と7月の年2回、社内の他部門またはグループ会社へ異動するためのチャレンジ機会がある社内異動公募制度。
自分の意思で応募する「キャリチャレ」に対し。「ジョブロ」は経営側が出す異動辞令で、伸ばすべき部署に有能な人材をマッチングさせて、成長の機会を造っている。
これらの制度は社員の成長角度を上げるために、大きな「やりがい」や「成長実感」を感じてもらう機会を社員の状況に合わせて提供していくもので、「内的報酬」を増やす一因となっている。
「CA8」は取締役交代制度。建設的な取締役会運営のため取締役の人数を8名と定め、2年毎に原則2名の取締役を入れ替える。
役員会入りを目指す、次の人材の活性化を目的とし、現役員会はそのために喜んで席を譲るという制度である。
「2駅ルール」という家賃補助制度や、2年勤務で5日の特別休暇を与える「休んでファイブ」などの「安心」を与える福利厚生制度がある。
現状のサーバーエージェントは藤田が創業し現状20年程度である。そのため社内での影響力も強く、藤田カルチャーが色濃く残っているのが現状である。
マキシムズの中でも言及があるが、「行動すること」を全社員に必ず説いている。
理論よりも行動して失敗をするべきであり、その失敗を素直にうけとめ、さらに成長していく精神がサイバーエージェント流といえよう。
厳しさの例としては「ミスマッチ制度」と呼ばれる従業員の緊張感を保つための制度がある。
それは、下位5%をD評価とし、D評価1回でイエローカード、2回目でレッドカードとなり、2回目で部署異動または退職勧奨のいずれかを選択する制度である。
また上司、部下ともに判断を正確にするために、部下に対して厳しい評価のできない上司も同様にイエローカードにさらされる。藤田によれば、
「最初の数回は5%を守りますが、そのうちD評価を出すべき人がかなり減っていくと思います。
また、緊張感が出てさぼってた人が働き始めれば、もうそれで十分この制度の役割を果たしています。
5%に拘らず、極端に言えばゼロになっても構いません。さらには、D評価を2回受けてもクビになる訳ではありません。とある。
実際にサイバーエージェントのエンジニア(20代男性)へのヒアリングしたところ、
「この制度のおかげで緊張感があって良い、プロジェクトでも締切りを明確にされて、コミットすればそれだけ仕事を得ることができて、環境や制度には非常に満足している」
と言う。
厳しい制度だが、自分で仕事へコミットし目標達成することで「内的報酬」を自から高め、プロジェクトにエンゲージする仕組みに加え、社員数増加過程で「社会的手抜き」が出来ない施策と見て取れる。
また、社内の価値観や文化が合わない人は若い内に転職したほうが良い、というのが藤田の姿勢であり、大手企業にありがちなモラルの低下を防ぎ、常に緊張感がある制度を置いている。
厳しさは社員だけとは限らない。役員に対しても厳しい制度を設置している。CA8は2008年より導入された取締役交代制度である。
「渋谷ではたらく社長」のアメブロによれば、
「役員を目指す人達も確かに活性化しましたが、それよりも、今の役員の仕事ぶりが非常に活性化しました」
とある。
役員会の交代を明示し緊張感を持たせ、制度により役員を律する仕組みを構築しており、一般的なベンチャー企業の人材システムとは一線を画していると判断できる。
人材教育として、外部から情報を入手できたのは以下2つである。1つ目が「アントレプレナー輩出支援」2つ目が「あした会議」だ。
グロービスと共に、サイバーエージェントが数多くの子会社やサービスを立ち上げてきたノウハウを活かし、起業や新規事業立ち上げを実践化する講座「アントレプレナー・イノベーションキャンプ」を2013年に開催している。
また、後述の新規事業立案合宿「あした会議」の仕組みを応用して、参加者が実現性の高い新規事業を立案できるような講座を行い、
1:アイディアを出すための手法2:ビジネスモデルを完成させていくプロセスについて3:インターネットサービスの企画立案
を教えるトレーニングを実施している。
上記の様に、若手を育て、新しいサービスや事業を創造する仕組みを積極的に実施している。
若手を育てるには事業を立ち上げさせOJT形式で自然と身に付けていく方法を促しているのではないかと考えられる。
実際、社長の藤田も同様の経験で失敗や成功を重ねてきた。
従って、中堅を育て上げるより、転倒を繰返し、素直に失敗から学ぶ方が大きいというマキシムズの指針通り、チャンスを与えることに重点を置いていることがわかる。
サイバーエージェントは起業支援を通じてリーダーシップの育成、またそれらが連鎖する仕組みを構築している。
起業支援として、若手がチャレンジできる仕組みが2つある。
1つ目は「ジギョつく」で、年齢や入社年次は関係なく社員全員が参加可能な事業プランコンテストである。
当方の子会社社長知人へのインタビューによれば
「人事部長との面談の際に、子会社経営にも興味がある旨を伝えたところ、CA8にて発案された事業を任かされることになり、現在OJT状態で手探りだが事業をまわしている。」
とのことである。
2004年CEOメッセージによれば、
・「大型買収よりも、社内事業の立上げと拡大を重視」
・「新規事業は小さく生んで大きく育てる」
・「人材採用、育成、社内活性化を強化」とあることから、
15年以上も前からこのような組織体制を置き、人材育成を重要視していたと考える。 盤石な基盤の歴史が垣間見れる。
人事・人材論のパラダイムが大きく変化する中、サイバーエージェントの人事制度はどこが新しいのか? 以下の4つの視点から分析する。
従来の人事マネジメントは人事考課・報酬によるマネジメントが主流であったが、現在は人材育成によるマネジメントへと変化している。
特に行動力の育成では、必要な知識・仕スキルの習得の次に、場の提供と行動化が必要とされる。
サイバーエージェントでは「ジギョつく」に代表されるような挑戦の場が与えられ、マキシムズの中には「行動者の方がカッコイイ」や、「挑戦した結果の敗者には、セカンドチャンスを」といった言葉で行動化を促進している。
行動力育成の3段階目はメタ認知による「ふり返り」が必要である。
曽山は月に100名もの社員と、ランチや飲み会を含めた個別面談を行い各社員にフィードバックを与える機会を持っている。
また、各自に自身の成長曲線を描いてもらい、お互いに見せ合うことで自分の行動や成果を客観的に評価し、気づきや適切なフィードバックが得られる機会を設けている。
昇給・昇進といった外的報酬から、アサインメントによるリテンションへと変化している中、サイバーエージェントではどうだろうか。
「ジギョつく」の優勝者が子会社の社長や事業責任者を任せれたり「キャリチャレ」で自分の希望する部署への移動が可能など、従来の人事考課による外的報酬ではなく、各社員の内定報酬が高まるアサインメントが可能な仕組みがある。
自ら動き、獲得したアサインメントで活躍し、またそこでスキルを獲得質疑へ行く。
この継続で社員が自己成長する仕組みといえよう。
従来の人事制度論によるマネジメントが全社員一律の制度でマネジメントするのに対して、これからは、個別の運用が求められる時代となって来ている。
曽山氏は「いい内容でも運用で白けさせては無意味だ。」とし、運用して社員から支持され流行らせることを目標にしている。
これはサイバーエージェント人事部が重要視している、「運用で成功まで導く」ことに主眼を置いたマネジメントであると言える。
一方、個別型の制度について具体例は見当たらないが、曽山氏をはじめ全役員が社員と個別面談をし「困っていることはないか」「組織風土はどうか」を質問して現場の「しらけ」を察知する努力をしている。
個々のフィードバックを得る事で、個別の制度運用への可能性が推察される。
人事部主導による運用 から、部門主導の運用へとシフトが求められる中、サイバーエージェントでは人事部のリーダーシップで会社の業績アップへ繋がる成果を出してきたと言える。
曽山氏が1年で1,200名(!)に及ぶ全社員と面談していることからも推測されるように、部門主導による運用には至っていないと思われる。
今後会社規模が拡大すると、人事の個別化を図るには、部門へ権限移譲が求められる。
サイバーエージェント人事部の役割は各部門へのコンサルティング機能へと変化していかざるを得ないと思われる。
サイバーエージェントでは、社員の内的報酬を増やし、エンゲージメントを可能にする仕組みは構築しているものの、まだ創業15年の会社である。
現状は、カリスマ社長の藤田が全権を掌握し、経営や新規事業の決定、組織内での決定権を持っているといえる。
TV出演時のコメントによれば、未だにサービスすべてに目を通し、判断をしているという。
しかし、言い換えるとこれまでのペースで会社の規模が多くなると、藤田一人の処理能力の限界を超えてしまい、現在のマネジメント手法では維持できない体制ともいえる。
或いはこのカリスマ社長が引退もしくは万一の事態があった場合には、どのように組織を維持し、サイバーエージェントのブランドを継続し、企業として存続していけばよいのか?
また、サイバーエージェントの組織を年齢別比率で分析すると、20代:51%、30代:46%、40代:3%となる。非常に若手が多い企業であり、2012年度には新卒が既存社員を上回る事態となった。
これらの状況をふまえてサイバーエージェントの課題は、如何にして新卒社員の能力を高め中堅に育てていくか、そしてその中堅から将来の幹部を育てていくか、であろう。
つまり、サイバーエージェントの企業としての発展性と永続性を考えれば当然カリスマリーダー藤田の後継者が必要である。
同様のカリスマリーダーを社内で育てるのは困難であり、藤田のような強烈なカリスマリーダーを必要としない存続可能な組織作りが求められるのではないだろうか。
サイバーエージェントはこれまでに述べた通り、様々な仕組みで人材育成を進め、M&Aに頼らずオーガニックな成長を実現している。
人材育成のための仕組みは、一方で高い離職率につながっている。
藤田は自身のブログに「本人のためにも、会社の文化と肌が合わず、いつも不満を感じている人は、一度しか無い人生の時間を無駄づかいすることなく、できるだけ若いうちに転職するべきだと私は思ってます。
また、会社の価値観と合わない人に対し、どうして21世紀を代表する会社を創らなければならないのか、から経営陣が説明しなおすつもりはありません」と記している。
要するに、「去る者は去れ。」という考え方である。
その他にもサイバーエージェントでは、CA8やイエローカード制などで転職を促し、組織の代謝をあえて高めている。
その結果として、平均勤続年数は3.6年となっている。
勤続年数が上がるにつれて浸透すると考えられるフィロソフィー(マキシムズ)も、勤続年数が短かく、社員の回転率が高い状況では、フィロソフィーが浸透した職員は次々離職してしまう。
同時にフィロソフィーのない新入社員が次から次へと入社してくる。
カリスマ社長である藤田は会社説明会で何度も登場し、また全ての案件に細かく目を通している。
曽山をはじめ全役員も、週に2ー3回職員の会合に出席して極力多くの職員と接触を持つようにしている。
このように上層部が社員と個別面談をすることで、高い離職率ながらも、現在の人材育成の仕組みがデザインされ維持されており、サイバーエージェントの藤田や曽山への依存度は非常に高いと考えられる。
組織風土や企業文化を保てているのは、彼ら2人のカリスマリーダーの存在によるところが極めて大きいのである。
サイバーエージェントは徐々に組織が拡大しているが、組織拡大につれ、藤田や曽山率いる人事部主導で個人のつながりを基盤とした人材育成の仕組みを維持することは困難が予想される。
組織拡大により、カリスマに直接的な影響を受けなくなるようになると、先に述べた離職率の高さも相まって、社内のフィロソフィーを保つことが難しくなるだろう。
継続的な社員教育が重要なはずなのに、教育される側にフィロソフィーが定着する前に離職してしまい、教育する側もフィロソフィーへの理解が不十分になる可能性がある。
フィロソフィーの教育のために教育チームのメンバーが固定されると、新陳代謝スピードが高速化し、その他の職員との間に意識的な乖離が発生しそうである。
サイバーエージェントにとっては、組織拡大とともに、カリスマ的リーダーの影響を受けなくともフィロソフィーを定着させるシステムの構築が必要となっている。
このためには、従来の人事部主導での組織の運用形態から、各部門へ権限を委譲し、部門主導の運用形態とすることが望まれる。
これにより、サイバーエージェントの人事部門は各部門へのコンサルティング機能へと変化していかなければならない。
引用:https://www.fastgrow.jp/articles/company-phase-greiner
Larry E. Greinerのいう企業成長の第3段階である委譲に向かう革命的危機の状況である。
多くの企業は適切な組織改革が行えないため、この段階を乗り越えられずに、経営の執行がスムーズでなくなったり、成長自体がストップすることに成り得よう。
カリスマ稲盛和夫のリーダーが去った後も、変化し続ける外部環境に適合し、組織変革を継続させている組織事例として、日本航空株式会社(以下、JAL)の組織変革の過程を考察する。
JALは経営破綻という大きな転機を迎えながらも、破綻後の経営を任された稲盛和夫が推進した組織変革により、経営再建を成功させた企業である。
再建の結果として、破綻後1年4ヶ月という極めて短期間で過去最高益をたたき出し、2年8ヶ月で株式再上場を果たしている。
JALを再生させた稲盛改革とは、持続的に変革できる素地をJALの中に浸透させ、類まれなリーダーが居なくても変革できる環境、文化をJALに根付かせることであった。
稲盛という経営の鬼才が、JALを自ら切りもりしたのでは、仮に組織改革に成功したとしても、恐らく稲盛の退陣後のJALは破綻前のJALに戻ってしまったのではないかと考えられる。
また、稲盛一人の力で3万人以上社員を擁するJALグループを変革させることは、この短期間では非常に困難だったと推測される。
稲盛改革の中心である2本柱は、リーダーシップ教育を行いJALフィロソフィーを作成して全社員の意識を根本的に改革したこと、そして、アメーバ経営を導入したことである。(アメーバブログだけに!!)
稲盛は就任当初に、幹部社員50数名に徹底したリーダーシップ教育を行い、稲盛に賛同し一緒に改革するリーダーを養成した。
改革のコアメンバーとなるリーダー達の意識が変わったことが、JALの改革を推進させる原動力となった。
この教育は次に約3,000名のリーダー候補者に対しても展開され、全社的にリーダーシップの発揮がみられるようになった。
稲盛はリーダー教育の中で「会社経営において、社員が考え方を全員で共有することこそ重要である」と繰り返し説いた。
それを実践するために、様々な部署から選抜されたチームが、JALグループ全社員が持つべき考え方や価値観を纏めた「JALフィロソフィ」を作成した。
作成されたJALフィロソフィは手帳になり全社員に配布された。
そして、朝礼や終礼時にチーム全員で読む機会を職場に設け、少しずつ社員に浸透していった。
全社員に浸透し始めたところでJALフィロソフィ教育を開始した。
現在では年2回全社員がJALフィロソフィー教育を受け、JALフィロソフィーを通じて社員の考え方が共有されている。
JALフィロソフィーによる意識改革と同時に、稲盛は京セラ株式会社で行ってきたアメーバ経営もJALに導入した。
アメーバ経営では、組織を必要に応じて小さなユニットに分けて、社内を中小企業の連合体として再構成される。
それぞれのユニットでは、その経営はリーダーに任され、外部環境の動きに即応できるような部門別採算管理を行うことで、経営者意識を持った人材を育成していく。
これにより全社員が会社の発展のために力を合わせて、経営に参加し生きがいや達成感を持って働くことができる「全員参加経営」を実現することを目的としている。
アメーバ経営が導入され、部門別収支管理の重要性がJALの中に浸透した。
意識改革とアメーバ経営は一見すると独立した施策の様に思われるが、この相乗効果により、JALは大きな変貌を遂げたのである。
リーダーが変わることによりそのリーダーの小集団が変わる。JALフィロソフィが正しい方向性を示し、自ら変えていくという意識が芽生え、それがコミュニケーションを生む。
部門間で意識し、共有し、一緒に変わっていく、そういった文化、雰囲気をJALに芽生えさせるのが稲盛の狙いだったのではないか。
稲盛はこのようにして、リーダー不在時においても、JALを持続的に組織変革できる環境、文化土壌を根付かせることに成功した。
サイバーエージェントはこの成功事例を参考にいかに人事部主導から部門主導型組織に変革すべきであるのだろうか。
(もはや、サイバーエージェントだけではなく、企業成長の節にある企業経営者の組織開発に当てはまる)
アメーバ経営という面においては、サイバーエージェントには「CAJJ」という事業育成プログラムがある。
事業は採算によってクラス分けされており、昇格基準や撤退基準が明示されているので、現状ではこの仕組みをさらに活用していくことがよいと考えられる。
一方、意識改革という側面では、サイバーエージェントもマキシムズと呼ばれるフィロフィーを持っておりその浸透に努めている。
現在のフィロソフィーは、カリスマ社長であるの藤田や曽山や他役員が直接全社員に目が届くことを想定されて作られたものである。
今後、それが不可能になった時にはフィロソフィーをさらに明確に伝えなければならず、部門主導型組織に対応するようなフィロソフィーへの拡充が必要となろう。
またフィロソフィーの理解は勤続期間と比例して進むと考えられる。
サイバーエージェントが「成果主義から終身雇用や年功序列を参考にした人材採用、育成、活性化」に力を入れているのであれば、平均勤続年数3.6年から期間を伸ばせ、実効性あるリテンション策が必要であろう。
また、フィロソフィーの浸透を図るためには、全社的なフィロソフィー教育システムと、今後ビジネスを主導していく部門内にもフィロソフィーを浸透させる仕組みを設けるべきである。
以上、サイバーエージェントとJALの稲森流アメーバ経営を題材とし、企業成長の節を越えるための、人事・組織開発の事例を提示した。
企業の成長の節で起きる、企業成長と組織開発の事例としてサイバーエージェントを取り上げ、JALの稲盛流アメーバ経営でのソリューションを事例に打開策を導き出したことで下記を習得できたと思う。
・成長の節を迎えた組織の人事制度の事例と打開策
・「ビジョン」を「人事制度」に落し込み、実運用の方法
・JALが復活した稲森流の組織改革〜「経営者」と「変革担当者:チェンジエージェント」の役割〜
時代の変化はとても早いが、先行している企業を分析することで打開策が見つかるため、アカデミックや事例の力はとても得る所が多い。
今後も企業の課題や具体的な対策方法を綴っていく。
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長文読了を頂きありがとうございました。
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