これらの本を読んで、「ブランドにとって大切なことは、『売り場』と『情報』におけるアベイラビリティ(入手可能性)の担保」であることと考えました。それについてまとめてみます。
有斐閣さんから出版されているブランドの体系書。良書of良書です。
デスクに辞書的な立ち位置で置いておきたい1冊です。
マーケターの中で通説とされている理論をエビデンスでぶっ潰しにかかっている痛快な本です。ちょっとだけ訳が残念。でも面白いです。
冒頭で述べたアベイラビリティですが、今回は「入手可能性」のことを示します。ブランド戦略論から引用します。
顧客は、その商品をどこでどのようにして購買し、入手することができるだろうか。ここでは、流通戦略、つまり流通をどのように活用するか。どの地域、どの店舗でどのように販売するのか。(中略)顧客が入手するために必要な時間や労力などのコストと利便性をどう考慮するか。
田中洋『ブランド戦略論』(有斐閣、2017年) P.172
両書を読んでいると、このアベイラビリティ担保の観点において、ブランドが販売しているモノやサービスによって求められる戦略のあり方が異なるのではないか、と考えたのが今回の趣旨です。
なぜブランディングが必要なのでしょうか。それは、購入を検討しているモノやサービスの「不透明性」が増しているからです。
その不透明性は2つの側面から成り立っていて、パッケージングの進化に伴い中身が文字通り不透明になったから、そして消費者の選択肢が増加したからです。
逆に言うと、あるカテゴリにおいて選択肢が限られているモノやサービスにおいてはブランディングは不要とも言えます。
人間は失敗したくない生き物です。買うべきか・そうじゃないのかを迷い、買った後は「これは良いものだ」と思い込もうとします。だから、いざ購入する場面において、頭の中にある認知的成分・感情的成分・想像的成分の3つの認知システムが働き、判断しています。ブランドはこのような場面で機能しています。
書籍の言葉をそのまま引用しました。書籍では以下のように続いています。
ブランド価値を高めるための経営戦略、マーケティング戦略、コミュニケーション戦略という活動があるだけだ。
田中洋『ブランド戦略論』(有斐閣、2017年) P.103
企業におけるあらゆる活動が、消費者の頭の中におけるブランド構築に寄与してます。そう考えると、企業戦略において重要な視点である「何にどれだけのリソースを投入するのか」という考え方はブランディングにも同じことが言えそうです。(コミュニケーションのレベルだけでブランドを考えるのではなく、全社戦略視点でブランドを考えていくべきだということが言いたかった)
私は、「リソースをどう配分すべきか」という問いに対する判断軸の1つがアベイラビリティだと考えています。
そのアベイラビリティは以下の2軸で考えればよいのではないか、というのが今回の主題です。
ちなみに二者択一ではなく、重み付けの話です。両方大事です。
・『売り場』
・『情報』
取り扱っているモノやサービスが「日用品」や「最寄品」など、購入頻度が比較的高く、売り場で一瞬のうちに購入が判断さえるものであれば前者の『売り場』、購入までに比較検討を要する「買回り品」であれば後者の『情報』にリソースを集中するべきではないかと思います。
日用品や最寄品においては、「ブランディングの科学」の中に記されていた理論の信用性が高いと考えています。
要約すると以下のとおりです。
・市場シェアが高い商品ほど、購入頻度も高い。市場シェアが低い商品は、購入頻度も低い。
・あらゆる消費者は、同じブランドだけを買い続けることをしない。
・競合ブランドと自社ブランドの顧客基盤は類似する
これは自身の経験則にも割と親しいではないでしょうか。私はキリンビールが好きですが、店頭で(どんな感情なのかあまり意識しませんが)プレミアムモルツを選ぶこともあります。店頭に行くと目立っている商品が「売れてるのかな?」と思い、買うこともあります。
つまり、購入が一瞬のうちに検討されるブランドにおいては『売り場』において選択される可能性を限りなく高めるためのブランド戦略が有効です。
ブランディングの科学においては、以下のような独自性を追求することがよいと挙げられていました。
・色
・ロゴ
・キャッチフレーズ
・シンボル/キャラクター
・セレブリティ
・広告
パイロン・シャープ『ブランディングの科学 誰も知らないマーケティングの法則11』P.180
ブランディングの科学に掲載されている理論は、納得性の高い理論も多かったのですが、引用されているエビデンスが一部のカテゴリに偏っているように感じたのも事実です。
本書の中ではロイヤリティプログラムは否定されており、現在マーケティングで重要視されつつある熱狂的な顧客を育成することについても、一部反対的な立場を示されています。
しかし、先程「なぜブランドが必要なのか?」の章で私は不透明性の高まりについて触れました。そして、その不透明性の高さに対して、意思決定の際には「頭の中にある認知的成分・感情的成分・想像的成分の3つの認知システムが働き、判断しています。ブランドはこのような場面で機能しています。」と述べました。
意思決定が長引くモノやサービスを取り扱うブランドの場合は、この認知的・感情的・想像的成分を充足させる・あるいは補う意味で『情報』のアベイラビリティが重要なのではないかというのが私の意見です。
お読みの方にも似たような経験があると思います…という前提で、先日私がワイヤレスのノイズキャンセル(ノイキャン)機能付きイヤホンを購入した時の話をします。
SONYのワイヤレスのノイキャン付きイヤホンと、AirPods Proで比較検討しました。
・そもそも2つに絞っていた(私の頭の中の情報から)
・どっちにしたいか選ぶため記事を読み漁った(外部の情報を仕入れた)
・実際に視聴しに行った(店頭で体験した)
・店舗には他の商品もたくさんあったが(他のブランドはよく知らないから)候補にならなかった
比較・検討時において、私は脳内の情報を参照し、外部からも情報を仕入れるというアクションを取っています。なにか高価な買い物をした経験で、同様の経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。知っていれば安心するし、知らなくても調べて知ることができれば安心できる。失敗したくないから、知らないものは買いたくない。そんな心理は、誰しも持っているはずです。
つまり、「情報におけるアベイラビリティ」を高めるとは、コミュニケーション施策による(感情面も含めた)ブランド連想イメージの形成や、自社の発信だけでなく第三者の発信であるメディア露出、クチコミ創出など、ブランドへの周辺情報を増やすことで「買う」ことを後押ししてあげる要素を強化することを指しています。
「売り場におけるアベイラビリティ」とは対象的に、抽象的な要素に重点をおいてブランドを構築する必要があるのではないかと考えています。
最後です。『ブランド戦略論』でも触れられていましたが、ブランドの定義や立ち位置は学者の中でも様々な見解を示されています。
今回取り上げた2冊は、その中でも対照的な本ではありましたが、はっきり言えるのは、企業において持っているリソースや置かれている環境には違いがあるので、事例の模倣では成功できないということです。
「ブランドがなぜ必要なのか」という原点に立ち返り、自社にとって最適なリソース配分を突き詰めて考えることが一番大切なのではないでしょうか。