企業の決算説明会に足を運ぶと、業績以外にも気づくことがあるものだ。例えば、会場の運営をひとつ取ってみても、企業のキャラクターがほの見えたりする。
過去に紹介した日本電産は、社員の統制が実に効いている企業だ。受付で名刺を伏し目がちに差し出すと、びっくりするほど大きな声で挨拶される。説明会の会場に入ると、多数の社員が起立の状態で待ち構えており、「前の席からお座りくださーい」と、これまたびっくりするほど大きな声で誘導される。それを振り切って後ろに座る勇気のないわたしは、案内係の元気な声に促されるまま、証券会社のアナリストに交じって最前列に近い席にうっかり腰をおろした経験が一度や二度ではない。
少し前に決算説明会を開いた関東電化工業は、会場の運営から判断する限り、わりとのんびりした会社なのかもしれない。だいぶ余裕を持って会場に着いたせいもあるのだが、7〜8名の関係者の方たちが受付で談笑しており、歩み寄って名刺を手渡すのがためわれるほどであった。「まあ、今日は金曜日だしな」と、弛緩した会場のムードに勝手な解釈を与えたりした。きっと働きやすい職場なのだろう。
関東電化工業の説明を聞いて感じたのは、設備投資の意思決定の重要性と困難性である。
同社の主力製品は、エレクトロニクス業界を主要顧客とする特殊ガス。半導体や液晶のウエハを製造するためのガス、半導体や液晶の製造装置をクリーニングするためのガス、半導体の配線を製造するためのガス、リチウムイオン二次電池に使われる電解質を製造するためのガス、などである。要するに、半導体、液晶、電池の需要動向に全社の収益が大きく左右される構造だ。
特殊ガスと一口に言っても種類は実に多様だが、関東電化工業が得意とするのはフッ素をベースとした製品である。化学物質の中でもフッ素は取り扱いが難しく、安定的に量産するには高度な技術力が必要とされるらしい。いわゆる『ケミカル』という言葉から想起されるような、理系の大学出身の純朴・素朴で学者肌的な人材が社内の主流を占めるのだろうか。受付で談笑していた社員の顔を見ると、そんなバックグラウンドの人たちに見えなくもない。
だが、設備投資を意思決定する場面では、牧歌的な雰囲気とは対照的な厳しい表情が必要であろう。半導体や液晶のボラタイルな市況サイクルを冷徹に見極め、次の上昇局面を見据えて果断に大胆に増強投資を決める行為は、想像しただけでも精神がひりひりと痺れてくる。タイミング良く投資できれば量産効果とシェア上昇の天国が、一方でタイミングを誤れば機会損失と減損損失の地獄が待っているから大変だ。
それに耐えうる胆力を長谷川社長は備えているのかもしれない。がっしりとした大柄の体躯と、抱擁力のありそうな顔つきに、エレクトロニクス業界の荒波に抗う大器を感じた。
相対的に堅調な株価の推移を見ると、次なる上昇波動が関東電化工業に福音をもたらすと確信しているのかもしれない。