アルビスは北陸を地盤とする食品スーパーだ。売上規模は820億円。業界では中堅に位置づけられる。直近の店舗数は61店で、『アルビス』ブランドの店舗数が57店、2019年4月に買収した『オレンジマート』ブランドの店舗数が4店。地域別では富山県が37店舗で最も多く、次いで石川県が19店舗、福井県が4店舗、岐阜県が1店舗という内訳だ。北陸出身の方には馴染みのスーパーかもしれない。
『アルビス』という耳慣れない響きに、社名の由来が気になった人もいるだろう。『always』『lively』『brightly』『identity』『supermarket』(いつも生き生きと明るい存在感のあるスーパーマーケット)の頭文字を取ったものらしい。必ずしも正しい英語のようには思えないが、北陸の生活を明るく元気に支えたい会社の思いは十分に伝わってくる。
実際、地元の人たちに愛されているのだろう。YouTubeで『アルビス』と検索してほしい。会社から頼まれたわけでもないのに、『アルビスの歌』を自主的に制作している動画を発見することができる。しかも再生回数は1万8000回。それなりに視聴されている。社員のみなさんはさぞ感激していることだろう。
少し前に東京でIR説明会が開かれた。最も印象的だったのは決算説明資料が非常に充実していることだ。食品スーパーの業界ではトップレベルかもしれない。他の業界と比べても優れている。会社概要や業界ポジション、今後の成長戦略が分かりやすくまとめられており、アルビスに初めて接する投資家・アナリストには実にフレンドリーと言っていい。池田和男社長のプレゼンテーションも丁寧かつ誠実でポジティブに感じられた。熊のように大柄な体で、マイクを両手で持つ姿が何とも愛らしい。
池田社長の説明によると、アルビスの始まりは小売事業ではない。1968年の創業当初は卸売事業が主力であった。『食品スーパー総合支援業』を掲げて、地場の小規模スーパーに生鮮や惣菜食品を供給し、ときには店舗運営も支援する形で規模を拡大してきたらしい。小売事業へ転換したのは2005年。大口取引先を失ったことがきっかけで、地元スーパーを買収しサプライチェーンの川下へ自ら踏み出すことになった。長年の卸売事業で培った商品調達力や店舗開発力のおかげだろう、スーパーの運営企業としてはまだ14歳と若いが、北陸地域の食品販売高でトップシェアを誇っている。
北陸の生活に根ざし、地元の人に愛されるアルビスに、他の地域へ転戦する選択肢はないようだ。成長戦略のポイントは、「M&Aの活用による北陸エリアでの更なる売上拡大」としている。会社側の推計によると、富山・石川・福井における地場スーパーの市場規模は1,000億円以上。極端な話ではあるが、M&Aによって売上規模を倍増以上に拡大できる潜在的な余地が北陸地域だけでも残されている。2005年に小売事業へ転身して以降、同社は北陸地域で計6企業、28店舗を買収してきた。今後もドミナント化の手を緩めるつもりはないだろう。
アルビスのように、自らの競争基盤をM&Aで強化する動きは他の地域でも想定される。食品スーパーを運営する企業は全国で約1,000社、店舗数は2万店を超えるという。人手不足が業界共通の課題となる中で、省人化投資の資金的余力に欠ける企業は、単独での生き残りがこれから難しくなるだろう。