すかいらーくHDの2020年度の会社計画は3,830億円(前期比+2%)、営業利益は205億円(同▲0.3%)。外食上場企業ではゼンショーHDに次いで第2位の売上規模ながら、調べてみると4期連続で減益の冴えない見通しである。
なかなか思い通りには行かないものだ。なにより既存店の稼ぐ力に元気がない。人件費の上昇を吸収しようと客単価を上げたら客数が落ちてしまう。ということで、客数を回復させるために客単価を今期はまた下げる。一方で人件費の上昇は続くから、省人化投資の手を緩めることはできない。目論見通りに客数が増えなければ、さらに収益性は悪化することになる。
外食業の経営は本当に大変だ。しかし、メニューの改定やマーケティングの変更が客数や客単価に与える影響を検証して次の施策に反映するトライアンドエラーの過程は、時には胃の痛くなる思いだろうが、考えようによっては面白いのかもしれない。すかいらーくHDを率いる谷会長兼社長はいかにも胆力のありそうな風貌であった。
省人化投資の切り札は『デジタルメニューブック』の導入だ。iPadのような端末で注文や会計ができる。個人情報を事前に登録したアプリと連携することによって、来店客に対して『おすすめメニュー』を自動で表示する機能も備えているという。まるでAmazonの購買代理機能である。外食業界にもAIの技術が着実に浸透しつつあることを再認識した。デジタルメニューブックはガストの400店舗ですでに導入済みだが、今後はジョナサンやバーミヤン、しゃぶ葉など他のレストラン業態にも展開する予定だ。今年度中に2,800店舗、グループ全体の実に8割以上の店舗へ一気に導入するとしている
デジタルメニューブックを導入した効果はすでに表れている。注文を受けたり、メニューを差し替えたりする作業が削減され、テーブルの回転率も上がっている模様だ。導入店舗の月次売上は客数の増加で導入前よりも約4%増えたらしい。
とはいえ、店員が料理を運んだり下げたりする給仕の作業は依然として残るだろう。省人化をさらに推し進めるために、たとえば回転寿司のようにベルトコンベアーで料理が運ばれてくるような仕組みを検討できないものだろうか。他社との違いを作るためにも機械化するなら徹底すべきではないかと思う。
そのほかに気になったのは料理の話がほとんど聞かれなかったことである。既存店の収益力を回復する本道は、なによりも美味しいメニューを取り揃えることだろう。生産性を優先するあまり味が落ちては本末転倒だ。