1月20日、セイコーHDが時計事業のグループ内再編を発表した。時計の企画・開発・販売を手がけるセイコーウオッチが、時計の製造・調達機能をセイコーインスツルから譲り受ける。セイコーHDのリリースによれば、「体制の一元化、意思決定を迅速化することで、更なる事業拡大と収益力の向上」を図りたい考えだ。
グループ内で分断している機能を統合することは、一見するとポジティブなように思える。ただ、個人的に気がかりなのは、セイコーHDが伝統的に『販売』重視、『製造』軽視の風土を身内に有していることだ。そもそも服部一族の系譜が『服部時計店』から始まっているように、セイコーグループの中で最も位が高いのは『お店』であり、『工場』はそれに従属する地位にあった。さすがに今ではその伝統も薄らいだのかもしれないが、セイコーウオッチが製造・調達機能の人たちに上から目線で接するようなことがあれば、セイコーHDが期待する「体制の一元化、意思決定の迅速化」も画餅に終わる可能性があろう。特に、セイコーインスツルの製造部門は、『グランドセイコー』などの旗艦モデルを匠の技で作り上げる卓越者たちの集団だ。くれぐれも取り扱いを間違えてはならない。
さらに視野を広げてセイコーグループの時計事業を考えるならば、セイコーエプソンの立ち位置が気になるところだ。GPSソーラー腕時計の『アストロン』をセイコーウオッチに同社はOEMで供給している。グループ内再編を究極まで推し進めるのなら、セイコーエプソンの時計事業も検討の俎上に乗せるべきとも思う。だが、これは現実的に難しいのだろう。セイコーHDとの直接的な資本関係が必ずしも深くないという理由よりも、むしろセイコーエプソンが感情的に統合を許さないような気がする。歴史的にエプソンは『工場』の中でもさらに最下位を強いられていた。その屈辱をバネにインクジェットプリンタでセイコーHDを凌ぐ規模まで成長してきたといっても良い。実際、エプソンは2017年から独自ブランドの腕時計『TRUME』を展開している。わたしには意趣返しのように思えてならない。