怯える目を見た。
数年前にもある人の怯える目を見た。
それで思い出したのだ。
怖い顔をしているようだ。
目を向くって見せているつもりはなかったが、そうなっていたようだ。
娘によく怒鳴っていた。
手を挙げていた。
それを聞いていたのだ。
動けない身体で聞いていたのだ。
イラつく空気。
当たり散らす音。
子供の泣き声。
今はそうでもないつもりである。
しかし、記憶は消えない。
昔の記憶も消えない。
記憶が記憶を呼び起こし、動けない身体を、余計鞭打つ。
それがあの怯える目だ。
そうだったのだ。
夢中で記憶の彼方にあった自分の所業が今更ながら蘇る。
仕方がないことではない。
仕様がないことでもない。
しかし、どうしようもないことでもない。
取り返しはつかないが、話して聞かせることができる。
自分がよく覚えておくために、話して聞かせよう。
愚かな自分の愚かな所業について子供が繰り返さないように、自分も繰り返さないように。
彼女の目を見て話せるように。
愚かな自分と今後も付き合って行くために話そうと思う。