このところCrypto Lawについて思考していた。きっかけはVladの記事だ。
・Against Szabo’s Law, For A New Crypto Legal System
彼のエントリの論点は明確。
原理主義(Szabo's Law)じゃマスに普及しないよ。パブリックなチェーンを違法にされたら日陰の存在になっちゃうよ。だから原理主義は捨てて柔軟にいこうぜ
元記事では、端的に言えばこれ以上のことには言及していないように思う。しかし彼の他の投稿や普段の言説から考えるに、彼の言うNew Crypto Legal Systemにはimmutabilityへの固執を緩和してはどうか、という意図が含まれると思われる。ここで言うimmutabilityはスマートコントラクトのimmutabilityだけではなく、ハードフォークへの忌避感をとっぱらおう、という趣旨などの思想的な意味もざっくりと含まれそうだ。
彼の言いたいことは非常によく分かるし、懸念ももっともだ。そしてNick Szaboやその思想がある種、神格化されているような界隈の雰囲気に硬直性というか、危機感も抱いたのだと思う。だからこそリスペクトを明言しつつも強烈な書き方をしたのだろう。
彼の言う通りimmutabilityのある程度の除却で技術は適法化できるか思考してみる。これは言うは易しで、極めて難易度が高そうだ。
まず、適法というのはどこで適法なのか。アメリカで適法でも中国では異なるかも知れない。ロシアからクレームが付いたらハードフォークを行う。ブラジルから要請があったらコントラクトの更新を行う。ザンビアからの要請は却下する。それは誰が、なぜ、どの基準で判断するのか。天安門事件の詳細がチェーンに書き込まれて中国から除却の要請が来た。断れば中国でチェーンを違法にされるとして、それに応じるべきか。応じるとしたら何故で、断るとしたら何故か。誰が判断するのか。
そこにはガバナンスが必要であり、それが適切に運用されることを前提に置く必要がある。しかし法を規定するのは国家だ。グローバルなパブリックブロックチェーンに適法性を指向するためのガバナンス。これは新興技術コミュニティのcoodinateとは絶対的な次元が異なる。
少し思考するだけでも尋常ではないcoordinateの努力を要する。ほとんど実現不可能なようにも思える。チェーンをimmutableに保つことにはチェーンをimmutableに保つという自己言及的な大義名分が存在する。その錦の御旗を失った時、エコシステムは存続し得るだろうか。Ethereumの場合、プラットフォームの12%のEtherを盗まれプラットフォーム自身が存続の危機である、という大義名分を持ってしても、The DAO事件ではエコシステム(とチェーン)の分離が起こった。法に則るためという大義名分でimmutabilityをある程度まで除却したとして、たとえばEthereumであればその最大の強みであるエコシステムの反応はどうなるか。そしてcoordinateが失敗した時(ある国家が他の国家よりも冷遇されたと判断した等)、プラットフォームはより直接的なリスクに晒されそうだ。チェーンをimmutableに保つことには既存のパワーとの距離を保ち茨の道を歩かないという意味で、逆説的にチェーンをsecureにする効果があるのかもしれない。既存のルールに反旗を翻すinsecureなアナーキズムに見えて、余計な摩擦と無茶なcoodinateに巻き込まれないギリギリ絶妙なラインを歩く至って現実的な思想かもしれない。Satoshi NakamotoがかつてWikiLeaksにBitocoinが使われることを恐れたのはそのためのように思う。既存のパワーはやはり、とてつもなく強大なのだ。だからSatoshi Nakamotoは匿名を選択したのだろう。immutabilityの除却は従って、crypto law minimizationよりもinsecureな可能性は否めないように思う。
ここまで思考したが、そもそもの前提として私の認識が間違っているかもしれない。まったくの勘違いをしている可能性もある。Vladの思想にしてもすべての言動を追っているわけではないので意図と異なる理解をしているかもしれない。そして、Vladの言うように皆でNew Crypto Legal Systemを作ってゆけばより良いcordinationが得られるのかもしれない。そして何よりNick Szaboをディスるというキャッチーな方法でこのような議論の素地を作った意味は大きい。
何かお気づきの点があればご指摘いただければ幸いです。
補足として、ハードフォークが必要な事案ならともかく、コントラクトは更新可能な設計とすることも可能だ。ZeppelinOSなど、upgradabilityのためのフレームワークも整備されつつある。つまり意図的にコントラクトのimmutabilityを除却することは既存の仕組みの上で可能だ。(だからこそ、ハードフォークへの忌避感をとっぱらおう、等という意図も含む思想的な意味でのimmutabilityの除却も包含すると考えた)。