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『デジタルエコノミーの罠』は経済の本ではなく新聞ビジネスについての本だった

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  • tanakatetsu
  • 2021/02/07 02:25
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報道ビジネスにいる人々には耐え難い話ではあるがーー新聞で最も重要なニュースというのは広告なのだ
(本書より)

Advertisements contain the only truths to be relied on in a newspaper.

(マーク・トウェイン)

経済に関するかと思いきやメディアビジネス、それも新聞ビジネスにフォーカスした内容でした。よく考えると当たり前で、インターネットは巨大なメディア、関心に誘導されるトラフィックと広告で回る経済世界であるからです

そういえば、GAFAや日本のヤフーは、自身をメディアとは言いません。この言い方には多分に、情報や記事の評価はしません、中立的に扱っています、というエクスキューズの意味があるようですが、手作業であろうがアルゴリズムであろうが、情報を選別して乗っけている段階で、みんなメディアです

本書を乱暴に要約すると、インターネットの世界はぜんぜん平等でもフラットでも流動的でもなく、だからメディアビジネスはゼロサムゲームとなるし、中小メディアは検索エンジン、プラットフォームへのニュース納品業者になってしまっているーという話です。かとってGAFAがevilになったとか、プラットフォームが悪いとかそういうわけでもなく、インターネットってそういう世界だということです

だから現状をよし、としているわけでもなく、いろんな弊害があるからなんとかしましょうと。ただし、その解決策を市民ジャーナリズム云々といった抽象的な理想論で終わらせず〜〜ハイパーローカルメディアを謳い上げた「デジタルジャーナリズムは稼げるか」(ジェフ・ジャービスさん)を一蹴したりしています〜〜じゃあどうやってカネ稼ぐの?という問いへ具体案を出されています

特に新聞のネット事業者は必読かもしれないです、いやまじで

 

■インターネットは民主主義を促進させない

 

1990年代はじめ、パソコン通信とインターネットに出会った自分も、実はご多分に漏れず「インターネットは民主主義を促進させる」と無邪気に考えていました

#非中央集権 で #分散化 したP2Pネットワークが #パブリッシングのコストを削減 し 、流通する情報の拡大を促し、言論を #多様化 させ、すぐれた技術を持った新興プレイヤーが一夜にして下剋上を成し遂げ独占を打破し…

いまでも個人的には、YouTubeやSNSは知恵とアイデアと行動力と運のある人に成功の道を開いた、生産手段を民主化したと思っています。とはいえもう少し俯瞰的に見てみると、ここ10年か20年か、やっぱりなんか違う風です

社会は分散化してフラットになる、どころか世界的にはGAFA、BAT、ニュース流通に関して日本ではヤフーの一人勝ちという独占・寡占状態

アメリカでは特に地方紙が枕を並べて討ち死にし、ニュース砂漠が出現した結果、議員や首長の報酬が爆上げされる地域が現れたり(分かり易すぎるだろ!)…と、民主主義が弱体化(こういう大上段は好きではないのですが)、数年後の日本でも…

本旨とはややずれますが、民主主義を促進するどころか、与太話(陰謀論なんて言うから根拠があるように感じてしまう)がまことしやかに信じられたり、いったいどうなってんの?という感じです。まだインターネットが発展途上だから? いや、どうも違うらしい

なぜななのか?

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要は、インターネットは規模の経済が最も効く世界であり、トラフィックは累積的ではなく累乗的に蓄積されていき、初期のわずかな比較優位や幸運が後々、指数関数的な差を生んでしまう世界だからーだそう。放っておけば格差は拡大する一方だってのは現実世界でも同じですが【r>g】、GDPRほか欧米で議論されている規制の問題もこの文脈で考えると理解がススミます

強者はさらに、#ネットフリックスプライズ 推薦システムやパーソナライズ、AIといった技術を洗練させ、小国のGDPを凌ぐような巨大データーセンターといった設備投資を重ねていきます。もはや下剋上の起きる世界ではなさそう。そして、ビッグデータや技術の恩恵は、事業規模が大きくなるほど大きくなるので、さらに差が大きくなるという循環ができあがっています

自分がここでなんとなくブログを書くのが、#ブロックチェーン がインターネットに分散化とフラット化をもたらすかも、と考えたりしているからですが、もはやそれはとても難しいのかもしれません

 

■ブロイラー化する新聞社

 

日本の現状を整理してみます

もともと、インターネットの叡智の中心的な教義の再現、新鮮なコンテンツこそが何より重要

ネットでの力の源泉はトラフィックです。トラフィックを集めるのに最も有効な手段は「新鮮なコンテンツ」です。そこで最も有効なのがニュースなです

ここに目をつけた昔のヤフーはやっぱり慧眼でした。いまでは数千の媒体が日々、数千本のニュースをヤフーに配信する仕組みができあがりました。そして、下山進氏の「2050年のメディア」でも何度も何度も指摘されていたよう、日本の新聞はトラフィックをヤフーに頼り切るようになってしまいました

 

以前ほどではありませんが、ヤフー砲はいまでも大きいですし、ユーザーが高齢化したと言われるとはいえ、トピックスに掲載された記事からのリファラーは、ほかのニュースアグリゲーターの比ではありません

結局、自前でトラフィックを集める努力を放棄した新聞は、わずかばかりの配信料とリファラー欲しさに、最大唯一の商品である「新鮮なコンテンツ」を生み出すブロイラーに自らを貶めてしまいました

さらに、プラットフォームの巨大化は、コンテンツの質にも影響するようです。ここに至ると、コンテンツの質(を何でどう測るかは難しいけれども)よりも、量こそが利潤につながるからです

消費者が大量にどうでもいい安手のコンテンツを読むと利潤が最大化される。すでにコンテンツミルの論理をつくりだした

著名人のSNSを事実関係の精査はもちろん論評を加えることなく引用し「ーーと持論を述べた」でまとめるコタツ記事が(そういうのもあっていいけど)、トピックスに載ってたりすると、こいうプラットフォームにニュース配信していいのか?と、思ったりもしますが、すでにトラフィック中毒なのでどうにもできません

さらに、広告ビジネスにも影響が出ます。特に地方紙にとって優位と考えられてきた地域ターゲティングでは

ビッグデータの時代には、最大級のデジタル広告キャンペーンを、最大級のウェブサイトで打ったほうが、新聞の売るチマチマした地理的ターゲティングよりもはるかに効果的なのだ

という状況になっています

 

■新聞が生き延びる道はあるのか?

 

結局、アメリカでも日本でも、新聞が儲かったのはそれが独占事業であり、商習慣を含め新規参入障壁が異様に高い設備産業だったからにほかなりません。要は他になかった、わけです

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独占に胡座をかき、インターネットやネット媒体を格下に見て、ジャーナリズムは不滅だと思い上がり、破綻したビジネスモデルにしがみついている新聞の衰退は「自業自得だろう」と言われれば、それはその通りだったりするわけで、「ローカルジャーナリズムが…民主主義デンデン…」なんてことを自分たちの口で言うのはとてもダサいことなので、ここでは単純に事業体として持続可能なのか?ということを考えてみたいと思います

広告収入は最大のプレイヤーに集中する。地方広告の優位性は、地方新聞が独占性が高いことからきていた。これがウェブでも続くという期待が、ハイパーローカルメディアをめぐる過剰な期待の相当部分を生み出した

だがいまや、観衆の重複削減のプレミアムを享受しているのは、地方紙ではなく大規模ウェブ企業なのだ。地方紙はもはや、自分の市場内ですら最大の到達範囲の持ち主ではないのだ

と、さらに苦しくなりそうなところ、課金? オープンウェブ? 非営利型? など処方箋については百家争鳴でどれも決定打とはなりそうにありません。それでも持続可能な道がまるでないか、と言えばそうでもなさそうです

ちょっと引用が多いのですが、なぜなら

地元新聞は〜粘着性のあるサイト構築のルールを昔から一つ残らず破ってきた。全体として読み込みが遅く、ごちゃごちゃしてーありていに言えばー醜いことが多い

からです。要は、お前ら間違ったことばっかりやってきただろ、と。まずは

地元ジャーナリズムを救う提案はすべて、デジタル観衆のダイナミックな性質を理解しなければならない

ところから始めましょうと

これは本当によく分かります。多くの新聞社サイトはニュースサイトなのかコーポレートサイトなのかよくわからない。しがらみや鶴の一声で社業への誘導バナーがベタベタと張り付き、視認性も誘導性もメチャクチャな、とってもダサいサイトが出来上がってたりします

では、もっと具体的に何をすべきなのか?それが本書の肝の一つなので直接読んで頂くとして、しかし、分かる人には次の一文だけでも分かるのではないでしょうか? 

累乗化する観衆(トラフィック)はインターネット上で最も強力な力なのです。21世紀における地方ニュースの成功はこの累乗プロセスに依存しています。地方新聞サイトは、粘着力のあるサイト構築のルールをすべて破ってきましたー

つまりはまず、粘着力のあるサイト構築のルールに従え、ってことです

 

こちらもとても興味深い記事でした

 

インターネット中立性に関連する昔の拙稿※あまり関係ない

 

 

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