昨今、何かと世間を騒がせている仮想通貨とブロックチェーン。書店に行けばすぐに関連書籍を見つけられるくらいに浸透した言葉だと言えるでしょう。一方で、一体仮想通貨やブロックチェーンで何ができるのか、と聞かれると答えに窮する人が少なくないでしょう。ビットコインはもうオワコンだとか、ブロックチェーンはインターネットに続く革新的な技術だとか、専門家が様々なことを言っていますが、何のことやらさっぱり…という人が多い気がします。私もそんな人間の一人でした。そして、このβ版へ記事投稿をすると決めてから、初めて本格的に勉強してみました。
この記事では、説明に多くの言葉を要する仮想通貨やブロックチェーンの技術的なことは扱いません。それらは何年も前から専門的に研究/勉強をしている方々が発信されているブログや書籍などを丁寧に読めば、徐々に分かった気にはなれると思います。
大学院で公共政策という「社会課題をいかにして解決していくか?」を学んでいた私の関心事はむしろ、これらの技術は社会に対して何ができる道具なのかということです。そこでこの記事ではまず、ブロックチェーンとはどのような技術なのかを極々簡単に振り返った後に、海外の先進事例を紹介し、今後注目すべき日本の2つの自治体の取組みについて紹介していきたいと思います。
1.最低限知っておくべきブロックチェーンの基礎知識
ブロックチェーンとは、売買取引や契約内容などの記録情報を、ある主体が一元管理するのではなく、利用者が分散共有する形で管理されるデータベースを指します。少し言い換えると、取引履歴を皆で管理することで管理情報の信頼性を担保するシステムです。経済産業省が2016年に出した資料の図が、理解の助けになると思います。
第三者機関が情報を一元管理するのではなく、「ブロック」と呼ばれる情報のかたまりを共有者が相互に承認することで「正しい情報」として認識されます。ブロックチェーンの言葉通り、新しい情報は既存のブロックを繋ぎ合わせる形で記録されていきます。また、ブロックは暗号化されており、例えば暗号文の末尾1文字を変更するだけで、変更前とは全く異なる英数字の羅列となります。そのため、人知れず情報を改ざんすることはほぼ不可能な技術となっています。
以上、ブロックチェーンの特徴としておさえておくべきポイントは2点あり、
1.ブロックチェーンとは、第三者機関を介しない新しいタイプの情報管理システムであること
2.技術上、過去の情報の改ざんが極めて困難であること です。
一方で、開発途上の技術であるため①データ処理の確定に数秒~10分程度を要することや、②単位時間当たりのトランザクション件数が制限されていること、また③実ビジネスへの運用手法が確立されていないことから、SLA(Service Level Agreement)が未整備の状態です。そのためブロックチェーンは、革新的な技術ゆえに脚光を浴びつつも、実証実験の段階での利用に留まっているのが現状と言えます。
2.ブロックチェーンの話題に必ず出てくるバルト三国の一つ「エストニア」
ブロックチェーンを実際に活用している事例として、ほぼ必ずと言っていいほど例に挙がるのが、エストニア電子政府の取組です。2008年に公表された「サトシ・ナカモト論文」で、ブロックチェーンは仮想通貨ビットコインを支える分散型台帳技術として登場したのが始まりですが、エストニアが独自に開発した分散型プラットフォームは2007年に指導しています。そのため、すべてのインフラがブロックチェーンの技術を用いて運用されているわけではなく、あくまでもエストニア電子政府を支える一技術として、ブロックチェーンは使われています。
エストニア電子政府でブロックチェーンは、先ほど挙げたブロックチェーンの特徴の一つである「過去の情報の改ざんが困難」なことを利用した、データ改ざんを検知するための機能として使われているようです。具体的には、ガードタイム社(本社はアムステルダム)のKSI(Keyless Signature Infrastructure)というブロックチェーンを活用して、複数機関で大量発生するデータ改ざんを検知しているのだという。そして、実際すでに以下に挙げる公共サービスが実現しています。
(1)国民ID番号の活用により、3,000以上の行政手続きをオンライン化
(2)e-Schoolにより効率的かつ効果的な教育の提供
(3)e-Police導入により検挙率が50倍に改善
(4)e-Health導入で病院の待ち時間が1/3、処方箋の99%電子化
(5)省庁間のデータベースを相互連携
(6)スタートアップ企業をエストニア非居住者にも開放して誘致を図る
小国エストニアがこれからの時代を生き残るために実行している、電子インフラの整備は数年先の未来国家の絵姿と言えるかもしれません。では、日本はどうなのか?エストニアと比較して、国土も広く人口も多い日本ではそんなにドラスティックにインフラ整備を実行に移すのは難しいでしょうが、何か動きはあるのでしょうか。
3.日本は「バスに乗り遅れる」のか?
実は2018年度に入ってから、地方自治体が民間企業と連携する形でブロックチェーンを活用した実証実験を行うことが決まっています。日本でブロックチェーンを活用した自治体行政の改革がなされるかどうかは、これらの先進事例の結果如何によるかと思います。
(1)石川県加賀市:ブロックチェーン都市の構築
加賀市は大阪に本社を持つIT企業2社と包括連携協定を結び、行政手続きの効率化にあたりブロックチェーンを活用することを決定し、実証実験を開始しました。背景には、人口の減少に伴う人手不足で、足元では最先端の研究施設を誘致する形で産業集積とそれによる雇用創出を目論んでいます。
加賀市は近い将来、マイナンバーと連携させて証明書の手続きを簡略化したり、行政文書を電子記録で管理することを想定しています。地方創生にブロックチェーンが活用されるという意味でも、最先端の事例であり今後の推移を見守っていきたいところです。
(2)福島県浪江町:自動運転車の実証実験
会津ラボと福島トヨペットが共同で浪江町の行動を使った自動運転車の実証実験を始めることが先月公表されました。
福島県浪江町は、7年前の原発事故を機にその放射線量の多さゆえに、帰還困難区域に指定されていました。除染作業が進んだ現在も、町役場を中心とする一部の地域を除いて依然住民は帰還できない状況にあります。そのため、公道の通行量が大幅に減っており実験地として選ばれました。近い将来、高齢者の移動手段として自動運転車を活用することを睨んでの実証実験です。
ブロックチェーンの技術は、事故に繋がる誤作動を防止するために、システム内の情報が改ざんされないために活用されるようです。
現地では、加賀市と同様に、いやそれ以上に深刻な人口減と超高齢化が進んでおり、ブロックチェーンのような新技術を用いて社会インフラを人の手から機械へと移行させねばならない切迫した状況下にあります。
4.最後に
駆け足となりましたが、ブロックチェーンに関して専門用語をほとんど使わずに記述していきました。とかく日本は新技術導入に後れを取ると思われがちですが、いわゆる「課題先進国」である日本はむしろ、溺れる者は藁をもつかむ気持ちでブロックチェーン技術を積極活用していかねばならない状況に置かれています。
そのような状況下で、先陣を切って実証実験に踏み切った2つの自治体の動向を私たちは注視していきつつ、他の自治体や企業も自ら進んで新技術活用の道を模索していく必要がありそうです。
Appendix
この記事を書くに当たり、以下の書籍及びWeb pageを参照しました。専門用語を用いて正確に仮想通貨やブロックチェーンについて学びたい方は、特に最初の『決定版 ビットコイン&ブロックチェーン』をお勧めします。
〇書籍
『決定版 ビットコイン&ブロックチェーン』(岡田仁志著)
『ブロックチェーンの未来 金融・産業・社会はどう変わるのか』(翁百合、柳川範之、岩下直行編著)
『アフター・ビットコイン:仮想通貨とブロックチェーンの次なる覇者』(中島真志著)
〇Webページ
経済産業省「ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査」