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【チャールズ・ダーウィンの歴史⑰】エコロジー(生態学)とエコノミー(経済学)

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  • 2024/09/15 15:00

 

 

生存競争

「自分を生き延びさせるために他を押し除けて競争に勝つ。」

 

ダーウィンも、“生まれた子の中から一部の個体しか生き残れない”というこの自然のシステムにとても興味を持ちました。

 

彼が生きたヴィクトリア朝時代、神によって創造された生物たちは、皆平和で慈愛に満ちているという自然観が支配的でした。

 

しかし現実はそんな甘いものではなく、ある動物は飢えを凌ぐために他者を捕食し、またある動物は他の同類を見捨ててでも天敵を避けて生き延びなければなりません。

 

ダーウィンは博物学者の視点からこの観念を徹底的に論破しました。

 

一見、自然は喜びで満ち、世界中に食べ物が溢れているように見える。

しかし、そう見えるのは呑気にさえずっている小鳥たちのほとんどが、虫や種を食べて生き抜き、常に殺生を繰り返していれうという事実から目を背けているからだ。

あるいは、その鳥のヒナや卵でさえ、他の動物の餌食になっていることを忘れているからだ。

 

マルサスが人口論にて、“産業発展に伴う人口の増加の中であっても、疫病や殺生、飢餓や災害によって抑制される”と予測したように、自然界のあらゆるところでも生存競争は避けられない課題であることをダーウィンは述べています。

 

種の起源』においてもあらゆる要因で集団の個体数が抑制されるとしており、生態系の中で複雑な相互作用が次から次へと波及するネットワークを形成していると考えました。

 

彼は、植物の受粉と動物や人間の関係を例として説明しています。

  

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①パンジーやシロツメクサの花が受粉するためにはマルハナバチの助けが必要

②ネズミはマルハナバチの巣を荒らす(マルハナバチが減る)

③ネコはネズミを捕食し、個体数を抑制する

④ヒトが住んでいる地域にはネコが多くなる

 

といったように、ヒトが多い地域と花の受粉には間接的な関係があることが予想できます。

 

風が吹けば桶屋が儲かる”といった論法ですが、あくまでそのように考えても不思議ではないし、経験的に実際にマルハナバチの数にも影響があることが分かってのことです。

  

しかし、現実の世界でこう思い描いたようにことが運ぶわけではないこともダーウィンは理解していました。

 

種の起源』では、手持ちのデータからは検証しようがないことを明言しています。

 

今でも、カミツキガメやアメリカザリガニなどの外来種が異常繁殖する種や、セアカゴケグモやヒアリのように繁殖が成功しなかった種、その他の絶滅危惧種など個体数を減らしている種など様々です。

 

現代の生態学(生物の分布と数を解明する学問)においても、このような生物の数の増減の原因がはっきりと説明できない場合が多く、ダーウィンはこういった課題が長く残ることを予見していたようにも感じます。

  

  

自然淘汰と進化

サンゴが何万年もの時間をかけてアトール(環礁)を形成するように、自然淘汰による進化も長い世代にバトンが繋がれた末に少しずつ変化が現れてきます。

  

厳密には、長い世代を経るほどの時間だけでは新しい種が生まれたり、生物が多様化するとは限りません。

   

環境が一定である場合においては、そこに適応した種は進化のしようがないからです。

 

現代では生きた化石として知られるシーラカンスなどが良い例です。

 

ダーウィンは、「ではなぜ生物はこれほどまでに多様化してきたのか」を考えました。

 

このメカニズム解明の助けとなるのが“生存競争”でした。

 

個体数の多い集団では生存競争が激しくなります。

 

そんな中、競争が激しくない地域があれば、ここぞと言わんばかりに個体が移動していきます。

 

そこの環境に適応するように、それぞれの形質が変わっていくことで、種の分岐が促されると考えたのです。

 

ダーウィンはこれを“自然界の経済における地位”と表現し、生存競争を通じて種が場所を移動しながら繁殖し、生物の形質が多様化することを説明しました。

 

これは現代生態学における“ニッチ”と呼ばれるもの原型となる考え方となっていきます。

 

 

生態学と経済学

こういったそれぞれの環境に適応する様子は、エコロジー(生態学)エコノミー(経済学)との間にも共通点が見られます。

 

イギリスの経済学者アダム・スミスは、17世紀後半から始まった自国の産業革命の様子から、“経済の発展は分業の発展である”と分析しました。(詳しくはアダム・スミス著 国富論 全1~5編【要約】にて)

 

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アダム・スミス(1723~1790年)

 

例えば、100人の人によって100台の自動車を造る場合、分業するのとしないのでは作業効率に大きな違いが生まれます。

 

分業せずに、一人一人が車の作成にあたるとすると、その作業工程や必要な知識は極めて膨大となります。

 

おそらく数十年、あるいは一生を費やして製作に当たる必要があるでしょう。

 

しかし、設計をする人、ネジを作る人、フレームを鋳造する人、組み立てる人など、100の工程に分割して車の製作にあたれば、それぞれに専門性が生まれ、管理も楽な上に生産も早く、品質も良いものとなるでしょう。

 

アダム・スミスは、こうして物が次々と生まれることで世界にものが溢れ、経済的な豊かさや市場の発展に繋がると主張したのです。

 

さて、それぞれの分野で専門性を活かす……

 

これこそ正に、ダーウィンが言うところの経済における地位ではないでしょうか。

 

彼は、ウェッジウッドの磁器工場が身近にあったことで、労働者の分業や経済の発展を目の当たりにしてきました。

  

自然汰の中で、ニッチな環境に進出した種が適応して発展していく。

 

これがダーウィンが考えた“生物が分岐する原理”なのです。

 

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