近年、あえて食べ物を口にしないことで、長寿遺伝子のスイッチをONにするという方法が話題となりました。
細胞が飢餓状態になると、細胞自身の一部や体内の不要な細胞を分解して栄養源を作るオートファジーという作用もあり、食べないことによる健康習慣に注目が集まったりもしています。
今回はそんな飢餓と寿命(健康)に関するお話。
食べ物を口にしていても、“空腹と感じる”ことによって長寿の遺伝子を活性化させることができるかもしれません。
参考記事)
・Simply Feeling Hungry Might Be Enough to Slow Down The Aging Process(2023/05/24)
参考研究)
・Effects of hunger on neuronal histone modifications slow aging in Drosophila(2023/05/11)
アメリカミシガン大学による最新の研究では、実際に空腹でなくとも、飢餓状態を認識することでミバエの老化を遅らせるという結果が得られたことを発表しています。
これまで行なわれてきたミバエやげっ歯類を対象にした研究では、カロリー制限が寿命延ばし、健康を促進することが明らかになっています。
しかし、この研究はまだ始まったばかりであり、この結果を人に適用するには、さらに多くの研究が必要です。
特にいくつかの研究では、相反する結果が得られたり、潜在的な危険性が強調されたりもしています。
今回の研究では、断食の分子メカニズムを解明するために、ミバエに注目して研究を行いました。
これまで見栄えの研究によって脳内の空腹感や満腹感に関する数多くの神経信号が特定されてきました。
この生物は私たちヒトと同じ病気関連遺伝子の75%を共有しており、その代謝や脳は、哺乳類のものと有用な類似性を持っています。
BCAA(分岐鎖アミノ酸)は必須栄養素であり、摂取することで、ハエの満腹感を誘発すると考えられています。
このBCAAの少ないスナックをミバエに与え、食べた量とは関係なく空腹感を維持させた状態の様子を観察しました。
スナックを食べてから数時間後、ビュッフェ形式の食品はどれだけ食べたかで、ミバエが持つ空腹感の大小を測定しました。
BCAAの低いスナックを与えられたミバエは、その後のビュッフェ形式の食事では、より多くの餌を食べました。
また、炭水化物よりもタンパク質を多く含む食品を好んで食べました。
これは、欲求に基づく空腹感ではなく、必要に基づく空腹感によって動いていることを示しています。
そこで研究者たちは、その原因を分析しました。
ミバエの空腹反応を引き起こすニューロンを直接活性化させたところ、空腹を刺激されたミバエも長生きすることが分かりました。
このことから、“食事の利用可能性やエネルギー的特性ではなく、空腹と感じている状態そのものが老化を遅らせるかもしれない”と研究者は考えています。
さらに実験では、ミバエの食事に含まれるBCAAを減らすと、飢餓神経細胞がDNAと結合して遺伝子の活動を制御するヒストンと呼ばれる支持タンパク質を変化させることが分かりました。
これまでの研究でも、ヒストンの供給量が増加すると寿命が延びることが報告されており、研究者は、この変化したヒストンが、食事と飢餓反応と老化を結びつけている可能性があるとみています。
これらの発見は、低BCAA食が、私たち自身の健康に良いと思われる理由の説明に役立つかもしれません。
・低BCAA食は満腹感を減らす
・満腹感が減ったミバエは、寿命が長く老化しにくい
・実際に食べた量ではなく、どれだけ空腹感を感じるかがポイント
これまでは栄養素が足りないことによる作用が注目されていましたが、今回の研究によって、実際胃にものが入っているか以外に、“空腹感を感じる”ことが大切だということが分かりました。
ということは、胃が空っぽだったとしても、空腹を感じていなければ長寿遺伝子にスイッチが入りにくいということも考えられます。
負荷を感じる筋トレがより効果的なように、脳にも良い意味でストレスがかかっていないと健康やアンチエイジング効果がない可能性があります。
慣れすぎるのもよくないということですね。