脳内のニューロン間のやりとりをはじめ、生物の生体内では電気を使った情報伝達が盛んに行われています。
かつてルイージ・ガルヴァーニは、カエルの延髄と脚に異なる2種類の金属が触れると、脚が痙攣することを発見しました。
生体内の反応と電気には深い関わりがあることが示された研究の一つです。
今回はそんな電気と体の中の仕組みについてのお話。
電気信号をコントロールすることによって、傷のが早くなるといった研究結果が示されました。
2023年4月24日にScience Alertに掲載された記事と研究からまとめていきます。
参考記事)
・Scientists Use Electricity to Make Wounds Heal 3x Faster(2023.4.24)
参考研究)
ドイツのフライブルク大学の科学者は、電気を使用して通常の最大3倍の速さで傷を治す特別なバイオチップを開発しました。
損傷部位を修復しようとしたとき、皮膚細胞の電気信号が活発に働くことはよく知られています。
研究では、この電気信号を増幅させることで、より早い傷の治癒が可能になったことが報告されています。
高齢者、糖尿病患者、血行不良の人など治癒に長い時間がかかる、慢性的な傷を持つ人々にとって傷が迅速に回復するということは、それだけ命の危機から遠ざかることになります。
フライブルク大学及びチャルマース大学の生物工学科学者であるマリア・アスプルンドは、「最大3倍の速さで傷を治す言葉可能なこの方法は、治癒しない傷に苦しむことが多い人にとって大変革をもたらす可能性がある」と述べています。
電気が治癒を助けることは分かっていますが、プロセスに対する電解の強さと方向の影響は十分に確立されていません。
そこで研究者たちは、ケラチノサイトと呼ばれる細胞で構成される人工皮膚を成長させ、電気信号は増幅しやすい土台を開発しました。
研究では、糖尿病患者のケラチノサイトに電気刺激を送ると、健康な皮膚細胞と同様の治癒速度まで上がることが分かりました。
典型的な治癒が遅い創傷は、感染症が発生し、治癒がさらに遅れるリスクを高めます。
深刻なケースでは切断に繋がる可能性もあり、治癒にかかるプロセスをスピードアップすることは、患者も医師も研究する価値が十分にあると考えられます。
次の目標は、実験室で成長させた皮膚細胞ではなく、生きている人間の傷に対してどのように機能するかをテストすることです。
アスプルンド氏は、「私達は現在、様々な皮膚細胞が刺激に対してどのような作用をするのかを調べています。傷をスキャンし、個々の傷にどのような刺激が適応を可能なのかを研究開発したいと考えています」と述べています。
・傷を治癒する際、細胞間では電気信号が活発にやり取りされる
・電気信号をコントロールすることで治癒が早くなる結果が示された
・糖尿病モデルの細胞が、通常の細胞と同等の回復を見せた
・治癒のスピードは最大3倍程度まで結果が得られた
病気によって傷の中が遅くなる人にとっては、まさに革新的な研究であると言えます。
この分野の研究が進めば、傷の治癒だけではなく、様々な細胞の活性化が可能であるとも考えられ、それこそ健康寿命の増加や、老化防止などにつながる新しい研究分野が確立されるかもしれません。
こういった技術革新を経て、寿命という死の砂時計を気にしなくなる世界が来るのかもしれません。
できれば生き続けて技術の革新を目にしたいものですが、それまでこの身体が持つかどうか……。
そういったことを考えるのも、生きることの楽しみかもしれませんね。