2022年09月JAMANetworkに掲載された信州大学の研究から、子どもに限らず大人でも「注意欠如・多動症(ADHD)」の新規診断数が増加傾向にあることが明らかになりました。
研究では2010~2019年度の日本におけるADHDの診断率がベースとなっていますが、2012年に日本で初めて成人に対するADHD治療薬が承認されたり、病気が広く認知されるようになったことが、診断数増加の要因ではないかと疑われています。
ADHDの増加は日本だけでなく世界的な問題となっており、なぜ増え続けるのかを明らかにすることは、病気の理解や今後の医療の展望を探る上での重要な課題です。
今回のテーマは、そんな「ADHDの増加に対する研究者の見解」についてです。
参考記事)
・ADHD Diagnoses Keep Rising Higher. This Is Why It's Happening.(2024/11/19)
参考研究)
・Too Much, Too Mild, Too Early: Diagnosing the Excessive Expansion of Diagnoses(2022/08/06)
従来、注意欠如・多動症 (ADHD) は子どもの5〜6%程度にみられると考えられていましたが、近年の実際の診断率はこれをはるかに上回るものとなっています。
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によれば、2022年には子どもの11.4%がADHDであると診断されています。
また、スウェーデン保健福祉庁の報告によると、2022年にはスウェーデンの男子の10.5%、女子の6%がADHDと診断されており、これは2019年から約50%の増加を示しています。
この増加傾向が続くと、最終的には男子で15%、女子で11%に達すると予測されています。
このようなADHD診断の急増はなぜ起こっているのでしょうか?
研究者らは、その主な原因と考えられる8つの要因を以下のように説明しています。
かつて、医師は診断マニュアルに従い、患者に対して最も目立つ症状に基づいた単一の診断のみを行うことが推奨されていました。
また、ある症状の組み合わせ、例えば自閉症とADHDの同時診断は避けられる傾向がありました。
しかし現在、精神保健医療の現場では患者の症状や行動を包括的に把握するために、必要なだけ多くの診断を行うことが推奨されています。
これにより、同じ人物に複数の診断が下されるケースが増え、ADHDの診断が増加する一因となっています。
近年、ADHDについての認識が大幅に向上し、次世代の医療専門家たちがより高い知識と意識を持つようになりました。
この進展により、以前は見逃されがちだったグループ、特に女性や成人に対しても診断が行われるようになりました。
ADHDはもともと男性に多く見られる傾向があるとされていましたが、最近の研究では女性や成人においても症状が認識されるようになり、より早期に診断が行われるようになっています。
時代とともに、社会においてADHDに対する偏見が減少しています。
以前はADHDの診断を受けることに対する抵抗感が強かったため、医師も診断を行うことをためらう傾向がありました。
しかし、ADHDがより広く認識されるようになると共に、偏見が薄れ、診断を受けることが恥ずかしいと感じる人が減ってきました。
今では、多くの人々にとってADHDは自己認識の一部として受け入れられやすくなっており、診断がその人のアイデンティティの一部として捉えられることも増えています。
ADHDは病気ではなく、認知特性の構成がうまく機能しないために問題が生じる状態とされています。
注意力や自己管理能力といった認知特性は一般社会にも見られます。
しかし、SNSが普及し、自他の情報が簡単に開示される現代社会はますます複雑で、こうした能力がより高く求められるようになっています。
そのため、平均よりも低いレベルの認知スキルを持つ人々が日常生活で困難を感じやすくなり、結果としてADHDの診断が増加しています。
個人や他人のパフォーマンスや健康に対する期待がますます高くなっています。
これにより、自分や他人の機能に対して不安を感じる人が増え、それをADHDが原因であると考えるようになっています。
また、平均的な健康やパフォーマンスの基準も以前より高くなっており、人々が自分や他者の状態について早期に問題視しやすくなっているため、ADHD診断の増加につながっていると考えられます。
教育の方法が急速に変化しており、デジタル化、プロジェクトやグループベースの学習、自己主導型の学習が一般的になっています。
このような変化は、明確な学習環境を提供することが難しくなり、特に生徒自身の動機付けや認知スキルが要求される状況が増えています。
ADHDの傾向がわずかでもある生徒にとっては、これらの環境で成功することが難しくなり、学校側がADHDの可能性を疑って診断を依頼するケースが増えているのです。
多くの国では、診断を迅速に受けられるようにするための政策的な取り組みが進められ、診断件数をさらに増加させる要因にもなっています。
診断が増えることで支援の対象者は増えますが、逆に診断を避けるための対策、例えば学習環境や職場を改善して神経多様性に配慮する取り組みは、後回しになる可能性があります。
多くの社会で、ADHD診断は支援やリソースへのアクセスに不可欠な条件となっています。
診断を受けなければ必要な支援が得られないため、ADHD診断を求める人が増加しています。
加えて、支援サービスを提供する機関が診断を受けた人にしかサポートを提供できない場合もあり、そのため診断があることでより多くのサポートを受けられるようになります。
このような背景により、医師が基準緩和を行い、診断基準を完全には満たしていない場合でもADHDと診断されることがあります。
・ 同一人物に複数の診断が行われるようになり、ADHD診断が増加している
・複雑化する社会と教育環境の変化、健康や認知スキルへの期待の高まりが診断数増加に影響
・支援が診断に依存しているため、診断が必要とされる状況が診断数を押し上げている
かつてはADHDのような症状があったとしても、「やる気がない」、「サボってる」で片付けられていたことも多くあったことでしょう。
自分も心当たりがあるので他人事とは思えません。
しかし現在ではそういった行動の根本が、神経伝達物質やホルモンが正常に働いていないことからくるという研究報告も散見されます。
ではなぜ体の恒常性が損なわれているのかというと、その多くは食事や運動といった人が本来行うべき行動が乱されていることが原因だったりすることが多いです。
食事や運動についてさらに理解を深めるとしたら、腸内細菌の状態や免疫の撹乱など知るべき内容は深くなっていきます。
塾講師というの職業上こういった様子の生徒も多く見てきたため、経験も踏まえて日々新しい発見がある面白い分野でもあります。
引き続き、長い人生の中でためになりそうなことを発見したら自分なりに共有していこうと思います。