地球の地表を昆虫が這い回るようになったのは、今からおよそ4億8,000年前の古生代デボン紀頃と推定されています。
昆虫は長い時を経て、現代にも空を飛んだり、地中に住んだりとユニークな進化をしてきました。
そんな進化の中でも海に生息する昆虫はほとんどなく、科学者たちは、その理由を解明しようとしてきました。
今回は、そんな昆虫が海に少ない理由について迫った研究のお話です。
参考記事)
・Surprisingly Few Insects Live in The Ocean, And We May Finally Know Why(2023.5.13)
参考研究)
東京都立大学生命科学科博士の浅野維起氏ら日米の研究チームは、海に住むの昆虫が少ない理由を説明する発見をしたことを主張しました。
彼らは、MCO2(マルチコッパーオキシダーゼ-2)と呼ばれる昆虫の殻の硬化を助ける酵素が関係していると考えています。
浅野氏の以前の研究では、昆虫が、酸素分子とMCO2を利用して丈夫な外層を硬化させる特別な機構を進化させてきたことを示しました。
これは、環境における化学物質の豊富さと昆虫の外骨格の重さによって決まるとされています。
研究チームは、「昆虫の出現は地球上の生命の進化における重要な出来事であり、生物が新しい陸上生態系に適用してったことを強調している」と述べています。
地球上で最も成功した(繁栄している)生物の一つは、昆虫と言われています。
節足動物門の最大のグループである彼らは、全ての陸生生物の中で最大の生物量を占め、地球上の生命のバランスを維持する上で重要な役割を果たしています。
昆虫は甲殻類の祖先から分岐し、陸上生活を発展させてきましたが、どちらも依然としてワックスでできた外骨格と、キチンと呼ばれる炭水化物を基とした丈夫な表皮を持っています。
この表皮は、私たちの皮膚と同様、余計な水分や細菌の侵入を防ぎ、外部の圧力から体を保護したり、体の形状や可動性を維持するのに役立ちます。
しかし、甲殻類は主に海水からのカルシウムを使用してクチクラを殻に形成しますが、昆虫は分子状の酸素を使用し、MCO2によってクチクラを耐久性のある外皮に変えます。
浅野氏らは、陸地は、海と比べると空気中に酸素が多く存在するため、昆虫にとってより良い住みやすい場所になったと主張しています。
一方、海では十分な酸素が無く(陸上の30分の1)、彼らにとっては過酷な場所となっていることに加え、既に多くの適応した種が存在するため、海で生態系を維持することが難しいと考えられます。
昆虫にとって有利なことは、昆虫のクチクラはMCO2経路を通じでより硬く乾燥し多かれ少なかれ羽毛と同じくらいの軽さを再現しながら保護的な生態素材を作り出します。
これは甲殻類の殻密度と石灰化レベルが直接比例するため、殻の密度が遥かに高く、空中での生活には適さない甲殻類と比較すると大きな違いです。
昆虫はMCO2の作用のおかげで植物に登り、滑空し、最終的には飛ぶ能力を発達させ、より活発に動き回るようになった可能性かあります。
また浅野氏らは、MCO2を持っていない昆虫の近縁種にも注目しました。
トビムシや六脚類を含むその他の節足動物は、MCO2の遺伝子を持っていません。
研究者らは陸地での生活に適用した、節足動物は昆虫だけではないため、海洋環境から陸地に適応するためには、MCO2が必須ではないと指摘しています。
しかし、クチクラを使った独特な機構は、昆虫が陸上環境に適応するためにどのように進化したのかについて多くの情報を提供してくれます。
「昆虫がMCO2を介したシステムを獲得していなかったら、昆虫の進化と成功は現在観察されているものとは大きく異なっていたかもしれない」と研究チームは結論付けています。
・昆虫が陸地に適用するようになったのはMCO2という酵素が関係している
・酸素を利用した軽くて丈夫な外骨格形成は海では適応しにくい
・しかしMCO2が、海洋から陸上に進出するための絶対条件ではない
猛毒で知られるウミケムシなども虫ではなくゴカイの仲間だったりと、海に住む昆虫はほとんど発見されていません。
その理由も、今回の研究によって理由が見えきたようですね。
もしかしたらまだ調査が及んでいない深海などには、未知の昆虫などがいたりする可能性もあります。