2023年現在、世界では3億4900万人が人口増加による深刻な飢餓状態にあるとされています。
今まで炭水化物からエネルギーを得ていた人も、嗜好品としての肉や魚の生産に穀物を使い、タンパク質を消費するようになった背景もあります。
人口培養肉は、そういった地球規模でのタンパク質不足、ひいては食料不足の解決策の一つとして期待されています。
今回は、そんな人口倍夜肉の最前線の研究についてのお話です。
参考記事)
・Another Step Away from the Farm: Meat Grown from Immortal Stem Cells(2023.5.14)
参考研究)
・Immortalized Bovine Satellite Cells for Cultured Meat Applications(2023.5.145)
細胞農業(cellular agriculture)によって何百万人もの人々に食料を供給できるようにするには、いくつかの技術的課題を克服する必要があります。
タフツ大学細胞農業センター(TUCCA)の研究者らは、急速に増殖し、数百回、場合によっては無限に分裂できる“不死化牛筋幹細胞(iBSC)”の開発に成功しました。
この研究によって、世界中の研究者や企業が家畜の生検から繰り返し細胞を調達せずに、研究開発ができることが期待されます。
細胞培養肉の生産には、非常に高い成長能力と分裂能力を備えた筋肉細胞と脂肪細胞が必要です。
細胞培養肉は、FDAによる培養鶏肉の予備承認や、マストドンのDNAで培養されたハンバーガーなどの例で、メディアの注目を集めていますが、製品は依然として高価であり、規模を拡大するのは難しいです。
動物から採取された正常な筋幹細胞は通常、老化し始めてから死活するまで、およそ50回しか分裂することができません。
TUCCAのチームが開発した不死化細胞なら、通常の細胞以上に、食肉用の培養肉が大量生産できる可能性があります。
また、不死化細胞を広く利用できるようにすることで、細胞農業の参入障壁が下がり、コスト削減や生産規模の拡大に対する課題の克服方法が見つけやすくなります。
タフツ大学院生のアンドリュー・スタウト氏はこう言述べています。
「通常、研究者は動物から幹細胞の短里を独自に行う必要がありました。これには費用と労力の他に、マウスの筋細胞など関連性の低い主からのモデル細胞株を使用する必要がありました」
「これらの新しいウシ細胞株を使用すると、研究の関連性が高まり、文字通り、研究の核心に迫ることができます」
通常のウシ筋幹細胞を不死化ウシ筋幹細胞に変換するには、2つのステップが鍵でした。
第1のステップは、染色体を若い状態に保たせることです。
ほとんどの細胞は分裂して老化するにつれて、テロメアと呼ばれる染色体の末端にあるDNAを失い始めます。
これによって、DNAがコピーまたは修復される時にエラーが発生する可能性があります。
また、遺伝子が失われ、最終的には細胞が死滅する可能性もあります。
研究者らは、テロメアを常に再構築するように、牛幹細胞を操作し、染色体を若々しい状態に保ち、常に複製と細胞分裂に備えることが出来るようにしました。
第2のステップは、細胞分裂を継続させることです。
分裂を刺激するタンパク質を継続的に生成させることで、分裂のプロセスを止めることなく、細胞の成長を促進さることを可能にしました。
筋幹細胞は、まだ私達が食べているような食肉のような状態ではありません。
私達がステーキやフィレ肉で食べる筋肉細胞と同じ、または非常によく似た成熟した細胞に分化する必要があります。
研究チームは、動物の筋肉細胞や、従来の牛幹細胞などの筋肉細胞とは、完全に同一ではないものの、新しい幹細胞が筋肉細胞に分化したことを発見しました。
スタウト氏は、「自然の肉の風味や食感を再現できる可能性は大いにあります」と述べています。
この研究から、不死化細胞を食べることが安全なのか疑問に持つ人もいるかもしれませんが、“細胞が調理や消化を経て継続的な増殖することはない”と明言されています。
・細胞の寿命が関係しない人工培養肉が開発された
・これまで問題となっていた、規模の拡大やコスト面などの課題も解決が可能
・食料問題の新たな解決法となる可能性を秘めている
流通や政治的な問題によって、飢餓状態の国の国民へ食糧を渡すことができないという点もあります。
しかし、不死化細胞培養肉によって、これまで食肉を生産するために必要だった穀物の消費を抑えることができるのは、食糧問題の解決の糸口になるかもしれませんね。
また、長期的にこの培養肉を摂取した場合の健康面への影響も議論されることになるでしょうが、それはそれで科学の発展によって巻き起こる論争として楽しみです。
それにしても完成した培養肉がどのような味なのか、一度食してみたいものです。