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"志"で二酸化炭素は減るのか?環境省ブロックチェーン実証

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  • MALIS
  • 2018/08/10 22:31

さて、前回から見ている環境省のブロックチェーン実証事業。

この実証では、個人が削減したCO2(二酸化炭素)排出量を企業が買い取る、というのが大きな取り組みになっています。


自分が削減したわけじゃないのにズルくない?と思った方。

実は、CO2削減量を取引するという考え方はけっこう一般的だったりします。

例えば、CO2削減量に価値をつけて売り買いする”カーボンオフセット”という考え方は、ヨーロッパでも日本でも以前から導入されています。さらに大規模なものになると、国の間で取引をする”二国間クレジット制度”なんてのもあります。

これまでは取引の仕組みが煩雑だったのですが、今回の実証のようにブロックチェーン技術を用いてP2Pで実現されるとなると、確かにわずらわしさが減るかもしれません!


ただし、ここから辛口になるのですが、この実証でよくわからない点が3つほどあります。

・CO2排出量は減るのか?

・過去の失敗を繰り返さないか?

・仕組みは目的にあっているか?

一つずつ見ていきましょう。



1. CO2排出量は減るのか?

さて、今回の実証の目的ってなんでしたっけ?

環境省への提出資料によると

<目的>
既存の再エネ設備や未利用の再エネポテンシャルの最大限かつ効率的な活用

となっています。

"既存の再エネ設備"、ということはソーラーパネルの数を増やしたいわけではないと考えられますよね。

では最大限に効率的に活用ってどういうこと?

考えられるのは、

(1)設置したのに自家消費も売電もされず、捨てられてる発電がある?
これは私も詳しく知らないですね。普通に考えたらソーラーパネルを設置した人は元とりたいので売るか自分で使うかすると思いますが、、、

(2)FIT制度終了後に使い続けてほしい?
前回記事でご紹介したFIT制度では、10年間は電力会社が買い取ってくれます。普通に考えたら、10年たった後もそのままソーラーパネル載せといて自分で使ったらいいとは思いますが、何らかの理由で外したい人がいる?

ただですね、どんな場合であっても、ソーラーパネル設置時に国や自治体から補助出てるところ多いはずなんですよね。FIT制度に至っては皆さんの電気代からですし。

Content image
太陽光設置は補助金&FITが投入されています

それなのに更にインセンティブを与えていいんでしょうか?やり過ぎではないでしょうか?納得できる理由が薄い気がします。


更に言うとですね、

"環境価値"の価値ってなんでしょうか?

今回って、"ある時点からCO2を削減した量"ではなく、"単に太陽光発電持ってて自家消費した量"にお値段つきますよね?つまり今まで自家消費してた人でも値段つくんですよね?


それ、CO2排出量を"減らした"って言えるんでしょうか?


いえないよね?


現状でもできていることにインセンティブを無理くり付与しているように見えるのは私だけでしょうか、?


2. 過去の失敗を繰り返さないか?

次に、気になるのが枠組みです。

ビジネスモデルと言ったほうがいいのかもしれません。


CO2削減量につく環境価値って、すごく"人工的"ですよね?

食品や石油みたいに直接使うことはできない。ブランド価値ともまた違う。よって、「欲しい!」と思う人を頑張って作り出さないといけなくなります。


環境省の資料を見ると、定価ではなく市場で価格が決定されるように見えます。


企業にとっては、"環境価値を買い取ってCO2排出量を減らす(実際は減らないけど)と優遇や認証が受けられる"、というのがインセンティブですが、そこまでの強いインセンティブを創れるのでしょうか?そして、企業が買いたいだけの環境価値が家庭での消費から生まれるのでしょうか?


実は、カーボンオフセットという取組みは世界的に失敗に終わっています。

需要が下がりCO2取引の価格が下がってしまったのです。さらに、企業が買取りだけして自社でCO2排出量削減の取組をしなくなったという批判もありました。

こういった問題点は今回も起こりうる。しかし、過去の失敗を回避するための工夫は見えません。


3. 仕組みは目的にあっているか?

最後に気になるのは、仕組み。

Content image

この絵によると、DGC-Cとかいうなんらかのセンサーが必要ということになっていますが、だれが負担するのでしょうか?

また、今回のブロックチェーン技術を用いたシステムにかかるCO2排出量は、どう評価するのでしょうか?


もしこれが、さらなるCO2排出量削減を目指す施策なのであれば

減ったCO2>システムで出たCO2

でOKですよね?

でも、今回はさらなるCO2排出量の削減を目指しているように見えない。となると、システム分のCO2排出量だけ増えるんじゃ?



、、、

というわけで3つの疑問をみてきました。

私も公表されている資料を読んだだけなので、ここに書いたことは既に全部クリアされているかもしれません。また、環境省の範疇でとなると、こういうやり方になるのかもしれません。

もしかしたら今回の実証は個人(世帯)の"環境スコア"のようなものを創出し、社会で適用していくような壮大な話なのかなとも思いますが、、

誰か詳しい方、教えてくれたら幸いです。




少し辛口にはなってしまいました。

が、なんだか、個人が環境価値を持つ、という点に重きが置かれていて、大きな目的であるCO2排出量削減に結び付かないなというのは正直な感想です。

コインテレグラフさんの記事に今回実証に参加されている電力シェアリングの酒井代表の言葉が載っています。

「環境価値とひとことで言いますが、例えば大規模なメガソーラーの生み出すCO2の削減価値と、志を持った地域の個人宅が少しずつ生み出した価値は、果たして等価でしょうか?私は違うと思います」


少し極端な解釈になるかもしれません。しかし私には、そこに志があるかどうかで環境価値が変わるように聞こえるのです。


ならば今一度聞きたいのです。

この事業の目的は何なのか?個人の志は、その美しいストーリーは、CO2排出量を削減してくれるのか?世界を救うのか?


私たちが今直面している気候変動は、

そんなに甘くない。

そして真っ先に犠牲になるのは私たちじゃない、

CO2排出量の少ない発展途上国の人々です。

Content image


この実証結果をうけて創られる施策が、大きな目的に沿い、気候変動を止める一助になっていけばいいなと思っています。


MALIS

エネルギー夏期講習はまだまだ続きますよ、お楽しみに!


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公開日:2018/08/10
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エネルギー政策専門のコンサルタントです。ニューヨークにいることが多いのでこちらの情報発信が多めになる予定。Twitter: @mari_saita

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