翌日、社員旅行の帰る日。
子供達は、朝6時頃に、みんな起きてしまっていた。
大人達は、まだ寝ている。
我々子供達は、退屈だったので、テレビを見る事にした。
当時のテレビは、100円入れると、3時間見れるテレビだった。
テレビの上には、夜に子供達が見れる用に100円玉が数枚置いてある。
そのお金を入れて、我々は、朝のアニメを見る事にした。
テレビを付けたら、いつも放送している、鉄人28号がやってない。
それもそのはず、当時の鉄人28号は、Uチャンネルでやっていた。
このUチャンネルは、地方テレビ専用チャンネル。
我々は仕方ないので、トランプで遊び、朝の退屈しのぎをした。
朝7時頃になると、大人達がノソノソ起きてくる。
父親も起きてきて、俺を見るなり、いきなり朝風呂に行こうと言い出す。
俺は、朝風呂なんて習慣が全くなかったけど、とりあえず付いて行った。
お風呂場に行くと、「男湯」と「女湯」が入れ替わっていた。
俺は、女子が入っているかもしれないと、ちょっとしたドキドキがあった。
でも、当然男しかいなくて、少し残念な気持ちになった。
でも、その奥には、昨日入った混浴の大浴場がある。
そこには、誰もいなかったので、せっかくだから泳いできた。
温水て泳いだのは、昨日が初めてで、まだ何か変な感じがする。
俺は、温水で泳ぐ事に違和感を感じ、すぐに大浴場から出てしまった。
多分、温水で泳ぐと気持ち悪くなり、体調がおかしくなったからだと思う。
そして8時頃、朝食が運ばれてきた。
昨日の夜の豪華な食事とは、うって変わり、雑炊が出た。
でも、こっちの方がまだ、昨日の夜の海鮮料理より食べられる食事だった。
俺は、前日でた鯛の生き作りの、口パクパクが怖くて忘れられなかった。
そして朝食が済み、10時頃、旅館を後にした。
この後「銀河鉄道999に乗りに行こう!」と言われ、俺はびっくりした。
本当に「そんな物があるのか!」と、感動してしまった。
到着した場所は「京都鉄道博物館」
そこに、単線の短い距離を、往復運転してくれる蒸気機関車があった。
電車好きの俺は、猛烈に喜び蒸気機関車を1周し、飛び跳ねて喜んだ。
でも、レールの先を見たら、宇宙の方向に延びてない。
それ処か、地獄の入り口っぽいトンネルに、レールが向かっている。
なんとなく解っていたけど、やっぱり銀河鉄道999なんて実在しなかった。
ちょっとガッカリした。
俺は、蒸気機関車の前面にあるプレートを見てみた。
そうしたら、きちんと999のプレートが付いていて、気分が出た。
しかしその上のプレートには「D-51」と書かれている。
銀河鉄道999は「C-62」だ。
おれは、ここで更にがっかりした。
せめて、「蒸気機関車位「C-62」にしてくれよぉ~」と嘆いた。
そして、偽999に乗り、旅に出かけてきた。
トンネルに入る時、窓を閉めるように放送が流れる。
煙が客車の中に入り、すすだらけになってしまうからだ。
窓を閉めて、トンネルに入ると、壁に宇宙の絵がライトで照らされている。
俺は、それを見て「星野哲郎」の気分を味わった。
そして、俺の目の前にの席に、メーテルがいる様な気がた。
でも、視線を前の席に向けると、いたのは母親。
俺はこの瞬間、一気に雰囲気を、破壊されてしまった。
そして「アンドロメダ」と書かれた駅に到着した。
俺は、色々幻滅させられたので、駅名を見ても、もう平気だった。
この駅の街は、お土産屋がたくさん立ち並ぶ、お正月の神社みたいな街。
蒸気機関車の次の発車時間は、4時間後。
この機関車に乗って、また鉄道博物館に戻るらしい。
その間に我々は、お土産を買う事にした。
俺はここで、大きなちょうちんを買って貰った。
何故ちょうちんだったのか?
それは、中にろうそくを入れて、光らせる事が出来たからだ。
何だか解らないけど、俺はとにかく光る物が好きだった。
夜中に光る街、クリスマスツリーの電飾、鉄道模型の光る車両、大好きだ。
そんな光を見ていると、何かワクワクする。
多分、日常が窮屈で、その光に1人だけになれる世界を感じていたと思う。
そして帰り。
蒸気機関車が、客車に向かって前向きで、最後尾にくっついていた。
なんだか、変な形の鉄道で、かっこ悪かった。
俺は、かっこ良いと思っている、勝手な電車美学があったからだ。
俺はまだ、物の構造と、その結果できた形なんて理解できなかった。
銀河鉄道999とは、思っていたのとだいぶ違う。
そう、ガッカリした旅だった。
鉄道博物館駅に到着し、タクシーで新幹線の京都駅に向かった。
帰りの新幹線で俺は、またビュッフェに行きたくなった。
あの、車内の窓からの景色を見て、食事するのが凄く嬉しかった。
そしてまた、父親に連れってってもらい、マロンパフェとミルクを頼んだ。
この、新幹線の中のレストランで、動く景色を見ながら食事をする。
何だかこれが、最高の贅沢に感じ、この瞬間が凄く高揚する。
もう頭の中は、ナウい男の世界に入り込んでいた。
その後、席に戻りしばらく外の景色を見ていた。
でも、結局途中で眠くなり、また寝てしまった。
目が覚めた時は、東京駅についていた。
何だか、凄く懐かしい故郷に感じる。
この夢の時間が終わる事が、凄く悲しくなってきた。
この頃の俺は、少しのお別れも、なぜか心がきしむ位悲しくなっていた。
でも、無情にも解散して、みんな家に帰宅していった。
俺は、この後しばらく、この旅行の夢の世界の感覚を、忘れられなかった。