7歳の時。
「小沢孝之」君と言う同級生がいた。
その子の親は、普通の大人より怒りっぽい。
感情のコントロールが上手くできない、心の病気の両親だった。
そんな大人の子供は、変わっていると感じていたが、全然普通だった。
少し大人しいが、むしろ俺より、人付き合いが上手い子だった。
でも何故か学校を、よく休む。
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先生の話では、学校をさぼっていたようだった。
俺は、たまに来る小沢君に、学校をさぼる理由を聞いてみた。
そうしたら、誰にも会いたくないからだと言う。
そんな事言ったら、俺だって毎日誰にも会いたくない。
1人で、本屋に行き、マンガを1日中立ち読みしていたい。
でも、強制的に学校に行かされるから、我慢して行っていた。
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実は、義務教育は、法律上義務であって、行かなくても別に良い。
でも自宅学習で、小中の卒業認定を受けないとならない。
この認定を受けないと、子供が保護施設に入れられる可能性がある。
でも、たまにしか小沢君は、学校に来ない。
当時の俺は、小沢君の心境が解らず、悪い子だと感じていた。
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小沢君は、学校に来てもおとなしい。
おとなしいと言うか、誰からも話しかけられないでいる。
クラスのみんなも、学校をさぼる悪い子だと感じていたらしい。
そのせいで、みんな関わらない様にしている空気感があった。
そんな中、小沢君は、毎日しょんぼりしている。
俺は、それを見て可愛そうに感じてしまった。
ある時、小沢君に、一緒に帰ろうと誘ってみた。
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授業が終わり、小沢君と一緒の帰り道、少し家の事情を教えてくれた。
親は、すぐ怒り、ヒステリックになると言っていた。
そして小沢君は、家に帰りたくないと言うので、そのまま俺の家に来た。
当時俺の親は、共働きで、学校が終わって帰っても誰もいない。
この時、小沢君とプラモデルで一緒に遊んだ、
しばらくしたら、小沢君が家に帰ると言う。
俺は、恐怖の親がいる家に帰らないとならないなんて、可愛そうに思った。
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小沢君が家に帰る時、ランドセル置いたら、すぐ俺の家に来てと約束した。
でも、ずっと待ってても小沢君が来ない。
そこで、小沢君の家に行ってみる事にした。
小沢君が住んでいる団地に前に来たら、もの凄い泣き声がした。
その方向を見てみると、窓についている落下防止の狭い柵に、人がいる。
この狭い所に、小沢君が挟まり窓を閉められ閉じ込められていた。
そして、凄い声で小沢君が泣いて、声が辺り1面響き渡っている。
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俺は何事かと思い、小沢君の家に急いで向って、ドアのブザーを鳴らした。
この時、俺と遊ぶ約束をしていると言えば、小沢君は解放されると思った。
そして出てきたのは、小沢君の母親。
小沢君と遊びたいと言うと、寄り道したから叱っているのでダメだと言う。
そして俺は、この母親に、門前払いを食らってしまった。
でも心配だから、団地の目の前の公園で遊びながら、様子を見ていた。
しばらくしたら、警察の人が小沢君の家に向かって行くのが見えた。
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俺は、小沢君の家に向かう警察の人の後ろをついて行った。
家に着いた警察の人は、体罰のやりすぎだと通報を受けてきたらしい。
しかも、過去何度も通報を受けている、常習犯みたいだ。
俺も、何度か小沢君がドアの柵に出されているのを見た事ある。
しかも、大泣きしているから、辺りに声が響き渡っていた。
どうやら、そのたびに警察の人が来て、母親を説得していたらしい。
そして、警察の説得を受け小沢君は、解放された。
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この後、小沢君の母親が怖くなり、家に変える事にした。
そして数か月後、小沢君は、大事件を起こしてしまう。
当時住んでいた、埼玉県三郷市には、武蔵野線が走っていた。
三郷駅の脇は、土手になっていて、武蔵野線の目の前まで行ける。
当然、線路と土手の間には、柵が張ってあった。
でも1部分、人が線路内に入れる隙間があった。
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ある日の朝礼の時、校長先生が重大報告があると言う。
小沢君と言う生徒が、線路内に入り、レールに石を置いたそうだ。
その小沢君の姿に、運転手が気がつき、急停車した。
そして、駅員もその小沢君の姿を確認して、即捕まえたみたいだ。
結果、武蔵野線が1時間動かなかったらしい。
脱線はしなかったが、乗客や後続車の人達に、多大な影響が出たと言う。
しかも、新聞の端っこだが、この事件が掲載されてしまった。
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当然、小沢君は警察署に連れられ、親も呼ばれ、罰金も発生しただろう。
担任も、校長先生も呼ばれに違いない。
当時の俺は、事の重大さが解らずにいた。
あの線路に、あんな隙間があったら、誰でも入ってしまうじゃないか。
そう感じて、小沢君は、悪くないと思ってしまった。
俺だって、あの隙間から線路に入って、遊んでみたいと感じていた。
でも、何だか怒られるような気がして、その隙間に入れずにいた。
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その後、小沢君は、学校に来なくなってしまう。
家の前に行って窓を見ても、カーテンがいつもしまっていた。
先生に、何度も小沢君の行方を聞いても、答えてくれない。
いったい、あの石置き事件の後、小沢君がどうなったのか心配でだった。
でもある日、小沢君の事を、ふと母親に話してみた。
そうしたら、衝撃的な事実が解った。
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小沢君は、特別な施設に入れられたらしい。
石置き事件が原因ではなく、母親の精神疾患が原因みたいだ。
俺は、確かにあの親の元で育てば、子供も理性を保てないだろうと感じた。
毎日が怖くて、気が狂いそうだと想像できた。
俺は、小沢君と会えなくなり、凄く寂しい。
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別れはいつも、俺の気持ちを無視して、強制的にやってくる。
そう感じて、凄くやるせない気持ちになっていた。
この大人の理不尽な強制に、怒りも感じていた。
あの、いつも学校でしょんぼりしていた顔が忘れられない。
でも、あの親から解放されて、幸せになれたのかな?
そう思えた。