5歳の時。
三郷団地の、天使幼稚園に通っていた。
クラスは、れんげ組。
幼稚園の自由時間、俺はみんなと遊べなかった。
人見知りで、クラスのみんなと遊べなかった。
遊ぶ場所は、決まって外のお砂場。
俺は、自由時間になると黙って、1人で砂場に向かって行った。
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砂場には、いつも誰もいない。
砂場で自由に、山を作り穴を掘っていられる。
その1人の場所が凄く好きだった。
ある時、1人の女の子が砂場に来た。
その女の子も、1人で黙って砂場で遊んでいた。
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その女の子は、砂場で、団子をたくさん作っている。
俺は、その女の子に「なに作っているの?」と声をかけてみた。
そうしたら、クッキーを作っていると言う。
俺は「クッキーて、こんな形だったかな?」と不思議に思った。
確かもっと、ひたべったかったはずなんだけど。
そう感じて「クッキーは、もっと平らだよ」と言ってみた。
そうしたら「私の家のクッキーは、こんな形!」と、怒られてしまった。
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俺は、以前に母親とクッキーを作った事がある。
クッキーの生地を母親が作り、型を取る作業を俺がやった。
その時、確か平べったい生地に、アルミの動物の形の物を押し当てた。
そして出来たのが、平べったい動物型のクッキーだったはず。
でも、その女の子は、丸いお団子のクッキーを砂場で作っていた。
俺は、女の子が砂場で作ったクッキーを見て「そんな馬鹿な」と感じた。
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俺は、その女の子が作っているクッキーが、凄く変な物に感じてしまった。
そして思わず「そのクッキー変だよ」と言ってしまう。
そうしたら「なら、あなたの家のクッキー見せて」と言われてしまった。
この時ちょっとムキになっていて「良いよ」と安請け合いした。
俺はこの時、母親に言えばスグに本当のクッキーを見せてくれると思った。
そんな話をしていたら、先生が砂場に迎えに来て、自由時間が終わった。
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そして、帰りの時間。
砂場の女の子に、我が家のクッキーを見せようと、声をかけようとした。
でも、名前が解らない。
名札を見ると「はやかわゆき」と書いてある。
俺は、その名札を見て「ゆきちゃんと呼んで良い?」と聞いてみた。
そうして、ゆきちゃんは「うん」と答えてくれた。
ゆきちゃんも俺の名札を見て「ゆたかだから、ゆーくんね」と言ってくる。
俺も「それで良いよ」と言い、お互いの呼び名が決まった。
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俺は早速、ゆきちゃんの手を引っ張り、母親の所に向かった。
そして母親に「ゆきちゃんに、クッキー見せてあげて」と頼んでみた。
母親は、唐突な俺の頼みに、ビックリした顔をしてる。
そしたら「まず、この子誰?」と聞いてくる。
更に「クッキーなんて今すぐは無理よ」と言われてしまう。
俺は、とりあえず、新しい友達の「ゆきちゃん」を紹介した。
そしたら、ゆきちゃんの母親らしき人が、こちらに向かってくる。
そして、俺の母親と、ゆきちゃんの母親が初対面した。
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俺は「クッキーが平べったい物だと絶対見せなきゃ」と興奮していた。
母親達を見ていたら、何やら挨拶をして、クッキーの話もしている。
そして、母親達の話が終わり、意見がまとまったようだ。
内容は、明日は土曜日で、午前中に幼稚園が終わる。
なので、ゆきちゃん親子を家に招いて、午後からクッキーを作ろう。
そう言う事になった。
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そして翌日の午後。
幼稚園が終わり、昼食を済ませた後、ゆきちゃん親子が我が家に来た。
そしてスグに母親達は、クッキーの生地を作り始めてくれた。
俺と、ゆきちゃんは、その間一緒に遊んで待つ事になる。
この間、遊んでいた事は、お絵かき。
俺とゆきちゃんは、自分で見ても、よく解らない絵をかいていた。
お互いに「何かいてるの?」と聞いても、返事は「わかんな~い」だった。
でも我々は、自分の世界に没頭していた。
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そして、クッキーの生地が出来上がり、テーブルに置いてくれた。
その生地は、平べったい生地。
この生地を見たゆきちゃんは、ビックリした顔をしている。
俺は、その顔を見て「どんなもんだい」と、鼻高々だった。
そして、ゆきちゃんは、クッキーは平べったい物だと納得してくれた。
その後、我々は、動物型の型で、クッキーを切り取って作った。
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クッキーを切り取っていくと、最後に枠の部分が残る。
俺は、その枠の部分を細く伸ばして、とぐをろ状に巻いて行った。
そう俺は、うんちを作りたかったのだ。
出来上がったクッキーウンチは、自分でも惚れ惚れするほど芸術的だ。
俺は、このうんちの形に、超ご満悦になる。
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この時、クッキーうんちの出来栄えの良さに、しばらく見とれていた。
そうしたら、俺の視界に、ゆきちゃんの腕が大きく入ってきた。
その瞬間、芸術ウンチを「バチン!」と叩かれてしまった。
そして、ペチャンコにされてしまう。
思わず「うわ!」と叫んで、もの凄いショックを受けた。
俺は、涙目になり、ゆきちゃんを見ると「うんち嫌い!」と叱られた。
仕方ないので俺は、ぺやんこのうんちで、違う形をる来ることにした。
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クッキーの生地は、粘土みたいで凄く色々な形が出来て楽しい。
でも、どれも上手に作れず、何度も色々な物に作り替えた。
それでも、下手くそすぎて、上手く行かない。
俺は、何とか上手に作れる形がないかと、生地をクルクル回していた。
そしてふと、その丸めてた生地を見てみた。
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そうしたら、もの凄くツルツルで綺麗な玉が出来ている。
それは、直径5㎝位の玉だった。
俺は、この綺麗でツルツル玉のクッキーを見て、芸術的だと感動した。
そして「よし!俺のクッキーはこれにしよう!」そう決めた。
でも、この芸術的なクッキー、どこかで見た事がある。
確か、ゆきちゃんが砂場で作っていた、あの丸い玉のクッキー・・・。
あの時ゆきちゃんが作っていたクッキーは、これだったんだ!と気がついた。
あれは、自分でも芸術的だと納得出来る、この世界一のクッキーの事だった。
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俺は、このクッキーをゆきちゃんに見せた。
「俺が作った世界一のクッキーは、ゆきちゃんのクッキーだったよ!」と。
そうしたら「でしょー」と言って、凄く喜んでくれた。
でも、横で見ていた母親達は「これを焼くのか?」という目で見ていた。
早川家の玉クッキーは、直径1㎝以下の小さい玉だから焼けたらしい。
でも、この玉は、直径5~6㎝位ある大玉。
果たして母親達は、上手に焼く事が出来るのだろうか?
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でも俺と、ゆきちゃんで「絶対これを作って!」と頼んで焼いてもらった。
そして母親達は、悪戦苦闘しながら何とか完成させてくれた。
出来上がったクッキーは、黒い玉にしか見えない。
でも、砕いてもらって、何とか食べる事が出来た。
味は、ちょっとほろ苦くて甘いクッキーだったけど、大満足だった。
だって、ゆきちゃんの、世界一のクッキーだもん!。