8歳の時の夏休み。
夏休みには、宿題以外の課題があった。
自由工作と、ラジオ体操の参加と、プール授業参加。
その中でも、プール授業の参加は嫌いだった。
それは、毎回寒くて震えるまで泳がされるからだ。
授業の終わりに、15分だけ自由時間があり、その時だけは楽しかった。
俺はこの自由時間はずっと、日向ぼっこをして体を温めていた。
この時間が、なんとも幸せで気持ち良かった。
こうして俺は、毎年日焼けをしてこんがり肌になった。
でも日焼すると、すぐに体が真っ赤になって痛い。
そして1月位は肌が黒いが、すぐに元に戻ってしまう。
元々の肌が、そんなに強くはなかったからだ。
プール授業参加で、たまに流れるプールを作る事があった。
これは凄く楽しい。
みんなでプールの外側を、同じ方向に移動して、1方向に流れを作る。
そして、急速なプールの流れを作り出す。
この流れに乗ると、浮いてるだけで凄く早く移動できて楽しい。
なんだか、宙に浮いて飛んでるみたいだった。
この感覚が大好きだった。
流れるプールの時だけは、授業に参加して良かったと思った。
プール全体の水の勢いを、強く流す作業は意外に簡単だった。
体の小さい子供達だけで、短時間の内に作れてしまう。
大きなプールの、大量の水をここまで動かせてしまう事が不思議だった。
俺は、人が集まった時のマンパワーを、この時初めて実感した。
プールの授業の最終日。
毎年恒例のイベントがあった。
それは、プールの中に大量の缶ジュースを沈め、素潜りでそれを取る授業。
取った缶ジュースは、もちろん飲んで良かった。
数は1人1個までだった。
俺は、素潜りなんて出来なかった。
潜ると、鼻に水が入って嫌な気持ちになる。
でも、みんなは素潜りで缶ジュースを取っていた。
だんだん缶ジュースの種類もハズレしか無くなっていく。
缶ジュースの種類は、何種類かあった。
サイダー、コーラ、推力、サーチ、Hi-cオレンジ
その中でも、推力と、サーチは、激烈マズい。
Hi-cオレンジは、酸っぱくて飲めない。
俺が飲めるのは、サイダーと、コーラだけだった。
俺は、缶ジュースをなかなか素潜りで撮る事が出来ず、躊躇していた。
そうしたら、もう推力と、サーチと、Hi-cオレンジしかなくなった。
その中でも、殺人味の推力とサーチだけは避けたかった。
俺は、覚悟を決めて、Hi-cオレンジに向け目をつぶり潜った。
そうしたら、運よくHi-cオレンジが取れた。
Hi-cオレンジは酸っぱいが、推力や、サーチよりは遥かにマシ。
この時は、もう生きた心地がしなかった。
まさに命がけのダイブだった。
これで、何も取れなかったという恥は避けられた。
俺は、素潜りの任務が無事完了して安堵していた。
でもHi-cオレンジは、余り物でハズレ組の1員だった。
みんな、推力とサーチとHi-cオレンジは、嫌いだったのだ。
だから、コーラとサイダーは、真っ先にみんな取って行った。
俺は、この時ペケ組で情けなかった。
でも、ふと横を見ると、サーチを取って泣いている女の子がいた。
同じクラスの子だった。
多分サーチは、猛毒だと知っていて嫌で泣いていたのだろう。
俺は、Hi-cオレンジが好きじゃなかったから、その子にあげた。
そうしたら、近くにいた先生に褒められてしまった。
俺は、この時女の子の前で先生に褒められ、女子の勇者になった。
何気ない行動だったが、超ラッキーだ。
そして夏休みが終わり、意気揚々と学校に登校した。
実はこの時、プールの参加日が2日足りなかった。
もちろんこの事は先生にばれて、猛烈に怒られる事になる。
クラスの女子達の目の前で…。
勇者だった俺は、こうして一気に悪の大魔王になってしまった。