4歳の時、弟が生まれた。
この時、三郷団地に引っ越してきたばかりで、我が家は慌ただしかった。
俺は、何も引越しの手伝いが出来ずに、ただ眺めているだけだった。
父親は、引っ越しの荷物を整理して、母親は、弟に付きっきり。
俺は、全然遊んでもらえず、1人で遊んでいた。
この時ブロックが好きで、自分でも良く解らない物をたくさん作っていた。
多分、ロボットや、飛行機や、電車を作っていた気がする。
ある時、引っ越しの荷物の中から、古い置き時計が出てきた。
この置時計は、今では考えられないゼンマイ式の置き時計。
以前住んでいた、お祖母ちゃんの家に飾ってあったものだ。
しかも飾ってあっただけで、使用していなかったはず。
その使わない時計が、何故ここにあるのか不思議だった。
俺は、その置き時計をおもむろに手に取り、ゼンマイを回してみた。
そうしたら、この置き時計は、きちんと動く。
ゼンマイを回すと、何で動くのか不思議で、ずっと見入ってしまった。
この時、中身がどんな風になっているのか、猛烈に興味が湧いてしまった。
俺は、この時計のゼンマイを少し巻いたら、動く時計に凄く興味がわいた。
そしてしばらく、そのまま見入ってしまっていた。
ゼンマイが止まったら、またゼンマイを巻いて見入った。
こんな事を、この日1日繰り返していた。
次の日、母親にこの時計がどうやって動いているのか聞いてみた。
でも母親は、弟の面倒で忙しくて、解らないとしか返事をしてくれない。
仕方ないので俺は、またゼンマイを巻いて動きを眺める。
でも、どんな風に動いているのか全然わからない。
まるで、魔法で動いているとしか思えなかった。
俺のこの時計への興味は、最高潮に達していた。
そしてこの日、母親と弟と一緒にお風呂に入った。
この時に、また時計はどうやって動くのかしつこく聞いてみた。
でも、中身を見た事ないから解らないの一点張りだった。
でも俺があまりにもしつこいので、時計を分解してあげると言ってくれた。
俺は、この事が凄く嬉しくて、ワクワクが止まらなくなった。
そしたら弟が、湯船の中でウンチを出して、俺のワクワクが一気に冷めた。
俺は、ビックリして声を出し、急いで湯船から上がった。
この時、一気に天地が逆転した気持ちを、痛烈に味わってしまった。
翌日、母親の家事が1段落した午前中。
俺は、母親に呼ばれて時計の中身を見せてもらえる事になった。
この時計は、何故か全部マイナスねじで止まっている。
そして母親が、時計の裏側を、マイナスドライバーで開けて行った。
時計の裏側が空いて、やっと中身を見る事が出来て感動した。
でも、時計の機械部品がもの凄く多く、見ても全く解らない。
俺は、この複雑な部品を外したら、もう二度と元には戻せない事を悟った。
なので、簡単な所から外して、理解していこうと思った。
だけど、理解できる箇所なんてどこにもない。
俺は、ただゼンマイを回して、機械の動きを見ているしかなかった。
でも、この複雑な機械の動きを見ているだけで、なんか凄く楽しい。
ゼンマイを回すだけで、全ての部品が一斉に動き出す。
これが凄く快感で、見る事をやめられず、1日中眺めていた。
そして俺は、何日も眺め続けて、それだけで1日を過ごしていった。
そうしている内に、動きの構造を、どうしても知りたい衝動に駆られた。
この気持ちを我慢できず、ある日この時計を分解し始めてしまった。
時計を分解する時、もう元に戻せなくても良いや、と言う気持ちだった。
この気持ちのまま、どんどんねじを外して、分解していく。
そして、ほとんど分解しきって、部品を見てみた。
時計の部品は、全て色々な形をした歯車だけだった。
この大量にある歯車がかみ合って、あの複雑な動きをしている事は解った。
でも、どういう風に動いているか解らず、もう元には戻せない。
それでも、たくさんの歯車がかみ合って動いていた事に感動した。
部品の中に、1つ変わった部品があった。
それは、薄っぺらい金属がグルグルに巻かれている物だった。
この部品は、バネの様に動き、動力源なんだろうなと言う事だけ解った。
それ以上は、何も解らなかった。
でも俺は、この部品が集まり、どんな動きをするのか理解したかった。
そして、考えながら部品を1つ1つ組み合わせて元に戻していく。
しかし、完全に俺の理解の範囲を超えていて、全く解らない。
それでも理解したくて、何日もずっと組み立てていった。
俺はこの時、気が狂った様に夢中になり、完全に異世界に入り込んでいた。
でも最終的に、結局何も解らず、お手上げになってしまう。
そしてそのまま、直せず終いで放置してしまった。
今となっては、機械式時計がどう動くかなんとなく解る。
当時の、あの燃え上がる程の夢中力は、凄い情熱的だったと感じる。
あの時の俺は、気が狂った様に一心不乱で夢中になれていた。