去年の今日、facebookでアイヌ語について根拠のない説を書いていた人にした自分のコメントが出てきた。
わたしのコメント
(1)「ミヤゲの語源はアイヌ語で肉(ミ)を与える(アンゲ)から来ています」
この説は梅原猛の『森の思想が人類を救う』というトンデモ本から引用されましたか? 僕の知る限り、その他には、みやげの語源としてこう解釈しているものはありません。ネット上にいくつかあったとしても、全部梅原に行き着くと思います。
ちなみにアイヌ語でふつう肉はkam、与えるはkoreがすぐ出てきますが、かなり大きな辞書でも、ミや、アンゲに相当する語は、ありません。感動的な?物語のためなら、梅原はすぐ作り話をするので注意が必要です。もし、Sさんが、梅原以外の文献や辞書から裏をとっておられるのなら、勉強になりますので、教えてください。
熊はカムイとするが、豊富な鹿はカムイが投げ与えたものとし、鹿自体をカムイとしないなど(だから鹿送りの儀式はない)、アイヌ文化にも、え?と思うところはあるので、すべて美しく考えるのは、ちょっと待てよという思いが僕にはあります。けっこう現実主義的であると思います。だからといってアイヌへの敬愛の念が減じるわけでもありませんが。
(2)マラプトというアイヌ語はあります。意味はしとめた獲物です。梅原は確信犯的にいろいろなものをまぜこぜにしているのではないでしょうか? まれびと、まろうどという客人を表す日本の古い言葉はあります。マラプトという古い日本語は聞いたことがないです。しかし、マラプト(しとめた獲物)というアイヌ語と客人(まれびと)という日本語は音が似ているのは確かですね。正確に言えるのは、以上のことであって、そこから梅原は「わざと」いろいろを混ぜながら、想像を「権威ある説」に練り上げている気がします。
ミアンゲの方はアイヌ語はないです。この文章は久しぶりに見ましたが、(今、人の家にいるので書斎に行けず、昨夜は遠い記憶で書きました。)非常に曖昧な文章ですね。読んだ人は、熊は、ミアンゲをもってやってくるマラプトであると読んで、10中8,9、「ミアンゲ」というアイヌ語もあり、日本語のみやげと音が似ていると考えますね。それとマラプトのことが混じります。マラプトの方は本当にまれびとと関係している可能性がありますが、ミアンゲは捏造、身をあげるは創作なので、全体としてもやもやします。しかし、書き方や、森の思想という骨格の欺瞞も含め、『森の思想が人類を救う』といって、アイヌと日本というものをなだらかに繋がるものとして、日本礼賛をいつのまにか成立させてしまうこの本はトンデモ本だと僕は思いますね。むしろ、アイヌと倭人の切断面をしっかり見据えて、倭人がアイヌを侵略した歴史を告発するべきところ、いつのまにか、アイヌの美徳を日本の美徳にする。そのために縄文まで遡って、繋ぐ。そういうレトリックがあると思います。
梅原は中曽根のブレインとして日本文化研究センターの所長をつとめ、左翼衰退後の「日本すごい!」のバックラッシュの立役者となった人のひとりです。
スピヴァグは、失われた起源への郷愁に気をつけることは帝国主義批判の中でとても重要な位置を占める仕事であると言っています。
(3)ちなみに僕が『森の思想が人類を救う』をトンデモ本と考えた主たる理由は細部の嘘とは別に、日本は森林を大切にして今に至るという骨格部分が嘘であり、マレーシア他でひどい森林伐採を強行することで、自国の森林をやや多く残してきただけからです。
だから、よくある、アパホテル的な日本礼賛トンデモ本のひとつと思います。