ホラーゲームの変革が止まらない。デジタル社会におけるホラーゲームのシェイプはこれまでのような「不気味な雰囲気」を醸し出すことだが、既にそれはホラーゲームとしての体裁の一つ、という表現に過ぎなくなった。なんの悪びれるそぶりもなく、ただプレイヤーが感じるままに恐怖を抱かせる。この走りを買って出たのが例のごとく有名な「Backrooms」だ。
Backrooms登場後も、Backroomsにちなんだ作品やチラズアートなど多くのホラーが出ることになった。今回は、2023年時点でのホラゲについて述べていきたいと考えている。
ホラーゲームとはいってもその種類は多く、日本風ホラーからゾンビ物、SCP系、そして今回紹介するBackroom系など挙げればきりがない。
今回取り上げている話題の中心にあるBackroomがなぜそこまで革新的だというのかといえば、ほとんどのホラーは恐怖の対象となる幽霊やポルターガイスト現象などの驚かせ要員的存在がある一方で、Backroomsにはないことが前提になっている点にある。つまり、プレイヤーを驚かせる要素が特に何もないのがBackroomsである、という点においてBackroomsが革新的だということだ。
とはいっても、下に紹介するBackrooms系ゲームでは、Entitiyといわれる存在が出てくる。これは明らかに上記の誉め言葉にはそぐわないものだが、Backroomsについての議論の軸は次に述べる「The Complex: Expedition」にある。
「The Complex: Expedition」は、都市伝説「The Backrooms」をベースにした一人称視点のホラーアドベンチャーゲームだ。プレイヤーは研究者として1988年の舞台に送り込まれ、チームと共に「Complex」と呼ばれる迷路のような空間を探索することになる。最終的に調査は失敗に終わり、プレイヤーは一人取り残されるという恐怖が物語の背景にある。Backroomの元ネタになったのは、Youtube上に投稿された動画だと言われていて、こちらの再生回数はすでに5000万回を超えている。
本作は早期アクセス版として提供されており、プレイ時間は約1時間程度となっている。
ネット上の評価では、「The Complex: Expedition」は非常に好評を博しているようで、Steamストアページのレビューではおすすめ率が93%と高い評価を受けている。ネットコミュニティでは、「雰囲気が好みすぎる」「実写のようなリアルさが怖さを増す」「バックルームのファンにとって嬉しい」「探索ゲームとして面白そう」といったコメントが寄せられているようだ。
本作の最大の特徴はホラーゲームに必要なホラー的要素が暗示程度でほとんどないということだ。いや、正確には「何もないからこそ怖い」というBackroomの基本的情緒をブラッシュアップした作品だと言ってもいい。
個人的には、このEntitiyが出てこないBackroomsこそ、本当のBackroomsではないかと考えている。なぜなら、Entitiyが出てくるBackroomsはSCPの延長のような作品になるからだ。SCPはすでに膨大な数のリストが完成しているが、それをBackroomsは目指しているのか、という疑念は、Backroomsにとってプラスには働かないのでは?と思う。何も出てこない、無人の空間が醸し出す恐怖こそBackroomsの神髄といえる。
次に、ほかのホラーゲームについても紹介していく。Backrooms系から、Chilla's art系まで、ここ1年での作品を中心に紹介していく。
兄者弟者がプレイしている「Inside the Backrooms」は、マルチプレイで謎解きをしながら進行するホラーゲームだ。プレイヤーは敵に追いかけられながらも仲間と協力して進み、クリアを目指す。このゲームはソロプレイも可能だが、協力することで難易度が下がり、プレイしやすくなるため、マルチプレイを推奨している。
「Inside the Backrooms」は個人製作のホラーゲームで、比較的安価な価格で購入できる。YouTubeでも話題になっており、プレイする価値があると評されている。
本作では、Backroomに出てくるEntityが忠実に実装されている。上述したThe Complex: Expeditionとは異なり、恐怖の動機(san値下落要因)がEntityによっておこる場合が多い。つまり、Backroomsの最たる部分である「空間恐怖」要素がほとんどなくなっている。その代わりEntityが怖い、というのが本作の特徴だろう。
ガッチマンがプレイした「徹夜報告書 | Midnight Report」は、日本の個人ゲーム制作者によるインディーホラーゲームだ。ゲームのテーマは、学生の焦燥感を描きながら、日本式の機能建築や古民家を使って陰鬱なジャパニーズホラーを表現している。
プレイヤーは課題の締め切りに追われる学生として、恐怖に包まれた地下室や廊下、部屋を探索していく。ゲームの雰囲気は2000年代の代表的な国産ホラーゲーム『SIREN』や『サイレントヒル』に似ている。
本作はChillas art氏が手掛ける作品に似ている一方で、「夜間警備」や「例外配達」「夜勤事件」などの作品とは少し趣を異にするように思える。というのも、この作品に出てくる機関車トーマスのような化け物がある程度怖いからだ。それだけで、普通にホラゲーとしては成り立つように思える。
兄者弟者の弟者がプレイしている「DREDGE」は、不気味な海の釣りに挑むフィッシングアドベンチャーゲームだ。プレイヤーは漁師として雇われ、霧に包まれた海で漁を行う。物語は前任の漁師が謎の失踪を遂げた港町「グレートマロー」にて始まることになる。Steamの評価で圧倒的好評を受けている本作は、ただの釣りゲーかと思いきや、ホラー要素が満載、かつストーリーが凄い傑作といわれる。
ゲーム内では、主人公は海の底に沈む「遺物」を探索し、忘れられるべきだった海の真実に迫るストーリーが展開される。プレイヤーはマイ漁船をカスタマイズし、漁具や船の強化を行いながら効率的な漁を目指すことになり、さまざまな魚を捕獲して船倉に収納し、物語を進めることで解放される「アビリティ」も存在する。
特に夜の海は危険で、霧に覆われ、怪現象が起こることから「パニック度」が上昇する。プレイヤーは夜の海での漁を続けることでさまざまな出来事に遭遇し、前任の漁師が失踪した謎を解明していくことになる。
Backroomsなどの作品とは異なり、探求型ADV的要素もあるため、どちらかといえばホラゲチックなホラゲではないものの、奥深いストーリーテリングやグラフィックのクオリティはやるだけでも引き込まれる何かを持っていると言わざるを得ない。