案内を受けて入った部屋は落ち着いた感じの高価ではあるが華美ではない品のいい家具で誂えられていた。元帥にして侯爵でもある参謀総長と謁見するにしてはあまり広い部屋ではなかった。
「まあ、気楽に掛けてくれたまえ」
優雅にお茶を手配させるとヤン・リン・シャン参謀総長は気さくに声を掛けてくれ、吾輩たちに高価なソファに座るよう勧めた。
「お初にお目に掛かります。エチーゴの商人ネコです。こちらは手代のサマンサです」
「ほう、そちらのシャム猫については紹介してくれないのかな?エチーゴから来た商人ネコとやら!」
「いえ、これは私のペットのコーネリアスです。どうにも目を離すといたずらしてしまうので、失礼を承知で連れて参りました」
取り繕う様にネコさんが、吾輩を偽名で紹介したにゃ。
参謀総長は揶揄うような目で吾輩を睨んでいたが、やがて笑い出したにゃ。
「ふっ、ふふ。はっはは。伝説の船長が普通のシャム猫の恰好で現れてくれると。今日はいったい、どのような余興を見せてくれるのかな?」
やはり、切れ者!どうやったのかは知らないが吾輩たちの正体に気付いているにゃ。吾輩は首輪の偽装解除スイッチを操作して普段の黒いシャム猫の姿を晒したにゃ。
「これは、失礼いたしましたにゃ。改めて、太陽系《マンズーマ・シャムセイヤ》の船長を務める船長《キャプテン》ネコにゃ。どうぞ、お見知りおきを」
「ほう、噂通りの漆黒の毛並みを持つ宇宙に二匹といないシャム猫だ。すばらしい、遂に伝説の船長と面会できるとは。今日は至福の日だ!」
参謀総長が興奮気味に喜んでいるにゃ、吾輩もなんだかうれしくなって来たにゃ。うん? ネコさんが不審げに参謀総長を睨んでいるにゃ。
「差支えがなければ、船長の偽装を見破った理由を教えて欲しいものだわ」
「なんだ、そんなことか。まあ、これから腹を割って話すには種を明かした方が良いかも知れないわね」
参謀総長が右手で額を叩くと、第三の眼が現れ開いたのにゃ!
「三つ目か、真実を照らす第三の眼を持つ者。なるほど、それがあなたの切り札ね?」
「うん?いや、これで偽装を見破っただけだし。私の持ち味は底知れぬ叡智と類稀な美貌に加え深謀遠慮の術策なんだけどね」
ふむ、参謀総長やるな。ネコさんを手玉に取るとは。
「まあ、正体がバレているなら面倒くさいエチーゴの商人のペットの振りなどしなくても良かったのににゃ。
折角なので、そちらのメイドさんも紹介してくれると話が弾みそうなんだけどにゃ」
吾輩が参謀総長の後ろに控えて立っていたメイドの方を見つめると、メイドと参謀総長が素早くアイコンタクトを交わすとメイドが優雅に挨拶をした。
「流石は、伝説の船長。私はドロテア・バンパネラ伯爵、参謀総長に目を掛けて頂いて軍で装備品の研究開発を任されている。最近では白衣の魔女などと揶揄されることが多くなったがな」
「にゃるほどにゃ、ネコさんと話が合いそうな雰囲気がしたのはその所為か」
「ふーん、白衣の魔女さんか。やっぱり最近惑星グレイで悪さをしている熊人はあなたのとこの製品かい?」
「彼らは過酷な環境、高重力に対応しなければならなかったので少し科学の力を貸してあげただけよ。こっちも被験者が向こうから来てくれたのだから歓迎くらいするでしょ。その力を何に使うかまではこちらは関知しないわよ。
例えば、銃を売った客が護身用に使うか強盗に使うかなんて興味もないし責任も持てないわ」
白衣の魔女の弁明に一定の真実を感じたのか、ネコさんが引き下がった。
「では、私の方からも質問をいいかい?なぜ君たちは、我々を疑うんだい?既にシアー共和国の熊に変化した海賊も見たんだろうに、我々が裏で糸を引いてるなんて一体誰が君たちを唆したんだい?」
参謀総長が真っすぐな眼でこちらを見つめる、もちろん第三の眼も。
「我々に依頼してきたのは、クライナ共和国警察本部長だったにゃ。なんでも匿名のタレコミがあって中《アタル》帝国の関与の有無についても確認して欲しいとのことだったにゃ」
「ふむ、面妖な。誰が一体何の得があって帝国を陥れようとするのか?」