北の大陸の形状を一言で表現するのなら菱形の形をしていて西方向から南に巻き込む尻尾を持つ大陸と言えばいいのだろうか。
気候は北に位置する関係上穏やかではあるが最高気温二十五度、最低気温マイナス十三度、平均気温マイナス十度という涼しいというよりは寒い地方である。
「ふう、ようやく北の大陸アイドコに着いたことだし今日は北の珍味を食べまくるわよ!」
踏み固められた雪の道を歩きながらヒロイン未満腹ペコキャラのリサが奇声を上げるのをうんざりした顔で眺めるキール。新天地への反応の違いは寒暖差が激しい北の大地の影響だろうか?
「そう言うのはさあ、自分で稼げるような大人の女になってからにしてくれないかなあ。まだまだあっちこっち旅しなければいけないんだからよう。倹約と質素は美人の美徳だろ?」
「はん、どこの話よ。えっ、でも。私のことは美人って認めるのね、まあ趣味は悪くないみたいね、だけど・・・・・・
だったら、稼げばいいのよね?」
突如、雪煙をあげて斜面を転がりくる巨大な雪玉が二人を襲う。その雪玉との距離が三メートルと迫ったとき、突然動きが止まった。
「ふっ、見守ってくれるみたいね」
「不思議な技を使うんだな?てっきり、怖くて狙いが外れたのかと思ったぜ」
「ふうーん、じゃあ解るまでもう少し見ててよ」
リサが、短剣を右手に構えると雪玉の周囲を慎重にめぐる。不思議なことにいつの間に投げられたのかもう一本の短剣が雪面にそれも雪玉が落とす影に突き刺さっていた。
「ここね、エイっ」
リサが短剣を振ると、雪玉から真っ赤な血が噴き出すとともに苦悶の鳴き声が漏れた。やがて、雪玉が立ち上がり、それは実は白熊の魔獣であったのだが。白熊魔獣は引っ繰り返って息絶え、その姿はやがて粒子になって消えていった。
「ふう、いい稼ぎになったみたいね。五万霊子《レイス》、手に入ったわ。私が稼いだんだから、北の美味を堪能するわよ!」
リサは雪面から、短剣を回収するとキールにドヤ顔で宣言した。
「うーん、美味しい。キールも遠慮せずに食べなさいよ、今日は私の奢りなんだから、この凍った身を噛むシャリシャリ感と口の中で溶ける旨味、面白いわね」
「俺はルイベよりも羊のスペアリブの焼き肉が好きだな。やっぱり肉の旨味が違うよ」
「うん、焼肉も美味しいね。骨の周りの肉って、なんでこう美味しんだろ。やっぱ労働のあとのこの快感、癖になるぅ。
あ、このエビも甘くて美味しい。それにこのお酒と合うね。
すいませーん、追加注文お願いします」
「そ、そうだな」
(まだ、喰うのか?)
え?六万霊子・・・・・・
「ああ、なんだ。今日は俺が払っとくよ。なんだかんだで、俺もいっぱい食ったしな。明日からは、倹約モードで頼むぞリサ」
「えへ、ご馳走様。しかし、他所者だと思って料金高過ぎじゃない!」
「いや、二人で十人前も喰えば・・・・・・」
確かに二人が食事を堪能した店は、地元民で賑わう安くて美味しいと評判の店であった。