『うっ、しかしなぜ?あの者はとうに死んでいたはず、なぜ生き返ったのだ?』
(生き返った?
うっ、なぜ?そう思ったんだろう、そうだ!この者は姿は著しく変わっているが魔人バールの魔導の波動と似ている。
しかし、いくら魔人バールとの死闘で力を使い果たしていたにしろこんなちっぽけな猫、シャム猫?に私が一方的にやられるなんて・・・・・・)
「ふふ、何を不思議そうにしているだろうね。まあ、大勢は決したようだしお前の身体を食餌《リサイクル》しながら教えてやろうか?」
『つ、痛う。た、頼む・・・・・・ 訳も分からずに敵に葬られるのは承諾できぬ故』
苦痛に耐えながら、絞り盗られていく魔導の力の所為かたどたどしく敵に哀れを乞うホムンクルスの惨めな姿に留飲を下げたのかシャム猫が高らかに勝利宣言をするかのごとく語りだした。その小さな口はホムンクルスの血で真っ赤に染まっていた。
「くっくっ・・・・・・ やっぱり、やーめた。敵に情けなど無用、『悪魔に逢ったらぶった斬り、天使に遭ったら滅殺せよ』だったかしらあなたの言う魔導の神髄って?態々《わざわざ》敵に素性や動機、攻略に役立つ知識なんて教えてやるもんですか!」
かぷっ、ホムンクルスの左肘を噛み砕き咀嚼しつつシャム猫は笑いながら器用に嘲笑った。
『うっ、少し違うけど・・・・・・ 意味は合ってるみたいね。どう、私の弟子にならない?』
ホムンクルスの血が地面に散り、無数の魔虫たちが豊富な魔導の甘い匂いに釣られて群がってきた。
「ふふ、強がって見せてもねぇ。私より弱い者の弟子になどなるはずもなかろうが・・・・・・
ほんとにおもしろい奴だね、お前は!」
『くっ、お前は一体?誰なんだ、魔人バアルと似通った魔導の匂いを感じるが奴が蘇ったのとも違う、ようだし・・・・・・』
身体を這いまわるウジ虫の触感に、いつもは気丈なホムンクルスも弱弱しく尋ねるが。
「ふふっ、ベルゼブブの眷属に生きながら喰われるのもいいかもね。腸《はらわた》や目玉を食い破られて死んでいく無様を見るのも楽しそうね・・・・・・」
(そうよ、何もわからずに死んでいくのがいいのさ。マスタの寵愛を一身に受けたお前が悪いんだからね。
そう、あの日マスタが戯れに行った実験、魔界序列三十七、二十の軍団を統べる不死鳥とも呼ばれる魔人ポエニクスの寿命を確かめるために結界で拘束した上で時間を進め、その寿命周期が一四六一年であることを突き止めたときに助手を務めた褒美に私が貰ったポエニクスの黄金の羽で再びここに再誕したことなど・・・・・・
お前なんかに教えてやるものですか、これは私とマスタとの二人だけの絆、共有した秘密であり秘跡なのよ・・・・・・)