ああ、大分捗ったな。休憩でもするか。
とりあえず、速さと索敵能力それに複製《コピー》能力も手にいれることができた。俺は肩の凝りを上下に動かして解すと少し歩いた。目的の場所に着くと、勝手知ったる他人の茶器で適当にコーヒーを淹れて飲む。ふう、落ちつくなあ。
「あら、今度はなに?そんなに儲けさせて貰うのも悪いわね」
「そ、それならサービスにしてもらっても構わないんだけどな」
研究室で寛ぐ俺に、シャム猫のネコさんが何の用だとばかりに牽制してくる。
「いや、ちょっと一段落付いたからネコさんの意見も聞きたくてさ」
「どういうことかしら?」
「いや、この世界では魔法が使えるけど。その魔法の力、魔力ってどこから来るのかなと思ってさ?」
「???」
「いや、普通に考えて何もない所から炎や氷とか雷なんか出せないよね?」
「まあ、魔力を持った魔導師がいなければ、または誰かが事前に魔力を込めた魔道具が無ければ魔法は発動しないわね」
俺はそのとおりっ、と言う代わりに指を鳴らした。
「そう、だからたとえ、目には見えなくても力は確かに存在するなずなんだ。
それで、俺が前にいた世界では魔法の代わりに科学の力で、やはり目に見えない力の行使をしていた。
例えば、物凄く小さな小さな粒の中にはその物の性質を決める更に小さな粒があるんだ。それを陽子だとか中性子とか電子と呼ぶ小さな粒に分解したり、ぶつけたりするときに凄く大きな力を出すんだ。
だから、魔法にもそういった物があるんじゃないかと思ってさ」
「・・・・・・」
ネコさんは、まるで眩しい物を見るかの様に大きな瞳を細めてしばし、俺の顔をじっと見つめた。
「そうね、魔導、魔法の力にはそういった物もあるにはあるわ。でも、大抵の魔導師はそんなものは気にはしない。伝統に則って呪文や儀式を行うだけ。古い魔導書を読み解いて古くからの知識を何の疑いも無く使い潰すだけの輩が多いわね」
「そうか、やっぱりあるんだね。そういった力が。細かいことは流石に俺にとってもどうでもいいんだが。
一件気がかりなのは向こうの世界、地球の科学をここで使って大きな問題が起きないかと言うことなんだ。つまり、俺の造る月に行くための船にはとてつもない力が必要で地球の科学で行なうとしたらとんでもない大掛かりになるはずなんだ。
通常の方法だととてつもなく大量の燃料を燃やして飛ぶ、それも巨大な燃料タンクとエンジンを三つ、三段に積み重ねて燃料消費し終わるごとに切り捨てていって最終的には全体の十から五パーセントの飛行船だけが月に到着することになるんだ。すごい、無駄遣いになるけどね。
だから、少しずるをしようと思っている。先ほどの小さな粒をぶち壊すか、引っ付けるかして少量の燃料で月まで行く算段をしようかと思っている」
ネコさんは物騒な奴を見るような目つきで俺を見つめている。
それは、そうだ。俺が、言っているのは科学燃料ロケットでは燃料が膨大になり過ぎるので、もっと少量の燃料で飛行できる核分裂か核融合の原理によるロケットを使って宇宙船を飛ばそうと思うが、この異世界では問題ないだろうかと相談を持ち掛けているのだから。
「・・・・・・ そ、そうね。すこし、実験とか検証が必要ね。で、サンプルがあれば欲しいわね。その核分裂とか核融合とかの後に残る物質の素性とそのとき発生する大凡の熱量とかが判ればね。
たぶん、だいたいのところは推測できるわ」
「わかった、それについては後でサンプルを持って来るよ。
熱量についてもスマートフォンでネット検索してお知らせするから」
「だけど、本気で行くのね。月までは何かあってもこっちから支援は出来ないのよ」「ありがとう、心配してくれて。だけど、行かないことには始まらないんだ。俺の奪われた大切な物を取り返さないことにはね」