
アメリカンオプションは満期Tのどのタイミングでも行使可能なオプション。
このオプションの価値を考える。株式保有による配当はなしとする。
Callオプション(買う権利)の価値をVとすると、満期で行使した場合
V(T) =S(T)-K (≧0)
V(T):満期TでのCallオプションの価値
S(T): 満期Tでの株価
K:行使価格S(T)<Kの場合、行使しないのでV(T)=0
期間内のある時期t(<T)で行使したとすると
V(t)={S(t)-K}+{S(T)-S(t)}-{Ke^r(T-t)-K}
=S(T)-Ke^r(T-t)e:ネイピア数
r:金利それぞれの{}の意味は
{1} tでの行使価格との差額
{2} Tで行使した場合での損益差額
{3} 行使日から満期までの金利損失
満期で行使した時の価値V(T)と、途中で行使した時の価値V(t)のどちらが有利か、その差を考える。
i) S(T)>Kの場合...満期にCallを行使する場合
V(T)-V(t)={S(T)-K}-{S(T)-Ke^r(T-t)}
=-K+Ke^r(T-t) >0
ii) S(T)<Kの場合...満期にCallを行使しない場合
V(T)-V(t)=0-{S(T)-Ke^r(T-t)} >0
そのため常にV(T)>V(t)となり、期日の途中で行使しても有利ではないことになる。
これは途中で行使した後、株Sを持ち続けた場合である。
ではS(t)-Kで利益が見込めたと思ったときに行使して即売却すればいいかというと、それならショート握ればよくねってなるので、アメリカンCallオプションはヨーロピアンCallオプションと等しい。
続いてPutオプション(売る権利)の価値を考える。
Putオプションの価値Vは、満期Tで行使すると
V(T)=K-S(T) (≧0)
V(T):満期TでのPutオプションの価値
K:行使価格
S(T):満期Tでの株価S(T)>Kなら行使しないのでV(T)=0
期日途中tで行使すると
V(t)={K-S(t)}+{Ke^r(T-t)-K}
=Ke^r(T-t)-S(t)e:ネイピア数, r:金利
{1} tでの行使価格と株価との差額
{2} 満期Tまでに貰える利息の額
同様に満期行使と途中行使のどちらが有利か考える
i) S(T)<Kの場合...満期にPutを行使する場合
V(T)-V(t)={K-S(T)}-{Ke^r(T-t)-S(t)}
={S(t)-S(T)}-{Ke^r(T-t)-K}
S(t)>S(T), つまり①満期により株価が下がってなおかつ②金利運用での差額よりも株価が下がっていれば、満期に行使した方が有利。
ii) S(T)>Kの場合...満期にPutを行使しない場合
V(T)-V(t)=0-{Ke^r(T-t)-S(t)} <0
ii)の場合は途中で行使した方が有利となる。
i)の結果を踏まえると、アメリカンPutオプションは満期行使も期間内行使にも有利な場合が存在するので一概にどちらが優れているは言えない。
1) アメリカンCallオプションの価値を考えたとき、満期行使が常に有利なのでヨーロピアンCallオプションと変わらない。
C(A) = C(E)...式1
C(A):アメリカンCallオプション, C(E):ヨーロピアンCallオプション
2) アメリカンPutオプションとヨーロピアンPutオプションの価値を比較した場合、期間内に行使することで満期に行使するより有利になる可能性がある。そのためアメリカンPutオプションの価値はヨーロピアンPutオプションより高いといえる。
P(A) > P(E)...式2
P(A):アメリカンPutオプション, P(E):ヨーロピアンPutオプション
ヨーロピアンオプションでのPut-Call Parityは
Ke^(-rT)+C(E)+D = S+P(E)
Ke^(-rT)+C(E)+D-S = P(E)...式3
D:配当
式1, 2, 3より
P(A) > Ke^(-rT)+C(A)+D-S...式4
Callオプションと行使価格分のお金K、株を空売りポジSを持っているポートフォリオの価値Vを考える。時間0のとき
V(0)=C+K-S(0)...だいたいPutオプションと同じ価値
満期Tのとき
V(T)=max(S(T)-K, 0)+Ke^rT-S(T)
これとアメリカンPutオプションP(A)=max(K-S, 0)と比較すると
i) S(T)>Kの場合
V(T)-P(A) = {S(T)-K+Ke^rT-S(T)}-0
= Ke^rT-K >0
ii) S(T)<Kの場合
V(T)-P(A) = {0+Ke^rT-S(T)}-{K-S(T)}
= Ke^rT-K >0
つまりどちらに限らずV(T)=C(A)+K-S>P(A)...式5
式4, 5から
Ke^(-rT)+C(A)+D-S <P(A) < C(A)+K-S
Ke^(-rT)+D-S < P(A)-C(A) < K-S
S-D-K < C(A)-P(A) < S-Ke^(-rT)
S:株価
D:配当
K:行使価格
C(A):アメリカンCallオプションの価格
P(A):アメリカンPutオプションの価格
e:ネイピア数
r:金利
T:満期までの時間
アメリカンオプションはヨーロピアンオプションと違い、満期の前に行使することができる。ただし満期前の行使はオプションを持ち続ける価値(時間的価値, オプショナリティ)を放棄するので基本的に有利な戦略ではない。
じゃあ早期行使したら有利になる場面って? オプショナリティを単純に考えることができるオプションのデルタ(株価が上がったときのオプションの価値の変化比率)が1または-1のオプションは現物の株でそのポジションを持っているのと等しく考えることができるが、オプションは配当を受け取ることができない。ただし配当による株の上下の影響を受ける。なのでそういう、現在の株価より十分に低い行使価格のCallや高いPut(ディープインザマネー)は配当の影響を受ける。
Callオプションを早期行使して株の現物を手に入れる価値としては配当が出る時である。配当が出るとその分だけ株価が下がるのでCallの価値が減る。
Put-Call Parityに基づくと、Callの価値は
C = S-D-K+P
と表現できる。
オプションの価値 = 本質的価値 + 時間的価値
と分解できるとすると、Callの本質的価値はS-D-KなのでPutの価値がCallの時間的価値と等しいと考えることができる。配当落ち前日に同じ価格のPutの価値が配当より小さいならばCallを行使して配当を受け取るのが戦略として妥当になる。
P<D ならば Callを行使した方がい
PutもCallと同じく配当落ち日を基準に考える。というか株価が明確に動くタイミングが配当確定日以外ないからね。配当後は株価が低下するはずなのでPutの価値が高まる。その後はPutを行使して株をお金に変えて金利を稼ぐか、Putを持っている方がいいかは不明。
そこでまたPut-Call Parityを持ち出すと、
P=K+D-S+C
または、P=K-(S-D)+C
Putの本質的価値はK-(S-D)なのでCallの価格が金利で稼げる額より多ければPutを行使した方が有利になる。つまり、配当落ち日後に同じ価格のCallの価値が、Putを行使して得た現金の金利運用益より多ければPutを行使した方が戦略として妥当になる。
デルタが1より小さい(行使価格が低い)オプションも配当によって株価が低下すると1になることもあるので要チェックしよう。
ディープインザマネーのオプションは配当落ち日前後で確実に価値が変化するので、例えば配当落ち日前にCallをショートしていて、なおかつそのCallが行使されないとCallの価値が低下した分だけ儲けることができる。このオプション行使し忘れを狙う戦略が存在する。
Callを行使し忘れたということは反対にCallを売った側のポジションが残っているということ。
買われたオプションが行使されるとその行使価格のCallを売った側全体のプールからCallの行使が割り当てられる。実際の市場で割り当てられる枚数は未定だが、プール全体に対する保有量から期待値が割り出される。
そこで行使価格の異なるCallの売りと買いの両方のポジションを持って補完し合う2つのアカウントがあるとする。これらは実質無価値なアカウントである。これが配当落ち日前日にCallを行使し合うと、Callの売りポジションの解消がプール全体で比例的に割り当てられるため、2つのアカウントには未行使のCallが残ることが期待される。
行使価格K1, K2、行使されるCallの枚数がm1, m2、行使し忘れるCallがx, yずつあるCall市場に対して、それぞれにwずつのCallを売買するとする。

ここでアカウントA, Bとプールm1, m2それぞれがCallを行使すると、プール全体でwの行使が分割される。アカウントAはK2にw-w^2/(m2+w+y) = w(m2+y)/(m2+w+y)だけCallのショートが残ると期待できる。
同様にK1ではアカウントBにw(m1+x)/(m1+w+x)だけのCallのショートが残る。
この残ったCallのショートから得られる利益がポジションを取るための手数料もろもろより上回っていれば勝ち。個人投資家レベルだと無理な模様。
行使し忘れの数の見積もりとリスク許容度から考えていきたい。
同じく、Putのし忘れを狩るものも存在する。
配当スプレッドと同じく、補完的な2つのアカウントと行使し忘れアカウントを考える。

アカウントAがPutを行使したとすると、アカウントBはw^2/(m1+w+x)相当の株が割り当てられ、w(m1+x)/(m1+w+x)分のPutのショートが残る。
割り当てられた株と、アカウントBが元々行使価格K2に持っていたPutの数と合わせて正味の株のショートポジションはw-w^2/(m1+w+x) = w(m1+x)/(m1+w+x)
アカウントBのポートフォリオは
w(m1+x)/(m1+w+x)のPutのショート
w(m1+x)/(m1+w+x)の株のロング
となり、合計して0になる。
ただし、Putのショートで得て残った現金を金利で運用することで儲けることができる。
金利が小さいと金利スプレッドで得られる利益が減るので、手数料負けして低金利政策をしている国ではあまり通用しない。
資金調達のため追加で株式を発行する場合、元々の株価の価値が希釈することが考えられるため既存株主に購入権(ライツ)を与えるライツイシューという形がとられる。
i) 行使価格Rのライツ(購入権)がmだけ行使されると元々の株価S, 発行数wだった株の株価S'は
S' = (Rm+Sw)/(m+w) = (S+Rm/w)/(1+m/w)
m/wは1株あたりに付与されるライツの数を表現している。
配当Dがある場合、S' = (S-D+Rm/w)/(1+m/w)
とライツが行使される場合の株価を表現できる。
またライツの価値をkとすると
k=S-D-S'
k=S-D-(S-D+Rm/w)/(1+m/w)
=[{S+Sm/w}-{D+Dm/w}-{S-D+Rm/w}]/(1+m/w)
= {(S-D-R)m/w}/(1+m/w)
ii) 別手段でライツの価値を求めていきたい。「オプション価格式を用いて権利落ち後の株価と新株予約権の価値を計算する方法*」というものがある。
S' = S-{m/(w-m)}*[S*N(d)-Rm/w*{e^(-rT)}*N(d-σ(v)*√T)]
σ(v) = S'(w+m)σ(s)/[S{w+m-mN(d)}]
d = [ln(S/(Rm/w))+(r+{σ(v)^2}/2)T]/[σ(v)*√T]
σ(s)は株のボラティリティ
rはリスクフリーレート
Tはライツ満期までの期間
N(x)は標準正規分布の累積密度関数
と表現できる。このS'を使ってライツの価値kを考える。
元々株価Sをx枚持っていたポートフォリオがy枚割り当てられたライツイシューの前後によって価値が変わらないとすると
Sx = S'x + ky
これを市場全体に当てはめれば
Sw = S'w +km
k = (S-S')w/m
= (S-S')*(m/w)^(-1)
この2通りで導いたkを比較する。
i) k = S-D-S'について
S' = (S-D+Rm/w)/(1+m/w)
(1+m/w)S' = S-D+Rm/w
D = S-(1+m/w)S'+Rm/w
となり、代入すれば
k = S-{S-(1+m/w)S'+Rm/w}-S'
= S-S+(1+m/w)S'-Rm/w-S'
= S'm/w-Rm/w
= (S'-R)m/w
ライツ落ち日後の株価と行使価格の差に1株あたりのライツをかけた値、つまるところライツ1つが稼ぐ額である。
ライツ落ち日後の株価が行使価格に近付くほど、この額は小さくなる。
ii) k = (S-S')w/mについて
ライツ前後の株価の価格差にライツ1つあたりの株数をかけた値、つまるところ株1つがライツ・イシューによって失った価値である。
ライツ落ち日後の株価が行使価格に近付くほど、この額は大きくなる。
と、ライツ落ち日後に株価が下落し、ライツの行使価格に近付くほどi)とii)の価格差は広がるが、十分に離れているほど価格差はなくなる。
ライツ・イシューによって新規株が発行されるものの、何も補償がされない場合を考える。つまり行使価格も枚数も変わらないとする。
ライツ・イシューによってSwだけあった価値がS'w+kmへ変化する。
株価は下がる見込みがあるのでCallオプションの価値は低下し、Putオプションの価値は上昇する。
そのため、配当と同じくディープインザマニーのオプションにおいては、ライツ落ち日にCallを早期行使してライツ・イシューによる利益を稼いだり、ライツ落ち日後にPutを行使すると儲けられる可能性がある。
*ライツ・イシューの株価への影響と事例分析, 本山 真(2010)










