自分用
「ビットコインのマイニングは、実は『儲かる』とは言いづらい。」――そうおっしゃったのは、金融やリスクの専門家である東京大学・内田勝男教授でした。
ではなぜ、ビットコイナーたちは熱狂しているのか? また、その熱狂を冷ますことは本当に可能なのか? 今回は後編として、ビットコインなどの暗号通貨における『分散型取引プラットフォーム』(DeFi)について解説します。
DeFiとは何か? 仮想通貨取引所の多くは、ブロックチェーンに取引データを記録しています。
そして、記録データは暗号化されているのですが……これはつまり、ブロックチェーン上に記録されているデータの中身は、他のユーザーからは見えないということです。
仮にブロックチェーン上のデータを書き換えられたとしても、誰も気がつかない――この性質を利用して、不正な取引が行われないようにしたのが、『分散型台帳技術』と呼ばれるシステムです。
ここまでAIのべりすと
以下ほんぺ
東京大学 内田善彦教授「二週間前に女子高生だった男の方と話せるのが刺激的」
研究テーマ: リスクマネジメント・金融論・環境と金融
最大の興味: ROEやPLで表現できない情報を金融取引にどうやって反映させるか
ビットコインって何だろう
PLとROEからは表現できない金融情報を扱う手段としてスマートコントラクトに期待している
経歴: 日本銀行25年→金融庁3年→東京大学
立ち位置: 規制当局の立場から見ている
PLとは
損益計算書は、会社の利益を知ることができる決算書類です。
損益計算書は、収益・費用・利益が記載されており、英語の「Profit and Loss Statement」を略して「P/L」とも呼ばれます。決算時に収益から費用を差し引いた利益を知るための書類なので、会社が「費用を何に使って」「どれだけ売上が上がり」「どれくらい儲かったのか」を読み取ることができます。
ROEとは
ROE(自己資本利益率)は、株主資本利益率ともいわれています。「その株に投資してどれだけ利益を効率良く得られるか」ということを表しており、株主から見て収益性の指標になります。
ROE(%)=当期純利益÷(純資産-新株予約権-少数株主持分)×100
会社の資本は、おもに株主が出資した自己資本(純資産-新株予約権-少数株主持分)と、銀行をはじめとした金融機関などからの借入金や社債などで調達した他人資本に分かれます。そのうち、自己資本は資本金をはじめとした法定準備金や剰余金などの合計になりますが、株主の持ち分にもなります。
貸借対照表上の純資産(資本金)から少数株主持分と新株予約権を除いた金額を自己資本(あるいは株主持分)といいます。その自己資本を効率的に利用して利益を上げたかどうかを判断する数値がROEというわけです。
一般的に10%を上回ると優良な企業だといわれており、投資価値のある会社だと判断されます。ただ、日本企業の場合には平均ROEが5%程度
「財務レバレッジ」も考慮する必要はあります。
財務レバレッジとは、自己資本に対する他人資本の割合を示す負債比率(負債÷自己資本あるいは、負債÷総資本)を指します。
ROEに似た指標として、ROA(Return On Asset)という指標があります。日本語では総資本利益率といわれており、内容自体もROEと似ています。計算式は以下のようになります。
ROA(%)=当期純利益÷(純資産+負債)×100
ROAは分母が純資産ではなく総資産(純資産も負債も資産として含めたすべての資産)になります。また、ROEと異なり、負債を考慮した数値になるため、ROEとROAの2つの数値を活用して会社の経営分析ができます。
ROEが高くROAが低い場合=大きな負債を抱えており倒産リスクを持っている可能性がある
ROEが低くROAが高い場合=財務レバレッジを活用できていない可能性がある
ROAは5%以上で投資価値がある会社だと判断されます。
ROEは株主の投資額に対してどれくらいのリターンを持ち帰ってくるか。
会社運営では株主からの出資金だけでなく銀行などから借りて資産を増額して大きな勝負をすることができる。
その借入金の割合が財務レバレッジであり、借入金込みでのリターン計算がROA。
内田「リスクはそれぞれの方で違うので二人がリスクについてどう考えているかを聞きたい」
東「将来に対する不確かさ。リスクの定義から離れるが、ある程度わかっているリスクと想定外のリスク」
なまはげ「不確かさというとアップサイド/ダウンサイド両方ある。リスクとして嫌だと思うのは起こる可能性が低いものの起きてしまうこと。かつ影響が長引くもの」
東「日常的に起きていることはリスクではない。大きい不利益がリスク」
内田「ファイナンスの教科書におけるリスクは単なる不確実性。単なる不確実性というと上下の幅、ボラティリティの水準が高くてリスクがあると表される。リスクと資本・収益の関係を教科書的に表すと分母は不確かさ=リスク、分子は利益とできる。リスクに対する備えが資本であり、つまり資本=リスクとなる。つまり資本が分母で利益が分子=ROEになる。そのためROEを非常に重要な経営指標として考えようと教科書的に言われている。
実感としてはダウンサイドがリスクと考えられる。金融以外のことを考える時はもっぱらダウンサイドのことが取り上げられる。
金融には倒産という概念がある。先進国の金融ではバランスシートがマイナスになることはない。
どんなに大きな借金をしても命を取られる代わりに破産をすればいい。
自分のクレジットに対するオプションを持っていることと同じになる。
リスクは将来予想外の事象が発生し、自分の資産=資本に毀損が生じること。
1. 想定外の事象が発生すること
2. 自分の資産がマイナスの影響を受けること
の2つが組み合わさった概念がリスクと定義して進めさせていただければ、リスクという概念と金融事象の橋をかけることができ、最適な金融行動を議論できると思う」
東「有限責任の話はDAOに関わってくるだろうと思った。」
メモ
利益/不確かさ(ボラティリティ) = 利益/資本 = ROE
ここでのリスクとは
1. 想定外の事象が発生すること
2. 自分の資産がマイナスの影響を受けること
リスクへの備えが資本
==========
東「過去にリスクが大きくなってしまった事例は」
内田「どの事象を例示するかで年齢が分かる。ブラックマンデー、アジア通貨危機、リーマンショック・サブプライム危機・欧州ソブリン危機。
どれも同じで、当然明日起こると思っていたことが起こらなくて、市場参加者が驚いて、みんな同じ方向に動いて、株式市場・為替市場・国債市場で大きな価格下落が生じている。
今の金融当局はそういう事象がまた起こるだろうけどうまく処理したい、未然に防ぎたいと思っている」
東「どういうことが起きたか、共通部分は何か」
内田「ビットコインの過去の価格履歴を例にすると、2018年~2021年6月までは下がらなかった。過去データを使っても下がるという履歴がない。金融の世界では実務・技術・統計学的な観点から過去5年を見る。5年間で一回も価格が落ちたことがないものは、ビジネスチャンスを失うため落ちる可能性を考えたくなくなる。右肩上がりのマーケットではダウンサイドのリスクを気にして積極的なビジネスをしなければ他の人に負けることが分かっている。
長いダラダラとした上昇が続いてたら市場参加者のほとんどが上昇を期待する。そこに突然2%~3%の下落が来るとドミノ倒しが発生する。
事象が発生した後にドミノ倒しが発生する下地が構成される。
ダラダラと長い上昇が続くとドミノ倒しの原因が積み上がる。
それがシステミックリスク=金融市場が金融システムとして上手く機能しなくなる事象」
東「ここ最近のクリプトはまさに全体的に上がっているし、全体的に複雑化していて下地が出来上がってきてる」
なまはげ「DeFiは特にそうだが、下がることを前提に設計しているシステムはほとんどない。瑕疵があったらトークン発行で埋め合わせするノリ。市場が支えてくれる期待」
東「ブラックマンデーやアジア通貨危機・リーマンショックにクリプトも完全に共通している。じわじわ上がっていって土台では大きなことがあったときのドミノ倒しの下地が作られている。内田先生の研究はそれが起きない制度設計やリスクの定量化か」
内田「研究の最終目的はそこ。システミックリスクというのは市場でそのリスクを評価したインデックスを取引できないことがほとんど。右肩のトレンドの中でそれが起きる確率は低いので、期待値が安くなり、あまり情報が乗らない。事前に察知することは難しい。ただ動きだしたときに速やかに察知するということと事前に察知することは違う。アーリーワーミングのインディケーターを作るのではなく、システミックリスクが動きだしたときにこれはシステミックリスクだと判別できるようなインデックスを作るというのが主題」
東「素人的な考えだと、リーマンショックがあって、それが起きない制度設計やレバレッジを抑えるということをしても、次のショックが起きない制度設計はできないということか」
内田「バッファーを作るというのが大事。津波に対する防波堤は大きいほど津波に対する防御力は上がるが、他の事象にはノーガードでイタチごっこ的になる。将来起こる事象が分かっていれば資本を積み上げる(=リスクに備える)ことができて多くの場合効果的になる。それ以外に何ができるかというと、あまりいい手法はないとされている。しかし先進国の当局は資本を積み上げるとパフォーマンスが落ちるため、資本を積み上げる以外の方法がないとは言えない。資本を積み上げる以外の手法はなく、資本を積み上げるにも限度がある中で成長を期待する以上、社会全体として一定程度のリスクを取らざるを得ない。結果として稀に訪れるシステミックリスクというものがある。
システミックリスクの起こり始めはシステミックリスクではなく自己責任原則によって自分たちで賄うように当局は取り扱う。バブル崩壊やリーマンショックに対する公的な資本注入は資本市場における公正を欠くと批判されるが、経済社会システム全体を守るためには資本注入をせざるを得ない。今は資本を持てば何とかよくなりそうだと思っているものの資本の積み上げは万能ではないし、十分な資本とはという議論がある。その中で自己責任原則を越えた事象が起きた時、当局はすみやかに対処しなければならない。そのトリガーを作るというのが研究テーマに近いところ」
なまはげ「リーマンショックを今から見返してみて、ここを見たらシステミックリスクだと警報を出せるタイミングがあるか」
内田「どこを取っても納得できる説明を作ることができる。リーマンショックが起きた時と起きなかった時でどう違うのかというのが重要。ドミノ倒し、複数の資産が同時に落ち始めることが起きたかどうかというのを捉えにいく。基本的にシステミックリスクが生じたときは複数の資産の価格の変化の相関が1または-1に偏ると言われていて、実際に偏る。みんなが同じ動きをし、小さな出口に向かうため。そういう現象が過去にどのパターンでも起きている。そのため、その相関係数の変化を追うのが基本的なところ。それ以外の情報を集めたりもするが、基本はドミノ倒しが起きているかを見にいくことが重要」
なまはげ「リーマンショックのとき、普段の感覚だと金に逃げるが金の価格が下がったことがあった。それも資産に対して逃げていった結果か」
内田「1または-1が重要で、同時に下がるものがあれば逆に動くものもある。重要なのは1または-1をどう見るか経験で判断するしなければならない。資産の逃げ場がなくなるところまで行くのがドミノ倒し現象」
東「ドミノ倒し現象が起きた時になるべく早く感知して被害が広がりすぎないようにしようとすることを研究しているとのことだが、これはすぐ起きることか。感知しても対応が間に合わないこともあるのでは」
内田「大企業は一日で倒れることはない。どんなに急いでも一週間一ヵ月かかる。過去のシステミックリスクも底になるまで数か月かかっている。
クリプトの世界ではフラッシュローンがありドミノが始まったら二時間後に底という話がされる。しかし元々金融取引は約定からお金が支払われて証券が来るまで二~三営業日(T+2, T+3)かかる。国際送金も同じく伝統的な金融の意見としては安全を確認しながらやるので仕方がない。だが、ビジネスの速度が上がり、テクノロジーも変わってきたことで当日(Same Day)決済取引が増えてきている。クリプトはSame DayどころかSame Second。個人的にはみんな急いでいるなという感覚。」
東「今までT+3だったのをT+0にするという人がいる。今までなら崩壊に一か月かかったがクリプトは全てが早いので数時間で死ぬ」
内田「クリプトだけが金融システムを構成していないので、クリプトが震源地だったとしても他の金融資産はその速度で落ちることができない。クリプトからお金が逃げられなくなったとき、他の資産まで引きずられてこないとシステミックリスクとは呼ばれない」
東「社会全体に影響を与えるものではなくて、クリプトの中でのシステミックリスクはありえるか」
内田「すでに起きている。1日に10%も落ちていたらシステミックリスクと言われる。通常の金融市場で考えると」
東「クリプトの感覚的には資産30%減までは呑気」
内田「年間で20%落ちればとんでもない話。そういう意味ではクリプトは連続的なジェットコースターというより量子力学的なジャンプ。中間の状態(state)がない」
東「毎日システミックリスク」
内田「システミックリスクと同じボラティリティがある」
メモ
システミックリスク(金融システムの機能停止)が起きるまで
1. ダラダラと上昇していく中で金融が複雑化する
2. 突然の(市場の予想以上の)下落が発生する
3. ドミノ倒し的に全部の資産が下落(出口になる資産やお金は上昇)する
3まで起きないとシステミックリスクとは言い切れない
==========
内田「米国がETFとしてBTC現物を入れていない気持ちは分かる。当局者として怖い」
なまはげ「先物のETFがよくて現物のETFが怖いというのはどういう意味か」
内田「感覚的な問題だが、現物は現物なので枚数がないといけない。現物を売る人と買う人が必要。先物は証券そのものを取引しないので発行枚数に依存しない。求めるものが変わってくる。スムースな現物取引を担保しきれていないという判断」
なまはげ「資産への信用というより市場の流動性に不安があるから、CMEが勝手に先物・システムを運営して約定してくれるという信頼の方が厚いということか」
内田「信頼しているというより規制の網にかかっているという方が近い。CMEは被規制業種なのでCMEが責任持って市場を運営していて、CMEに対して規制当局は十分に権限がある。DeFiとは逆」
なまはげ「権力関係がある」
内田「コントーラビリティがあるというのは当局としては重要。株式市場のような現物の方がハンドリングしやすい市場もあって、現物の派生として先物が出てきているという見方もある。現物は総量の何%を買うかで価格が変わる。1単位いくらというものを考える時、先物と現物を区別しないと見誤るケースがありえる」
東「当局としてはビットコインの現物と先物を比べた時にコントロールしやすいかとうかが重要ということについて、ビットコインは管理主体がいないので現物について当局はどうすべきか悩ましいということか」
内田「金も同じくどこに埋まっているかはコントロールされず、掘り出された金から始まる。このことから考えるとビットコインの発行主体がいるかいないかは本質とはいえないかもしれない。ビットコインは誰が持っているのかを追跡しづらい。ほとんどが匿名のアカウントなので金や株式、金融資産としても経路が違う」
東「当局としては誰が持っているか分かった方が安心できる、何か起きた時にその人に聞けばいいというものを求めているのか」
内田「個人として、一番匿名性が高いのは現金。当局が使っている手段のうち、匿名性が政策手段としていけないかどうかというのは別に、市場を監視する上でどこの誰がどれだけ持っているかという情報が得られると安心感があるのは事実。しかし現金は無記名なのでKYCとは対極」
東「KYCが最近厳しい話とリスク・ETFの話は繋がるところがあると思った。誰がどのくらい持っているか全く分からなかったら当局がやれることが減ってくるという印象」
内田「現金は重さも体積もあるので、現金はどこの誰が持っているかは隠せないという現金固有の安全性が存在する。ビットコインがAMLとして警戒されるかというと、匿名性とは別で、体積がないこと・送金時間が短いことで現金と性質が異なると見られている」
メモ
・現物ETFには現物が必要だが先物ETFは胴元のマーケットで取引するので現物がいらない
・規制当局は規制しやすいものを受け入れやすい
・規制のしやすさとして非匿名性だけでなく物理的な大きさやそれに伴う移動のしやすいさも含まれる
==========
東「ここまでの話がどういう風にクリプトに関わってくるのか。内田先生はビットコインのどこに面白さやポテンシャルを感じているか」
内田「ビットコインはどの国にも属していないというところが特殊な資産だと思っている。かつ、想像力の賜物でありバーチャルなものという点が特殊だ。金や有価証券は後ろに実態がある。完全にバーチャルで無国籍なビットコインは金融の世界では定義しづらい資産だと思う。
ビットコインの性質を上手く使うことによって今まで出来なかったことがうまく出来るようになる、またはしづらいと思っていたことが簡単になると思って興味を持っている」
東「DeFiはそれでいうとどうか」
内田「DeFi、スマートコントラクトというものが自律的に使われるというのは興味ある。金融取引は契約である。契約が有効か無効かは法令との一致性を議論する。言葉の使い方如何で曖昧なところは裁判所で裁判して判断するという枠組みはある。段取りが多く法律といった特殊なツールを使うならば、エンジニアリング的に契約(スマートコントラクト)をコードすればいいとDeFiに対してまず感じた。
次に知って一番驚いたのはDeFiのプロダクトを担保にしてDeFiを買える入れ子構造があること。このよく分からないダルマ落としみたいなものはどこまで積み上げられるか。
その次にフラッシュローンが来た。フラッシュローンは時間の概念を外した金融商品と個人的に考えている。そもそも金融はマクロ経済学には登場しない概念である。マクロ経済学はその時点の財の交換をマクロに見るという学問なので、異時点間(時点を変える)装置はマクロ経済学に不要である。そこで金融は異時点間の財の交換をするために便利なシステムである。金融を入れるということは時点の概念を入れるということだった。対してフラッシュローンは全然違う。視野の外から真ん中に謎のものが来て、自分の今までの知識や学問が相対化された」
時点: 時の流れの上のある一点。
なまはげ「フラッシュローンも基本的にはDeFiの入れ子構造の中に存在しているものと考えている。現在フラッシュローンの大部分はハッキングに使われている。
内田先生の話を聞いて思ったのは、フラッシュローンによる攻撃方法でよくある手段がオラクル(外部からの価格データ)をいじるという方法。オラクルは基本的に時間の積み重ねで生まれていく。過去の価格データが積み重なって最新の価格はいくらとなっているのがオラクルのデータと思う。それを時間の概念を飛ばして勝手に時間を弄っている感じがあるというのが新しい見方だと思った。金融における時間スパンをなくしているというのが、SF小説みのある攻撃で感慨深いと思った」
内田「オラクルでやっているような、お金を借りてきて価格操作する手法は株式市場である方法。そこに時間の概念がなくなるというとバーチャルな話になり、金融のプロであるほど思いつかない。
フラッシュローンは借りた概念が曖昧なので、金利も手数料と言い換えられる。金融は時間を取引する手段だったのに、ビットコインのボラティリティが量子力学的なことと同じような、強烈な時間軸の速さを感じる。金融というユニバースの外側から来た発想だと思う」
メモ
・バーチャルや無国籍といったビットコインの性質は既存金融では扱いづらい
・DeFi on DeFiみたいな入れ子構造はどこまで積み上がるのかという興味
・時間を極小化して金融取引を行うフラッシュローンは金融や経済学の発想とは別の発想
==========
東「全体で見ると内田先生はDeFiを面白く思っていると感じる。DeFiの目的のひとつが金融へのアクセスを自由に、フラットにしようというものがある。それについて前向きな可能性あると思うか」
内田「技術の進歩には失敗がつきもの。大きな代価を支払った結果、DeFiがなくなる可能性もある。DeFiという技術はこれから人類が優しく温めていって重要な金融取引のパーツとして育てていきたいが、目先の利益に目が眩んでいる人が多くて、DeFi周りの様々な事象は居心地が悪いことが多い」
東「具体的な事例はあるか。個人的な意見として、スマートコントラクトで分散型の金融を表現するというコンセプトは可能性を感じる。現状としてポンジスキーム構造のガバナンストークンを配ったりトレードできるようにして、さらにそれを担保に謎のトークンを発行したり配られるようになっていて、生産性がないものが多いと感じる」
内田「DeFiトークンという謎のものの性質がまだ理解できていない。分散された金融になぜトークンか。儲けるための構造を具現化したものにしか思えない。とするとDINO(名ばかりの分散化)では。
ビットコインのマイニングに伴う労力として発行が行われるというのは筋が通る(make sense)。DeFi自体には必ずしもマイニングのような行為とは1:1で対応していない。DeFiの構築の最初でトークンがガバナンスという名のもとになんちゃってガバナンスが行われている。分散金融という概念は興味深く将来性があるが今の運用の仕方は近視眼的な人が多い。使い方を誤ると当局から禁止されてしまうおそれがある」
東「トークンを発行して儲けようとする人が増えれば増えるほど規制されるリスクがある。当局はそうなればなるほど規制しなければならないという考えが強くなるということか」
内田「規制は何のためにあるかという話になる。自分は大丈夫と思っている人は規制が必要ないかもしれないが、それが全人類にわたってとなるとシステムがクラッシュする。自己責任とは別の安全を保障する別の枠組みが必要で、ほとんどの規制は能力が劣った側の人を守るものである。今DeFiを使っている人からすると規制は厄介なものだが、金融システム全体から見た時に情報劣位にある人がポンジスキームに騙されないようにする、スマートコントラクトの監査の確実性を担保するなど、安全にDeFiを使えるようにするためにといった議論はある。これがいいとまでは言わない」
東「そういう重要で一般的な話の議論はある。ただ価格が下がってなくて誰も損していないのになぜ規制が必要かという人もいる。ポンジスキーム的なトークン発行と価格上昇の裏で損する人が出てくる。そういう人を差し置いて誰も損していないというのはポジトークすぎではと思っている」
メモ
・DeFiやそのガバナンスにトークンが本当に必要か
・DeFi界隈は将来性の割に近視眼的
・みんなに開かれたDeFiというものをみんなが安全に使うための規制という議論
==========
東「今後規制が強くなっていくとDeFiアプリケーションを使うのにKYCが必要とか何百万円以上の取引をする際は報告が必要となれば、今までの金融とあまり変わらないと思う。DeFiを推している人はどういうところに落としどころを見つけるのか。ガバナンストークンのエアドロップなど」
なまはげ「ガバナンストークンのエアドロップは二つの意味がある。儲けるためと責任を逃れる手段として使っている。後者にはコントラクトのパラメータを固定するのが怖いという背景がある。
例えばオラクルを利用するコントラクトで、そのオラクルを出している業者が廃業した場合、別のオラクル業者を探さなければならない。そのような場合にコントラクトのパラメータを操作できる運営者がいる立て付けになる。当局の許可を得ずに金融市場を作っていることになるため、所有権をトークンにしてみんなに配ってしまい、ガバナンスで決定したことをしているだけで、パラメータを操作したりデプロイする自身は運営者ではないと立て付ける。そういう使い方に対して内田先生はどう考えているか」
内田「普通の社会活動をしている社会人としては責任を逃れてはいけないと思う」
なまはげ「ごもっとも」
内田「フリーダムとセキュリティはコインの裏表。フリーダムだけエンジョイしてセキュリティからは逃れるというのがガバナンストークン。お日様の下を歩くような手法とは違う。人間が考える様々な裏道として思い付くものとしては不自然ではない。もう少し責任の所在を明らかにする方向に持っていった方が良いところを長生きさせることができると思う」
なまはげ「配ってガバナンスから離れるというものではなく、コントラクトは責任持って実装し運営主体という状態にするが、どのコントラクトを使うか、どのオラクル業者を使うかを投票にするようなガバナンスならばどうか。運営業者の責任の所在と分散型金融としての分散性の担保のバランスを考えなければならないと思うが」
内田「一言でいえば利益分配。責任と言うが結局は納税の責任になる。DeFiを運営して儲かるからインセンティブがある。インセンティブに繋がったら納税すべきと思う。クリプトの世界で納税を嫌う人をよく見るが基本的にどの国も利益を上げたら納税する。住所を変えて税率を変えることは自己防衛だと思う。しかし、今のDeFi運営における分散のロジックは納税から逃げたいだけではと感じる。
パラメータを固めることの非現実さは理解できる。クリプトの世界のいわゆる中央集権的な金融業者であるCircle社のように振舞えば、納税などの書類仕事が増える。人から金を集めてそれをロックするなら当然書類仕事ぐらいすべき。変な理想で反論できるのか理解できない」
東「100%同意するが、反論できる余地はありそう。金融アクセスを柔化する新しい手法なので既存ルールにはかからない、もしくはルールを変えるべきという人もいる」
なまはげ「DeFiは元々何のためにあるかと考えると、UNIトークンを発行する前のUniswapが理想形だと思う。シンプルな計算式で決まっていてパラメータの調整もほぼなく、何が起きても誰でもアクセス可能なシンプルなアセット交換の場である。DeFiが好きな人にとっては理想形と言われる。そういう中でガバナンストークンは不純物な感じに映る」
東「Uniswapがガバナンストークンを発行した理由は競合がいるから。SushiswapがUniswapのコードをパクってトークン発行したら儲かった。競争関係があってトークンを発行していく。そうしないと開発競争でも勝てない。そういうダイナミックもある。お金が欲しいというだけでなく競争で勝ち残るためにやっている人もいる。
不純物といったがガバナンストークンがあって困ることがあるか。トレードして損する人もいるが、Uniswapはガバナンストークンがあってもなくても機能する。機能性という点で何か不利益なことはあるか」
内田「DAIでは担保がなくなったら自分たちで発行したトークンで埋め合わせする話がある。しかし担保が払底するときにトークンの価値がどうなっているか分からない。難しいことを分かりやすくすることはできるが簡単にはできない。DAIの枠組みは簡単なことを難しくしている。様々な種類のガバナンストークンまたはDeFiのコミュニティトークンが出始めていて、シンプルなものを難しくしているのがよくないと思う。シンプルなものを難しくするインセンティブは必ず不純。DeFi自体は簡単なものではない。ガバナンストークンが出る前のUniswapは考え方は難しいが分かりやすく説明可能。簡単なものを難しくしていないか、邪なインセンティブがあるかないか。コミュニティには善意の塊みたいな人がたくさんいるのでもっと議論してほしい」
払底
ふっ‐てい【払底】〘名〙 (底を払って無いの意)
① (━する) 物がすっかりなくなること。物をすっかりなくなすこと。また、物がはなはだしく欠乏すること。
② (形動) ほとんどないさま。稀有(けう)なさま。
メモ
・頑張ってる人たちもいるんですよ
・儲けたなら納税すべき
・簡単なことを難しくしているものは危険
==========
なまはげ「Uniswapが流動性の中心だったのが、トークンのインセンティブでSushiSwapに移って、Binance Smart Chainでトークンが出たらSushiswapの流動性がPancakeSwapに移るといったことが繰り返している。
最初に乗っかった人しか儲からない構造で流動性を転送している中で、新しい商品・トークンに流動性を移していくのはリスクが大きいと思う」
東「攻撃がされやすそう」
なまはげ「誰か一人のコントラクトに悪意があった場合を考えるとリスクが大きい」
内田「Uniswap、Sushiswap、PancakeSwapとしていくのはまさしく自転車操業。これらだけでなく、どんどん新しいツールを繋げて、難しめにして、お金を引き付けないと開発ができないというのは違う方向に行っているのではと思う。篤志家がいてお金をくれるのを待てばいいというのは理想論だが、基本的に自転車操業の香り。ファイナンスは信用創造ができる。自転車操業は行き着くところまで行けるが、多くの場合自転車操業は行き着く先があり、システム全体を守るために倒産が存在する。倒産するには主体が必要で倒産したら権利関係を整理するが、Non KYCや権利関係があやふやなDeFiでの自転車操業は、倒産という安全装置を外した暴走だと金融側からはいえる」
とくし‐か【篤志家】
篤志のある人。特に、社会奉仕・慈善事業などを熱心に実行・支援する人。
==========
東「DeFiの問題点をしていただいた。しかしガバナンストークンがある程度の規模があって価格がついている。DeFiアプリケーションも動き続けている。大きな問題は起きていない。ただ、過去のシステミックリスクのようなことがDeFiでも起こりうると言われながらDeFiが複雑化している現状がある。今でのDeFiのリスクマネジメント、現状を図る手段は何かあるか。内田先生は今危ない状況と見ているか」
内田「将来が何となく分かることの不確実性と分からないことの不確実性のどちらを頭において議論しているかを意識しておきたい。言い換えれば因果関係のストーリーが考えられる事象とストーリーを超えた事象について考えておいた方がいい。
因果関係を考えられるはおそらくクリプトの世界で止まるものと思う。マイナスの価値があるクリプトがないので全部が0円無価値になれば終わりという終着点を想定することができる。そこまでで何が悪くてどこでダメなのかを考えればいい。
一方、大惨事が外の世界に波及する(Spillover)ケースは何が起きるか分からない。年金基金などまっとうな機関投資家がクリプトにお金を入れ始めているのは嫌だと感じる。
DeFiがどうなるかはよく分からないが、今までは0円になるまではいいと思えた。カジノで遊んでいるのと同じでDeFiやクリプトの中だけで納まると思えていた。今は外に波及する予感があり、実際そうなりつつある。
米国上場企業がバランスシートにビットコインを置き始めて、クリプトの世界とは無縁じゃなくなる企業が出始めている。AppleのCEOがクリプトを持っているという話ではなく、Appleの法人自体などモノを作る会社がバランスシートにクリプトを組み込んでくると嫌だなと感じる。クリプトの暴落と無縁じゃなくなる企業が出始めてドミノ倒しが起きることを危惧している。想像の外側をいうとするとそこが分水嶺」
東「エルサルバドルのような特殊な国が法定通貨化したり、そういう流れはきている。既存金融側からするとこれはマネジメントしなければならないリスクになると思う。」
メモ
・クリプトの世界で止まるものは想像しやすく、最悪クリプトが全部無価値
・クリプトの外まで波及すると何が起こるか分からない
・本業がクリプトとは関係の薄い企業がクリプトを資産に取り入れるとクリプト内の事象がクリプト外へ波及する
==========
東「マネジメントや規制というところで言えば、ステーブルコインもこれ以上大きくなっていくと既存の世界に波及していくので規制が必要という話か」
内田「その文脈として捉えていただいて構わない。ステーブルコインはDAIのようなステーブルコインとUSDCのようなステーブルコインの二種類がある。
USDCの方は既存金融の規制がはまりやすい。既存金融と接点が深く、DeFi的な怪しさや難しさ、危うさがない。DAIは逆。
ステーブルコインは特殊用語に見えるが、米ドルや日本円もステーブルコインの一形態と考えている。金本位制がなくなったので先進国の管理通貨制度は本質的にはステーブルコインと考えている。コインに対する信頼が失われればハイパーインフレを経由してデノミが強いられる。南米のインフレ率が高い国はデノミの代わりにビットコインを入れたがる。エルサルバドルのような経済的な基盤が薄いところがビットコインに飛びつくというのは危険だと感じる。北欧の国がビットコインにあえて行くのであれば凄いなと思う。
経済基盤が薄い国が行くのはビットコインのリスクという部分に関しては、DeFiのガバナンストークンと同様にそういうことをしなければいいのにと思う」
東「国の経済でギャンブル」
内田「出口がないのに手っ取り早くしようとしている」
東「エルサルバドルはそう。弱者の戦略。経済はそんなに強くなく自国通貨もないのでドルの代わりにビットコインを法定通貨化してもいいと言っている。ブラジルなど南米の国がエルサルバドルの状況を見て優遇政策や国庫に持ちうると予想している。内田先生として大きな金融の視点から見ると危ういとみているか」
内田「今はまだ既存金融には波及しないと思う。ただブラジルやアルゼンチンといったG20の中央銀行のバランスシートの一部がビットコインに置き換わると連動性が深まるので嫌だと思う。DeFiが1回そこに逆回転してしまう、クリプト外に波及する予測しきれないシステミックリスクが起こる可能性というのは、スマートコントラクトをDeFiを作っている人が扱いきれていないから。単体では安全なスマートコントラクトを扱いきれているが入れ子構造になっている場合、他の人のスマートコントラクトを見ていられないので、合成の誤謬が生じる可能性がある。ハッキングで100億円200億円流出するのは健全。ハブアンドスポークみたいな状態になっているのでUniswapのようなハブになっているいくつかのDeFiが傷んでしまうとクリプトの世界では価格半減が平気で起こる。既存金融は価格半減といった状況に慣れていないので、クリプトと既存金融が資産の持ち合いという形で繋がっていくとかなり怖い。DeFiの将来の可能性を期待しているので悪者になるのは気の毒」
G20とは何ですか? G7とは何ですか?
G20は、G7(後述)の7か国に、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、韓国、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ、欧州連合・欧州中央銀行を加えた20か国・地域のことです。
G7は、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国の7か国のことです。
ハブアンドスポーク方式
ハブアンドスポーク方式とは、中心拠点(ハブ)に貨物を集約させ、拠点(スポーク)毎に仕分けて運搬する輸送方式のことをいいます。ハブ拠点を設けることで、<拠点数ー1>の運行経路数でネットワークの形成が可能になります。
東「そのシナリオは見える。トークンをガンガン発行して調子に乗って事故を起こして規制されてという繰り返しは何度も起きていて、人間の性質としてそうなってしまうのは仕方ないかと思う。」
メモ
・企業や団体が発行するステーブルコインも国が発行する法定通貨もステーブルコインという枠組みになりうる
・クリプトを国家のバランスシートに組み込むのはリスクがあると見られている
・単体で安全なスマートコントラクトも、複数の、他の人が作成したスマートコントラクトと組み合わせた時に問題がないかは分からないのでリスクがある
==========
東「国や大企業がビットコインやクリプトを保有するというのはクリプトの事象が外の世界に波及するリスクがあるという話だった。本来ビットコインは通貨発行や資本注入に批判的な精神(ethos)を持っている、そういうものに対するアンチテーゼと思っている。EthereumなどでDeFiみたいなことをして問題が起きて、ビットコインの価格に波及して影響があるとなると、ビットコインの規制も厳しくなる、問題ないものまで影響受けるという構造だと懸念している」
内田「ビットコインに色々な意味で期待している。ユニバーサルな通貨として成長してほしい。しかしビットコインと他を分けている人はクリプトの人だけで、外から見ると『何やら分からないクリプト業界』で十把一絡げで見られている。
マーケットが大きくなっているので次に問題を起こしたら大きなペナルティを受けるだろうという状況になりつつある。クリプトの世界は政治力がないので事実上無力。
ウォレット作成など自由にでき、ノードはパーミッションレスに立ち上げられるので資産で規制ができないという話があるが、行動で規制できるのでクリプトを触ることそのものが違反とすることもできる。
それが世界のスタンダードになることを避けるために、日銀と金融庁の友人先輩とディスカッションをしつつ、良いところ良くないところ全て理解して頂いたうえで是々非々で議論してくださいと言っている。しかし忙しい人からすると価格変動のスピード感からして危険で怪しく感じられている。サイズが大きくなってきたので重要局面」
メモ
・ビットコインの精神、資本主義社会へのアンチテーゼ
・仮想通貨界隈はどこまでも全部まとめて仮想通貨界隈と思われている
・市場規模の成長に、クリプト側の政治力も行政側の理解も追い付いていない様子
==========
なまはげ「Uniswapが倒れたらという話があったが、どういう倒し方があると思うが。DeFiを使っている人からすると基本的にはあり得ない事象と思っている人が多い。どういう手段、事故があるか」
内田「Uniswapがメカニズムとしては倒れづらいというのはご指摘の通り。Uniswapに流動性があるほとんどの資産の片側が0円になるとあってもなくても意味がなくなる。それは倒れたと同じと思う。積一定で片側が0になることを想定されていない」
なまはげ「0と無限の積みたいな。個人的に他にリスクとしてあると思うのはハッキングよりもETH自体が全部死ぬ事態として、大きなDeFiのパラメータを操作したら資産を引き出せなくなった場合があると思った。ほとんどのクリプトは発行量が制限されている。例えばUniswapの流動性トークンの仕様が変わって資産を引き出せなくなったような状態が一番怖いと思う。入れ子構造になっている場合、無価値が連鎖していく」
内田「今の話はスマートコントラクトにバグがなくても怖い話。見える世界のリスクでここまで怖い話があるというのは参加者がしっかり勉強して慎重に対応した方がいいと思う。」
メモ
・Uniswapを倒すには自滅か巻き込まれ事故、もしくはヴァンパイア攻撃で流動性を枯渇させるぐらいか
・1つスマートコントラクトを実装しただけで崩壊が起こりうる
==========
内田「Uniswapの安心感は大きな仮説の前提に乗っている気がする。積一定でプライシングするアイデアは素晴らしいと思う。売り手と買い手の価格合意やファンダメンタルズではなく、先回りした積一定というロジックで価格が付く。経済学者からするとばかなことにみえる」
なまはげ「自分で最初に比率つまり価格を決められるが不思議な気持ちになる。需要も供給もない」
内田「Uniswapが素晴らしい理由は価格決定のメカニズムとDeFiがひとつになって形になったから。DeFiの枠組みの中で価格決定のルールを作り換えたところ。
これは既存金融に対する挑戦であり新しい提案である。最初は懐疑的だったが価格は売買の結果である必要はないと気付かされた。既存金融におけるインデックスも同じく自分で売買しないのに価格が決まる。つまり自分の売買の結果で価格が決まるのは幻想だった。それそのものを売買してなくても周りが動くような形に持っていくことができれば価格が付けられるということを示した。ファイナンスの歴史の教科書に乗ってもいいぐらいの革命だと思う。
そこから派生したDeFiのストーリーはやんちゃすぎるので難しい局面。自主規制団体があるとかないとかという世界では留まらない段階」
なまはげ「肌感として今DeFiは青春時代。バイクで走りだした状態」
内田「18歳は法律が変わったので成人だが本人はまだ未成年だと思っている、何かやっても許されると思っている状態。世界的に見て、もうそういうサイズではない」
東「世界的にというとアメリカがか」
内田「価値を決めるという意味で言うとG7の合意という意味での世界」
メモ
・需給による価格決定メカニズムとは異なる価格決定手法を世界に実装したのがUniswap
・DeFiはいつまでもニューウェイヴ気味だけどTVL考えるとそんなことも言っていられない
==========
東「内田先生からの質問に回答したい」
内田「一番期待しているのは、クリプトの力で今まで貨幣価値で取引できるようになるか。ESGやSDGsのような温暖化ガスの排出権取引のような今までやられている取引は資本主義のルールの上に乗っかったインチキだと考えている。人類社会で経済活動を続けるには、何らかの形で将来に対する方向感に投票(Voting)をしなければならない。スマートコントラクトのツールがあれば取引したりルールの方向性を決めることができるのではと思っている。このあたりの可能性に関してどう思っているか」
東「質問が難しく消化できていないのでもう少し詳細を聞きたい」
内田「今までは資本主義なのでROE(リスクとリターンの比率)とPL(収益そのものの水準)を見れば企業活動の9割は評価できた。ROEとPLに含まれない企業活動の多くの部分にあたることを価値判断の基準に入れるような動きが行われている。いわゆる環境に関する活動をバランスシート上に書き込もうとヨーロッパで考えられている。しかし、環境に関する活動は貨幣価値で単純に表現しにくい。環境へのインパクトがよく分からないし前提が多い。だが分からないからといって合意を持てないとは言えず、うまく投票のメカニズムをダイナミックに経済活動に入れることができないか。
ずっとマイナスの価値の貨幣をクリプトで作ったら面白いと思っている。ババ抜きのメカニズムを作って、他社に押し付けるためにプラスのお金が必要という排出権取引のようなもの。今までの考えでは取引には売り手と買い手による価格決定のメカニズムが必要だった。しかしUniswapが売り手と買い手がいなくても価格が決まると示した。DeFiやDAOで投票行動はもっと頭柔らかく使ってもいいという話になってきた。いわゆる株式市場や為替市場で扱われているような貨幣価値の外側にある価値判断を取引や尺度(merkmal)、組み込む方法としてDAOにいい使い方がないか」
merkmal
・物事を判断する基準や、その指標のことをいう。
・一般的には、最終目的を達成するための一連の過程等における中間指標や目印のことを意味することが多く、進捗を確認するための中間達成基準や中間地点のゴールの意味で用いられる。
東「即答できるものはないので少し考えたい」
なまはげ「質問が複雑で整理しきれていない。現在のDAOと呼ばれるものでは柔軟に投票はできる。今のお金は万能で、SDGsやESGではお金の万能性が足かせだと思う。お金があれば何でも解決できるところがある。環境は代替不可能なものなのに代替可能なものに落とし込んでいるのが問題の本質だと思えた。クリプトだとできるかというと微妙。行動を強制することは難しい。
例えば、NFTを保有している人だけに投票券を与えるが、そのNFTはある一定の通貨でしか買えない。その通貨は環境貢献でしか入手できない。そのNFTを持っていると、もっと上位の活動に柔軟に参加できるなど。通貨やアセットの使い道を限定させるというのは一つの解決策という気はした」
東「なまはげの話を聞いて自分の考えがまとまる部分もあって共有させていただきたい。質問は価格が付きづらいようなものに対してクリプトの発想や技術、DAOが役に立つか、可能性があるかという風に捉えた。基本的にはクリプトの中では難しいと思う。
理論上、排出権や環境に対する何かしらものをトークン化して取引して価格が可視化できるというのはある。どうしてもノイズばかりが拡散される傾向があるので正しい価格付けに繋がっていないと思う。投票もツールを充実させて何でも投票できるのを以ってDAOにできるという人もいる。しかしそれは効率的なリソース分配や価格決定に役に立つツールにならない。投票の結果などに影響力を持っている人の情報を基に投票や取引をするので、権力構造や信頼構造がある限りあまり適切に使えないと考えている。色々なものに価格がつきやすくなったり投票ができるようなツールがあることで、予想外の何かがある可能性はあるが懐疑的。
話の根幹は何でもトークン化してお金で解決できるという議論が多いことだと思う。DAOもトークンを発行してお金を集めて投票で何に使うか分配すればいいというものがある。それは議論が巻き戻っていると思う。
お金がなくても場合によっては人間は動くので、今まで価値化できなかったものも価値化できるとしたら、金銭的なインセンティブで動くのではなく、お金がなくてもどうやれば共通のゴールに対して極力中央集権的ではない形で、市場原理的な形で到達できるかを考えなければならないと思う。DAOなどの界隈が表で言っていることは分かるが、実際にやっていることは全く逆なので期待していないというのが正直なところである。ツールが揃うことで何かできる可能性はある。
ビットコインもDeFiやDAOと言われることがある。分散化された通貨を発行して誰にもコントロールされない形で維持する絶妙なバランスがある。機能や目的が限られたものには何かしらうまくいくタイプが出てくる可能性があると思う。複雑な組織になればなるほど、人間の政治などの問題が入ってきて今までと変わらないものが大部分になるだろうと思う」
なまはげ「今の環境などの問題はお金は自然を壊す側の存在であることだと思う。お金を使って環境をどうにかするのは本末転倒な感じ。お金的な価値のあるクリプトで解決するのは難しいと思う。できるとしたらお金にさせないという制限をかけられる技術に可能性はあるかもしれない。クリプトの今のコミュニティはお金のことしか考えていない」
東「価格が上がって正しいという風潮がある。価格が上がって嬉しいのはみんな一緒だが、今までの資本主義などの問題を拡大させていると思う」
なまはげ「クリプトの技術的に言うとそういう制約を設ける。ただ完全な非中央集権では無理でKYCなどタグ付けして制限を付ける形になる。お金といった成長するものに頼らない構造にする。それを使って柔軟に投票などできる柔軟なルール決めをする。価値が移転できないようにする。環境を守るといった枠組みの中に価値が滞留するように使うというのが解決策のひとつかもしれない」
東「予測市場といわれるものに期待する人もいる。将来の事象に対して賭けて市場に適正な価格を決定させる。匿名で参加できるようにすることで情報の非対称性を軽減できる。もしかしたら使えるかもしれないと思った。パーミッションレスな予測市場があればインサイダーも可能。ただ潰されるようなこともでてきそう」
内田「この辺りがアメリカの東海岸でも二年ぐらい前から議論になっている。資本主義を考え直そうという本が多くなっている。貨幣万能主義に対する反省を踏まえた資本主義とは何か。資本主義を外れるとインセンティブがうまく作れないというのがベースにはある。
外部不経済といった公害の垂れ流しを計上(count)できないという中で勝つことを考えるという話が今までだった。それはよくないという話は出てきているが、じゃあ何がいいのか。
今まで経済では効用を使っていた。効用とは消費からどれだけ満足できたか。消費と満足の関係は飽和が起こるという構造である。貨幣価値と満足の関係をうまく表現し、そこからリスクプレミアムという概念も演繹できる。
最近、効用の代わりにハピネスを入れる経済学者が増えてきたが、ハピネスとはというところで哲学的な話になってしまう。倫理を作るうえで哲学的な話をするのは大切だが、解決策(solution)が欲しい。このままいったら大変なのは分かっているが、誰でも今の効用が欲しい。
時間の概念を新しく作り替えることができるファイナンスのツールなので何かいいやり方ができないか。例えば3種類の通貨を持たないと買えないとか。交換や流通、インセンティブ構造をどう作れるかで行き詰まる。知恵をぜひ出していただいて将来にいいツールを残してほしいと思う」
メモ
・貨幣で解決できないものは、貨幣的なクリプトで解決は難しい
・貨幣の万能さを制限する形で解決するという考えがあり、クリプトで実験や実装が可能
・DeFiやクリプト上では既存の経済学における時間の概念(金融の概念)を作り替えているので、経済学での課題にセンスある答えを導けるかもしれない
==========
東「現在Lightning networkをやっていて、これはマイクロペイメントのような小さい金額を送れるもの。0.1円分を貰うから何とかしてというのは、質問を聞いている時間が無駄とも言える。ただそれを使ってゲームのようなものが出ていて、報酬が1レベルクリアすると10 satといった具合。これを誰がやるかというとブラジルや中南米の人がやっている。価格至上主義に対して、マイクロな金額のものでもリアルタイム性とインターネット上のフリクションが低く直接もらえる感覚がアクションを起こしていると思う。それはツールとして使えるかもしれない。金額だけの問題ではなくスピードやフリクションや中に入ってくる人に行動の基準が変わってくるところがあると思う。Lightningもそのような大きな話に関わってくるかもしれない」
フリクション: 摩擦
内田「Lightningに大変期待しているので今後教えていただきたい」
東「ルーティングについて今度議論したい。むしろルール上でどう勝つか教えてほしい」
内田「Lightningはルートのつくり方で貨幣価値が変わると聞いている。これは今までの貨幣の概念ではない。これまでの貨幣の概念はルートにかかわらず貨幣の価値が定まっていた。一応、貨幣も移動させるときに取引手数料などルーティングにコストがかかっていたが、Lightningでは純粋(pure)な形で出てくる。純粋に理論経済学者が興味を持つと思う」
東「自分のノードと繋がってきてくれるとコースに選ばれるトランザクションが増えるが、逆に流動性を取り合う形にもなる。そこで手数料設定で敵にならないようにする。Lightningのペイメントが普及すると社会がどう変わるかという話もあるが、個人的にはルーティングの経済、最適手数料(fee)、どこにどれくらいの流動性(liquidity)を入れるべきかに興味があって手探りしている状態。儲からないが面白い」
内田「興味深い。また色々教えてほしい」
メモ
・価格だけで行動が決まるわけではない
・Lightning networkも新しい貨幣価値の概念だった
・ルーティングは面白い題材
==========
東「告知など」
内田「興味があることがあればいつでもコンタクトしていただければと思う。好き放題喋ったのでストーリーになっていないかもしれない。ありがとうございました」
なまはげ「面白かった。内田先生が反省会での女装を見てくださったのにありがたい」
内田「女装から出てきた発言の切れ味が何とも言えない。アイラ系のモルトなのにステイサイドの味がする」
東「久しぶりに濃密な質問をできて勉強になった。ありがとうございました。ぜひ機会があればまた出演、連絡させていただければと思います」
内田「ぜひよろしくお願いいたします」
以上、れぽっす