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トルコリラ投資の危険性。将来性とリスクを分析。価値がなくなる?

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  • 2025/11/08 23:01
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トルコリラは、かつて外国為替証拠金取引(FX)において、高いスワップポイントが得られる魅力的な通貨として注目を集めていた。しかし近年、その価値は急激に下落し続けており、投資家の間で「価値がなくなるのではないか」という懸念が広がっている。本記事では、トルコリラ投資の現状と危険性、そして将来性について詳細に分析する。

 

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トルコリラの歴史的下落

トルコリラの価値下落は、もはや単なる調整局面ではなく、構造的な問題を示している。2008年8月には、トルコリラ円は92円台を記録していたが、2024年から2025年にかけて3.6円台まで下落した。この約17年間で、トルコリラの通貨価値は実に96パーセントが失われたことになる。これは、100万円相当のトルコリラを保有していた投資家が、現在では4万円程度の価値しか残っていないことを意味する。

この驚異的な下落率は、単なる為替変動の範囲を大きく超えている。通常、主要通貨であれば数年から十数年の期間で数十パーセントの変動はあるものの、96パーセントもの価値喪失は極めて異例である。トルコリラは2014年以降、一貫して長期下落トレンドを継続しており、その間に一時的な反発はあったものの、基本的には安値を更新し続けている状況だ。

ハイパーインフレという構造的問題

トルコリラ下落の最大の要因は、深刻なインフレーションである。2024年5月には消費者物価指数が前年同月比で75.45パーセントという驚異的な上昇率を記録した。その後、政策の効果もあって2024年12月には前年同月比44.38パーセントまで低下したものの、依然として極めて高い水準にある。

一般的に、先進国のインフレ目標は年間2パーセント前後に設定されており、新興国でも5パーセントから10パーセント程度が標準的だ。トルコのように40パーセントを超えるインフレ率は、経済学的にはハイパーインフレに近い状態と言える。このような状況下では、通貨の購買力が急速に失われ、国民の生活は大きな打撃を受ける。

実際、イスタンブールにおける4人家族の平均生活費は、2025年1月時点で月額8万2,880リラ(約35万6,400円)に達している。これは前年同月比で56.21パーセントもの増加であり、最低賃金の手取りが月額2万2,104リラであることを考えると、共働きでも生活が困難な水準だ。教育費は前年同月比91.07パーセント、住宅費は60.88パーセント、医療費は60.79パーセントも上昇しており、国民の生活を直撃している。

興味深いことに、トルコ統計局が発表する公式のインフレ率に対して、独立調査機関や民間団体が発表する数値は大きく乖離している。2024年12月、独立調査機関ENAグループの調査では前年同月比83.40パーセントという数値が示されており、政府発表の44.38パーセントとは大きな差がある。この乖離は、公式統計に対する信頼性の問題を浮き彫りにしており、実際のインフレ率はさらに深刻である可能性を示唆している。

エルドアン政権の金融政策と中央銀行の独立性

トルコリラの価値下落には、エルドアン大統領の独特な経済政策観が大きく影響している。エルドアン大統領は「金利は悪である」「高金利がインフレを引き起こす」という独自の経済理論を持っており、この考えに基づいて長年、低金利政策を推進してきた。これは経済学の一般的な理解とは逆の考え方であり、通常はインフレ抑制のために金利を引き上げるのが定石とされている。

2018年6月、トルコは議院内閣制から実権型大統領制に移行し、実質的にエルドアン大統領の独裁政権となった。この体制下で、エルドアン大統領は自身の金融政策観に反する中央銀行総裁を何度も更迭してきた。これにより、中央銀行の独立性は著しく低下し、政治的な圧力から自由な金融政策の実施が困難になった。

しかし、2023年の大統領選挙で再選された後、エルドアン大統領はメフメト・シムシェク氏を財務国庫相に、そしてハフィゼ・ガイ・エルカン氏を中央銀行総裁に任命した。エルカン総裁は女性初の中央銀行総裁であり、元ファースト・リパブリック・バンクの共同最高経営責任者という経歴を持つ。彼女の任命は「経済合理性への回帰」として期待を集め、就任後は積極的な利上げを実施してきた。

2023年6月から2024年3月にかけて、トルコ中央銀行は政策金利を8.5パーセントから50パーセントへと段階的に引き上げた。これは非常に大胆な金融引き締め策であり、インフレ抑制への強い意志を示すものだった。しかし、この大幅な利上げにもかかわらず、トルコリラ安は止まらず、インフレ率も依然として高水準にとどまっている。2024年12月には政策金利を47.5パーセントに引き下げる決定を行い、2025年にも追加の利下げを実施するなど、金融政策は引き締めから緩和への転換期を迎えている。

ここで重要な問題は、50パーセントという極めて高い政策金利でもインフレを抑制できなかったという事実である。通常、これほどの高金利は経済活動を大きく抑制し、インフレを鎮静化させる効果がある。しかし、トルコではインフレ率が金利を大きく上回っており、実質金利はマイナスの状態が続いていた。これは、構造的なインフレ圧力が金融政策だけでは制御できないほど強いことを示している。

地政学的リスクと政治的不安定性

トルコは地政学的に極めて重要な位置にあり、同時に多くのリスクを抱えている。中東地域やウクライナでの軍事衝突の継続は、トルコ経済に直接的な影響を与えている。また、トルコ自体も内政面で不安定な要素を抱えている。

2025年3月には、エルドアン大統領の政敵とされるイスタンブール市長が訴追され、大規模なデモに発展した。このような政治的緊張は、投資家の信頼を損ない、通貨安をさらに加速させる要因となる。実権型大統領制の下で、大統領の意向一つで政策や経済状況が大きく変わる可能性があり、この予測不可能性が投資リスクを高めている。

さらに、トルコ中央銀行は2024年まで、公表していない為替介入を続けていたことが明らかになった。中央銀行副総裁が2024年11月にロンドンで外国投資家との会合でこれを認めており、実質金利がマイナスで二桁のインフレが続く中、為替相場が一定程度安定していた背後には、このような人為的な介入があったのである。為替介入には外貨準備が必要であり、その持続可能性には限界がある。

財政問題と対外債務

トルコの財政状況も懸念材料である。IMFのデータによれば、トルコの総政府債務残高は対GDP比で比較的低い水準にある。2023年は29パーセント、2024年は25パーセントと見込まれており、この数値だけを見れば健全に見える。しかし、問題は民間部門も含めた対外債務である。

2024年末時点で、民間も含めた対外債務残高は対GDP比41パーセントに達すると見込まれている。さらに深刻なのは、対外債務の構成である。対外債務全体の94パーセントが外貨建てであり、そのうち58パーセントが米ドル建てとなっている。また、短期債務の比率は35パーセントに達している。

これは何を意味するのか。トルコリラが下落すると、外貨建て債務の返済負担がリラベースで増大する。例えば、100万ドルの債務があった場合、トルコリラが対ドルで半分になれば、リラベースでの返済額は2倍になる。このため、通貨安が進むほど、債務返済の負担が重くなり、さらなる経済的困難を招くという悪循環に陥る可能性がある。

短期債務の比率が高いことも懸念材料だ。短期債務は1年以内に返済または借り換えが必要であり、信用不安が生じた場合、借り換えができなくなるリスクがある。このような状況下では、対外的な信認を維持することが極めて重要となる。

スワップポイント投資の落とし穴

トルコリラ投資の魅力として長年語られてきたのが、高いスワップポイントである。スワップポイントとは、金利差によって生じる利益であり、高金利通貨を買い持ちすることで毎日一定の利益を得ることができる。トルコリラは政策金利が非常に高いため、円との金利差も大きく、魅力的なスワップポイントが得られてきた。

しかし、ここに大きな落とし穴がある。いくら高いスワップポイントが得られても、通貨価値の下落がそれを上回れば、トータルでは損失となる。例えば、年間10パーセントのスワップポイントが得られたとしても、通貨価値が年間30パーセント下落すれば、差し引き20パーセントの損失となる。

トルコリラの場合、この傾向が顕著である。2008年から2024年までの約17年間で96パーセントの価値喪失を考えると、年平均で約20パーセント以上の下落率となる。一方、スワップポイントでこれを相殺できるレベルではない。つまり、長期的にトルコリラを保有し続けた投資家は、スワップポイントを加味しても大きな損失を被っている可能性が高い。

さらに問題なのは、FX取引ではレバレッジをかけることが一般的であり、これが損失を拡大させる。レバレッジとは、自己資金の何倍もの取引ができる仕組みであり、利益が出れば大きく増幅されるが、損失も同様に増幅される。トルコリラのような急激に下落する通貨では、レバレッジをかけた取引は極めて危険である。実際、多くの個人投資家がトルコリラへの投資で多額の損失を出しており、中には証拠金を全額失う「ロスカット」に至ったケースも少なくない。

経済成長の減速と構造的課題

トルコ経済そのものも、成長の減速に直面している。IMFの見通しによれば、2024年の実質GDP成長率は前年から大幅に減速して3パーセント、2025年は2.7パーセントが見込まれている。2022年以降の高インフレと、それに対応するための金融引き締めが、経済活動を抑制している。

トルコでは2022年以降、高インフレが続く中で実質金利がマイナスとなり、家計はリラ建ての借入を増加させ、インフレの進行を見越して前倒しで消費行動を行うなど、消費が過熱していた。しかし、2023年夏からの大幅な利上げや融資の伸びを制限する政策により、2024年5月をピークにインフレは下降し始め、融資の伸びは緩やかになり、民間消費も減速している。

この経済減速は、インフレ抑制のためにはある程度必要なプロセスではあるが、同時に失業率の上昇や所得の伸び悩みといった副作用を伴う。トルコの失業率は緩やかに低下しているものの、依然として8パーセント台で推移している。高インフレと経済成長の鈍化が同時に進行する「スタグフレーション」の懸念もあり、政策当局にとっては難しい舵取りが求められている。

また、トルコは主な輸出先であるEUの景気に大きく影響を受ける。欧州経済に不透明感がある中で、輸出の伸びも期待しにくい状況だ。経常収支の改善は見られるものの、持続的な経済成長を実現するためには、構造改革や産業の高度化といった長期的な取り組みが必要となる。

わずかな希望の兆し

ただし、全てが悲観的というわけではない。いくつかの希望の兆しも存在する。まず、インフレ率は依然として高水準ではあるものの、ピーク時から低下傾向にある。2024年5月の75パーセント超から12月の44パーセントへの低下は、金融引き締め政策の効果が現れ始めている可能性を示している。

また、トルコは電気自動車分野にも注力しており、国内初の電動車ブランド「TOGG」が設立され、試験生産に成功している。さらに2024年には中国の電気自動車大手「BYD」が、トルコに10億ドル規模の工場を建設することを決定した。このような外国直接投資の増加は、トルコ経済の将来に対する一定の信認を示すものであり、産業の多角化と高度化につながる可能性がある。

格付け機関による評価も改善の兆しを見せている。2024年には、主要な格付け機関がトルコの格付けを引き上げる動きが見られた。フィッチは2023年にトルコの格付け見通しを「安定的」に引き上げており、これはトルコ経済に対する国際的な信頼が徐々に回復していることを示している。

財政規律の強化も進んでいる。2024年9月に発表されたトルコ政府の中期プログラムでは、中央政府の2025年のプライマリーバランス黒字化を目標としている。中央銀行は、税収増よりも歳出削減で財政規律を強化することを企図しており、これがインフレ抑制をサポートするものと評価している。金融政策と財政政策の連携が効果を発揮すれば、インフレ鎮静化への道筋が開ける可能性がある。

2025年の見通しと投資判断

では、2025年のトルコリラはどう動くのか。専門家の予想は慎重ながらも、底打ちの可能性を指摘する声もある。トルコリラ円は約10年にわたる長期下落トレンドが続いているが、52週移動平均線に近い水準での動きとなってきており、この水準を大きく超えられるかが、長く続いた下落トレンドの底打ちの目安の一つとして注目されている。

2025年の予想レンジとして、多くのアナリストは3.5円から5円程度を見込んでいる。これは現在の水準からやや上値を探る可能性を示唆するものだが、大きな反発を期待するには時期尚早との慎重な見方が主流である。

重要なのは、「エルドアン大統領の動向」「地政学リスク」「インフレ」という3つの要因である。これらに大きな変化がない場合、トルコリラ円は引き続き安値を更新する可能性がある。逆に、これら3点に何らかの改善が見られる場合、トルコリラの下落は止まる可能性がある。

特に注目すべきは、トルコ中央銀行の金融政策スタンスである。中央銀行が利下げモードに入るということは、インフレの鎮静化が実現したことを意味する。逆説的だが、そういった局面こそが、トルコリラ買いの好機となる可能性がある。現在の高金利は経済に大きな負担をかけており、持続可能ではない。インフレが収まり、健全な水準まで金利を下げられる状態になった時、トルコリラに対する見方は大きく変わるかもしれない。

投資家へのアドバイスと結論

トルコリラへの投資を検討している、あるいは既に保有している投資家に対して、以下の点を強調したい。

第一に、トルコリラ投資は極めてハイリスクである。過去17年間で96パーセントの価値喪失という事実は、この通貨が投資対象として非常に危険であることを明確に示している。高いスワップポイントは魅力的に見えるが、通貨価値の下落がそれを大きく上回る可能性が高い。

第二に、レバレッジをかけた取引は特に危険である。トルコリラのような変動の激しい通貨では、予想外の急落により証拠金を全額失う可能性がある。もし投資するのであれば、レバレッジは最小限に抑え、失っても生活に影響がない範囲の資金に限定すべきである。

第三に、長期保有は推奨できない。トルコリラの構造的な問題は短期間で解決するものではなく、長期的な下落トレンドが継続する可能性が高い。短期的な取引で利益を狙うとしても、損切りラインを明確に設定し、厳格に守ることが重要である。

第四に、分散投資の原則を守ることである。仮にトルコリラに投資するとしても、ポートフォリオ全体のごく一部に留め、他の安定した資産と組み合わせることで、リスクを分散させるべきである。

「トルコリラの価値がなくなる」という極端な事態は、実質的には既に96パーセントの価値喪失という形で進行している。完全にゼロになることは考えにくいが、さらなる価値下落の余地は十分にある。トルコ経済が抱える構造的な問題、政治的な不確実性、地政学的リスクを考慮すれば、トルコリラへの投資は慎重に、そして自己責任の原則の下で行うべきである。

一方で、トルコという国自体は、地理的な重要性、若い人口構造、産業の多様化といったポテンシャルを持っている。長期的な視点で見れば、適切な経済政策と政治的安定が実現すれば、トルコ経済が復活する可能性も否定できない。しかし、それがいつ実現するかは不透明であり、現時点で個人投資家がトルコリラに大きく賭けることは、極めてリスクの高い選択と言わざるを得ない。

投資は自己責任が原則である。トルコリラに関しては、その危険性を十分に理解し、最悪の場合は投資資金を全額失う可能性も覚悟した上で、慎重な判断を下すことが求められる。

 

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