

資産運用を始めようと考えたとき、多くの人が最初に直面するのが「投資信託とETF、どちらを選ぶべきか」という問題です。どちらも複数の銘柄に分散投資できる金融商品として人気がありますが、その仕組みや特徴には大きな違いがあります。本記事では、投資信託とETFの基本的な違いから、それぞれのメリット・デメリット、そしてあなたの投資スタイルに合った選び方まで、詳しく解説していきます。
投資信託とETF(上場投資信託)は、どちらも多くの投資家から資金を集めて、専門家が株式や債券などに分散投資する仕組みを持っています。しかし、その取引方法や運用方法には本質的な違いがあります。
投資信託は、証券会社や銀行などの販売会社を通じて購入する金融商品です。1日1回算出される基準価額で取引され、注文時点では正確な購入価格がわからない「ブラインド方式」が採用されています。運用会社が設定した運用方針に基づいて、ファンドマネージャーが銘柄選定や売買のタイミングを判断します。
一方、ETFは証券取引所に上場している投資信託で、株式と同じように市場でリアルタイムに売買できます。取引時間中であればいつでも、その時点の市場価格で購入や売却が可能です。多くのETFは特定の指数(日経平均株価やS&P500など)に連動することを目指すインデックス型で運用されています。
投資信託とETFの最も大きな違いの一つが、取引の仕組みです。投資信託は1日1回算出される基準価額で取引されるため、午前中に注文しても午後に注文しても、その日の取引終了後に決定される同じ価格が適用されます。これは価格変動のリスクを軽減する面もありますが、リアルタイムでの取引ができないというデメリットにもなります。
ETFは証券取引所の取引時間中であれば、株式と同様にリアルタイムで売買できます。価格は需要と供給によって常に変動しており、指値注文や成行注文など、株式取引と同じ注文方法が使えます。市場の動きを見ながら売買のタイミングを判断できるため、より柔軟な投資が可能です。
コスト面でも両者には違いがあります。投資信託には「販売手数料」「信託報酬」「信託財産留保額」という3つの主要なコストがかかります。販売手数料は購入時に支払う手数料で、最近ではノーロード(販売手数料無料)の商品も増えていますが、一部の商品では購入金額の1〜3%程度かかることがあります。信託報酬は運用期間中に継続的にかかる費用で、年率0.1〜2%程度と商品によって大きく異なります。信託財産留保額は解約時にかかる手数料ですが、これを設定していない商品も多くあります。
ETFの場合、購入時には株式取引と同じく証券会社に支払う売買手数料がかかります。ただし、多くのネット証券では売買手数料が無料または非常に安く設定されています。運用コストとしての信託報酬も投資信託より低めに設定されていることが多く、年率0.03〜0.5%程度の商品が主流です。特にインデックス型のETFは信託報酬が低く抑えられているため、長期投資におけるコスト面でのメリットが大きくなります。
投資を始める際の敷居の高さという観点では、投資信託に軍配が上がります。投資信託は100円から購入できる商品も多く、少額から投資を始めたい初心者にとって非常にハードルが低いといえます。また、毎月一定額を自動的に購入する「積立投資」の仕組みが充実しており、つみたてNISAなどの制度とも相性が良くなっています。
積立投資は「ドルコスト平均法」という投資手法を自然に実践できる方法です。定期的に一定額を投資することで、価格が高いときには少なく、安いときには多く購入することになり、平均購入単価を抑える効果が期待できます。さらに、自動引き落としによる積立設定をしておけば、相場の上下に一喜一憂することなく、淡々と投資を続けられるというメンタル面でのメリットもあります。
ETFも積立投資は可能ですが、株式と同様に取引単位(1口、10口など)での購入となるため、きっちりと定額での積立が難しい場合があります。ただし、最近では一部の証券会社がETFの積立サービスを提供しており、金額指定での購入や端数対応をしてくれるケースも増えてきました。それでも、投資信託ほど柔軟な積立設定ができるとは言いがたい状況です。
投資信託には大きく分けて「アクティブ型」と「インデックス型」があります。アクティブ型は、ファンドマネージャーが市場平均を上回るリターンを目指して銘柄選定や売買タイミングを積極的に判断する運用スタイルです。専門家の知識や分析力を活用できる反面、信託報酬が高めに設定されており、必ずしも市場平均を上回る成果を出せるわけではありません。実際、長期的に見るとアクティブ型の多くがインデックス型のパフォーマンスを下回っているというデータもあります。
インデックス型の投資信託は、日経平均株価やTOPIX、S&P500などの特定の指数に連動することを目指して運用されます。機械的に指数を構成する銘柄を保有するため、運用コストが低く抑えられます。市場平均のリターンを確実に得ることを目標とするため、特別に高いリターンは期待できませんが、安定した運用が可能です。
ETFの多くはインデックス型で運用されています。指数に連動することを目指すという点では、インデックス型投資信託と同じですが、ETFは上場しているため、その価格(市場価格)は需給によって決まります。理論上は基準価額と市場価格は一致するはずですが、実際には若干の乖離が生じることがあります。ただし、この乖離は裁定取引によって速やかに解消される仕組みになっているため、大きな問題にはなりません。
投資信託とETFは、基本的な税制面では同じ扱いを受けます。売却益や分配金に対して20.315%(所得税15.315%、住民税5%)の税金がかかります。NISA(少額投資非課税制度)やつみたてNISAの対象商品にも、投資信託とETFの両方が含まれています。
ただし、分配金の扱いには若干の違いがあります。投資信託の分配金は、「普通分配金」と「元本払戻金(特別分配金)」に分けられます。普通分配金は運用による利益から支払われるもので課税対象となりますが、元本払戻金は自分が投資した元本の一部が戻ってくるだけなので非課税です。一方、ETFの分配金は基本的にすべて配当所得として扱われ、課税対象となります。
また、投資信託では分配金を自動的に再投資する設定ができる商品が多く、複利効果を最大化しやすいというメリットがあります。ETFでも分配金は出ますが、自動再投資の仕組みはなく、分配金を受け取った後、自分で再度購入する必要があります。
投資信託の最大のメリットは、少額から始められることと積立投資の利便性です。100円から投資できる商品が多く、毎月自動的に積み立てる設定も簡単にできます。また、アクティブ型を選べば、専門家の運用によって市場平均を上回るリターンを狙うこともできます。さらに、販売会社のサポートを受けられることも、初心者にとっては安心材料となります。
一方で、投資信託のデメリットは、リアルタイムでの売買ができないことと、コストが比較的高めになりがちなことです。特にアクティブ型の投資信託は信託報酬が高く、長期保有するとコストの影響が大きくなります。また、1日1回の基準価額での取引となるため、市場が大きく動いているときに機動的な対応ができません。
ETFのメリットは、低コストで運用できることと、リアルタイム取引ができることです。信託報酬が低い商品が多く、長期投資におけるコスト優位性は明確です。また、市場の動きを見ながら売買タイミングを判断できるため、相場状況に応じた柔軟な投資が可能です。上場しているため透明性が高く、価格がリアルタイムでわかることも安心材料となります。
ETFのデメリットとしては、積立投資の自動化がやや不便なことと、最低投資金額が投資信託より高めになることがあります。また、売買のタイミングを自分で判断する必要があるため、頻繁に売買してしまうと手数料がかさんだり、感情的な判断で損失を出したりするリスクもあります。
投資信託とETFのどちらを選ぶべきかは、あなたの投資スタイルや目的によって変わってきます。
まず、投資を始めたばかりの初心者や、少額から積立投資を始めたい人には投資信託がおすすめです。100円から投資でき、毎月自動的に積み立てる設定も簡単にできるため、投資の習慣を身につけるのに最適です。つみたてNISAを活用する場合も、対象商品の多さと積立の利便性から投資信託が選ばれることが多いでしょう。
コストを最小限に抑えて長期投資をしたい人には、インデックス型のETFが向いています。信託報酬の低さは長期になればなるほど大きな差となって現れます。ある程度まとまった金額を投資できる人や、投資に慣れてきた中級者以上であれば、ETFの低コストメリットを最大限に活かせるでしょう。
市場の動きを見ながら柔軟に売買したい人にも、ETFが適しています。リアルタイムで取引できるため、相場の変動に応じて機動的に対応できます。ただし、頻繁な売買は手数料がかさむだけでなく、感情的な判断による失敗のリスクも高まるため、注意が必要です。
専門家の運用力に期待したい人や、特定のテーマやセクターに投資したい人は、アクティブ型の投資信託を検討する価値があります。ただし、アクティブ型は信託報酬が高いため、その分のコストを上回るリターンが得られるかどうか、過去の運用実績などをしっかり確認する必要があります。
実は、投資信託とETFは必ずしも二者択一で選ぶ必要はありません。両方の良いところを活かして組み合わせる戦略も有効です。
例えば、毎月の積立投資は投資信託で行い、ボーナスなどでまとまった資金ができたときはETFで追加投資するという方法があります。これにより、積立投資の利便性とETFの低コストメリットの両方を享受できます。
また、コア・サテライト戦略という手法もあります。これは、資産の中核(コア)部分を安定的に運用し、一部(サテライト)でより高いリターンを狙う戦略です。例えば、コア部分はインデックス型のETFや投資信託で幅広く分散投資し、サテライト部分ではアクティブ型の投資信託やテーマ型ETFでアクセントをつけるといった方法です。
投資信託とETFのどちらが優れているかという問いには、絶対的な答えはありません。それぞれにメリットとデメリットがあり、あなたの投資目的、投資経験、資金量、投資スタイルによって最適な選択は変わってきます。
投資初心者で少額から積立投資を始めたい人、投資の管理に時間をかけたくない人には投資信託が向いています。特につみたてNISAを活用する場合は、投資信託の利便性が光ります。一方、ある程度投資に慣れていて、長期的にコストを抑えたい人、まとまった金額を投資できる人にはETFが適しているでしょう。
重要なのは、どちらを選ぶかではなく、選んだ商品で長期的に投資を続けることです。短期的な相場の変動に惑わされず、自分の投資方針を守り続けることが、資産形成の成功につながります。まずは少額から始めて、投資の経験を積みながら、自分に合った投資スタイルを見つけていくことをおすすめします。そして、投資に慣れてきたら、投資信託とETFを組み合わせることで、より効率的な資産運用を目指すこともできるでしょう。











