

2025年10月は日経平均株価が史上最高値を次々と更新し、ついに5万円の大台を突破しました。わずか数週間の間に4万5000円台から5万円台へと急騰し、多くの投資家や経済関係者を驚かせています。なぜこれほどまでに日経平均は上昇しているのでしょうか。そして、この上昇はいつまで続くのでしょうか。本記事では、現在の株価上昇の背景にある複数の要因を詳しく分析し、今後投資を続ける上で注意すべきリスクについても解説していきます。
2025年10月の日経平均株価急騰を語る上で避けて通れないのが、いわゆる「高市トレード」と呼ばれる現象です。10月4日に行われた自民党総裁選で高市早苗氏が新総裁に選出されると、翌週の10月6日の東京株式市場では日経平均株価が一気に2000円以上も上昇し、前週末比で4.75%という大幅な上げ幅を記録しました。
この驚異的な上昇の背景には、高市氏の経済政策に対する市場の期待感があります。高市氏は選挙戦において「責任ある積極財政」を掲げ、財政出動と金融緩和を推進する姿勢を明確にしていました。市場では当初、財政健全化路線を取る小泉進次郎氏が有力視されていたため、高市氏の勝利は予想外の結果として受け止められました。この予想外の展開が、投資家心理を一気に強気に転じさせたのです。
高市氏が提唱する政策には、ガソリン税や軽油引取税の暫定税率廃止、給付付き税額控除の導入など、消費者の負担を軽減する施策が含まれています。これらの政策が実現すれば、個人消費が活性化し、企業業績の向上につながるという期待が市場に広がりました。特に外国人投資家は、強いリーダーシップを持つ政権による積極的な経済政策を好む傾向があり、高市氏の勝利は外国人投資家による大量の買いを呼び込む結果となったのです。
過去を振り返ると、小泉政権や第二次安倍政権の時期にも、強いリーダーシップと明確な経済政策が外国人投資家の買いを誘い、日本株が大きく上昇した経験があります。高市政権への期待は、こうした過去の成功体験と重なり、投資家の楽観的な見方を後押ししています。
日経平均株価の上昇を支えるもう一つの大きな要因が、米国株式市場の堅調さです。2025年10月に入ってからも、米国のダウ平均やS&P500は連日のように史上最高値を更新し続けています。本来であれば、米連邦議会が予算を成立させられず、政府機関の一部が閉鎖されるという政治リスクがあったにもかかわらず、米国株は上昇を続けました。
これは市場が政治リスクよりも、米連邦準備制度理事会による追加利下げを強く意識していることを示しています。米国の雇用市場には下振れ懸念があり、FRBが景気を下支えするために利下げを継続するという期待が、株価を押し上げているのです。米国株の上昇は、グローバルな投資家のリスク許容度を高め、日本株を含む世界中の株式市場にプラスの影響を与えています。
日本国内でも、日本銀行の金融政策が注目されています。長年続いてきた超低金利政策から徐々に正常化に向かう過程にありますが、急激な引き締めは行わないという姿勢が維持されています。この緩やかな金融正常化は、金融株にとってはプラスに働く一方で、株式市場全体への悪影響は限定的となっています。世界的に見ても、主要国の中央銀行が景気を支えるために慎重な金融政策を続けていることが、株式市場の追い風となっているのです。
為替相場の動きも、日経平均株価の上昇に大きく寄与しています。高市氏が総裁に選出された後、外国為替市場では円安方向への動きが進みました。円安は日本の主力輸出企業にとって大きなプラス材料となります。自動車メーカーや電機メーカーなど、輸出依存度の高い企業は、円安によって海外での売上を円換算したときの収益が増加し、業績が改善します。
日経平均株価は、ファーストリテイリングやソフトバンクグループなど、指数への寄与度が高い大型株の動きに大きく左右される特性があります。これらの企業の多くは国際的に事業を展開しており、円安の恩恵を受けやすい構造になっています。したがって、円安が進むと日経平均は上昇しやすく、逆に円高になると下落圧力がかかりやすいという傾向があります。
為替相場は多くの要因によって複雑に動きますが、現在の円安傾向は、日米の金利差や高市政権の財政拡張政策への期待など、複数の要因が重なって生じています。この円安基調が続く限り、輸出企業を中心とした日本株の上昇余地は残されていると考えられます。
テクノロジーセクター、特に人工知能関連と半導体関連の銘柄が好調なことも、日経平均を押し上げる重要な要因となっています。米国では大手テクノロジー企業が巨額の設備投資を続けており、その恩恵を受ける形で、日本の半導体製造装置メーカーや半導体検査装置メーカーの業績期待が高まっています。
アドバンテストやソフトバンクグループといった、AI関連事業に強みを持つ企業の株価が大きく上昇し、日経平均を牽引しています。特にアドバンテストは半導体の検査装置で世界トップクラスのシェアを持ち、AI向け高性能チップの需要増加を直接的に取り込める立場にあります。また、ソフトバンクグループは英国の半導体設計大手Armを傘下に持ち、AI時代の到来による恩恵を大きく受けると期待されています。
半導体セクターは2024年に一時低迷していましたが、2025年に入って需要の回復が見込まれるようになりました。AI向け半導体は引き続き好調である一方、一般的なメモリー半導体なども市況が回復してきており、東京エレクトロンやSCREENホールディングス、SUMCOといった半導体関連企業への投資が再び活発化しています。こうした半導体セクターの復調が、日経平均の上昇トレンドを力強く支えているのです。
株価上昇の根底には、日本企業の業績改善という実体経済の変化があります。大手調査機関の試算によれば、2026年3月期の企業業績は前期比で10%程度の増益が見込まれています。長年続いたデフレから脱却し、適度なインフレが定着しつつある中で、企業は価格転嫁を進めやすくなり、利益率の改善が期待されています。
また、日本企業の間でコーポレートガバナンス改革が進み、株主還元を重視する経営姿勢が定着してきたことも重要です。東京証券取引所がPBR1倍割れ企業に対して改善策を求める方針を示したことを受け、多くの企業が自社株買いや増配を実施しています。自社株買いは市場に出回る株式数を減らすため、需給面から株価を押し上げる効果があります。
三菱UFJフィナンシャルグループや日本郵船などの大手企業が継続的な株主還元策を打ち出しており、これが市場の評価を高めています。特に金融セクターは、日本銀行の金融政策正常化によって金利収入の増加が見込まれるため、業績改善と株主還元の両面から注目されています。企業が稼いだ利益を株主に還元する姿勢を明確にすることで、投資家の信頼が高まり、株価の持続的な上昇につながっているのです。
株式市場には季節性があり、特定の時期に上昇しやすい、あるいは下落しやすいという傾向があります。10月から12月にかけては、歴史的に見て日米の株式市場が上昇しやすい時期とされています。かつて10月は「暗黒の木曜日」や「ブラックマンデー」など、株価急落のイメージが強かった時期もありましたが、近年では年末に向けて株価が上昇する傾向が強まっています。
この理由の一つは、9月に下落しやすい傾向があるため、10月以降はその反動で上昇しやすいという点です。また、年末決算を控えた機関投資家が、運用成績を良く見せるために株式を買い増す「ウィンドウドレッシング」と呼ばれる動きも、株価の押し上げ要因となります。さらに、10月から12月は米国でホリデーシーズンを控えた消費の盛り上がりが期待される時期でもあり、景気への楽観的な見方が広がりやすいのです。
ただし、2025年は春の急落後、夏場も大きな調整なく上昇を続けてきたため、例年と比べると10月からの上昇幅は控えめになる可能性も指摘されています。それでも、季節性という観点からは株価にとって追い風の時期にあることは確かであり、この要因も現在の上昇トレンドを支えていると考えられます。
ここまで日経平均株価の上昇要因を見てきましたが、ここからは注意すべきリスクについて考えていきましょう。まず最も重要なのは、株価がすでにかなり高い水準まで上昇しており、バリュエーション(株価の割高・割安を示す指標)面での警戒感が高まっているという点です。
東証プライム市場の予想PER(株価収益率)は2025年10月末時点で約18倍の水準にあります。これは過去10年間の平均である13倍を大きく上回っており、コロナ禍の混乱期を除けば過去10年で最も高い水準に達しています。PERが高いということは、企業の利益に対して株価が割高になっている可能性を示唆します。
過去のデータを見ると、PERが15倍を超えると、その後調整局面に入るケースが多く見られます。もし過去10年の平均である13倍まで調整が進むとすれば、日経平均は3万6500円程度まで下落する計算になります。さらに過去の最低水準である11倍まで調整が深刻化すれば、3万1000円を割り込む可能性さえあります。もちろん、すぐにそこまで下落するとは考えられていませんが、2024年8月や2025年4月のように、短期間で数千円規模の急落が起きる可能性は常に念頭に置いておく必要があります。
現在の日経平均の上昇を支えているのは、主に外国人投資家による買いです。日本の個人投資家は4万円を超える水準では売り越しが続いており、積極的な買いは見られません。つまり、現在の株価上昇は外国人投資家の買いに大きく依存している状態なのです。
この構図は、外国人投資家が買いをやめた途端に、株価が急落するリスクをはらんでいます。実際、2024年7月に株価が急上昇した後、8月には誰も買わなくなり、大暴落が発生しました。外国人投資家は、日本の政治や経済の状況だけでなく、自国の市場環境や為替の動き、グローバルな地政学リスクなど、様々な要因で投資判断を変えます。
特に高市政権に対する期待が外国人投資家の買いを引き起こしているため、政権運営がうまくいかなかったり、期待された政策が実現しなかったりすれば、失望売りが一気に膨らむ可能性があります。高市氏は少数与党の党首として難しい政権運営を迫られており、野党との連立や閣僚人事、内閣支持率の動向など、不確実な要素が多く残されています。
日本株の上昇は米国株の堅調さに支えられていますが、その米国株自体が割高な水準にあるという指摘が増えています。特に大手テクノロジー企業の株価は、業績に対して非常に高い評価を受けており、何かのきっかけで調整局面に入れば、その影響は日本株にも波及します。
2025年初めにDeepSeekという中国の企業が低コストでAIモデルを開発できることを示したことが話題となり、米国のハイテク株に一時的な動揺が走りました。このように、テクノロジー分野では新しい技術や競合の出現によって、既存企業の優位性が揺らぐリスクが常に存在します。米国株が大きく調整すれば、日本株も連れ安する可能性が高く、米国市場の動向には細心の注意が必要です。
また、世界経済全体を見渡すと、様々な不確実性が残されています。中国経済の低迷が深刻化すれば、日本企業の輸出や訪日観光客数に影響が及びます。ヨーロッパでも政治的な混乱が起きる可能性があり、2025年は地政学リスクから目が離せない年となりそうです。トランプ政権の政策、特に関税政策がどのように展開するかも大きな不確実性要因です。保護主義的な政策が強化されれば、世界経済の成長が鈍化し、株式市場全体に悪影響を及ぼす可能性があります。
日本銀行の金融政策も、株価にとってのリスク要因となり得ます。日銀は長年続けてきた大規模な金融緩和から徐々に正常化へと舵を切っており、今後も段階的な利上げが予想されています。2024年8月には、利上げのタイミングと市場とのコミュニケーション不足が原因で、日経平均が一時的に大暴落する事態が発生しました。
金利が上昇すると、企業の借入コストが増加し、業績にマイナスの影響を及ぼします。また、金利のある預金や債券の魅力が相対的に高まるため、株式から資金が流出する可能性もあります。日銀が市場の予想よりも速いペースで利上げを進めたり、政策変更のコミュニケーションに失敗したりすれば、2024年8月のような混乱が再び起きる危険性があるのです。
ただし、日銀は慎重な姿勢を崩しておらず、急激な政策変更は避けると見られています。それでも、インフレ率が想定以上に高まったり、円安が過度に進んだりすれば、日銀は対応を迫られる可能性があり、その際の市場の反応には注意が必要です。
高市政権への期待が株価を押し上げている一方で、政治リスクも無視できません。自民党は衆議院で196議席しか持たず、単独過半数に届いていません。公明党が連立から離脱したことで、高市首相は少数与党の政権運営を余儀なくされています。
野党との協力なしには法案を成立させることが難しく、高市氏が掲げた積極的な経済政策が実現するかどうかは不透明です。野党からの圧力で政策が骨抜きにされたり、政権運営が行き詰まって早期に解散総選挙に追い込まれたりするリスクもあります。衆議院選挙の結果次第では、政権交代の可能性もゼロではありません。
また、高市氏の政策には財政拡張的な要素が強く、財政健全化を重視する勢力からの批判も予想されます。積極財政によって国債発行が増えれば、長期金利の上昇を招く可能性があり、それが株式市場にとってマイナスに働くこともあり得ます。政治の安定性が揺らげば、外国人投資家は日本株から資金を引き揚げる可能性があり、「高市トレード」が一転して「高市リスク」に変わる危険性も秘めているのです。
では、こうした状況の中で、投資家はどのように行動すべきでしょうか。まず重要なのは、現在の株価水準がかなり高いレベルにあることを認識し、過度な楽観は避けるべきだということです。「まだまだ上がる」という期待だけで高値を追いかけるのは危険であり、調整局面が来る可能性を常に念頭に置いておく必要があります。
すでに多くの株式を保有している投資家は、利益確定を少しずつ進めることも一つの選択肢です。全てを売却する必要はありませんが、株価が大きく上昇した銘柄については、部分的に利益を確定し、現金比率を高めておくことで、次の調整局面で買い増しする余力を残しておくことができます。
一方で、これから投資を始める人や、投資額を増やしたいと考えている人は、一度に大量の資金を投入するのではなく、時間分散を心がけるべきです。毎月一定額を積み立てる方法であれば、高値でばかり買ってしまうリスクを減らすことができます。ドルコスト平均法の考え方に基づいて、淡々と投資を続けることが長期的な資産形成には有効です。
銘柄選択においては、一時的な人気に飛びつくのではなく、企業の本質的な価値を見極めることが重要です。PBRが1倍を割り込んでいる割安株や、継続的に自社株買いや増配を実施している企業、競争優位性が明確で長期的な成長が見込める企業などに注目するとよいでしょう。また、特定のセクターに偏りすぎないよう、分散投資を心がけることもリスク管理の基本です。
日経平均株価が5万円を突破し、史上最高値を更新し続けている背景には、高市政権への期待、米国株の堅調さ、円安効果、AI・半導体セクターの好調、企業業績の改善、季節性要因など、複数のポジティブな要因が重なっています。これらの要因が揃ったことで、市場には強い上昇モメンタムが生まれており、短期的にはさらなる上昇も期待できる状況です。
しかし同時に、バリュエーションの高さ、外国人投資家への依存、米国株の割高リスク、世界経済の不確実性、日銀の政策正常化、政治リスクなど、多くの注意すべき点も存在します。過去1年余りの間に、日経平均は2度も大きな急落を経験しており、高値圏では常に調整リスクが高まることを忘れてはいけません。
投資において最も重要なのは、市場の雰囲気に流されず、冷静に状況を判断することです。株価が上がっているときほど、なぜ上がっているのか、その上昇は持続可能なのか、リスクはどこにあるのかを考える必要があります。そして、自分の投資目的やリスク許容度に応じた戦略を立て、それを規律正しく実行していくことが、長期的な資産形成の成功につながるのです。
日経平均株価の5万円突破は確かに歴史的な出来事ですが、それは新たな投資機会の始まりであると同時に、注意深い対応が求められる局面でもあります。この記事で解説した上昇要因とリスク要因を理解した上で、賢明な投資判断を行っていただければ幸いです。











