

「投資を始めたいけれど、何から手をつければいいのかわからない」という悩みを抱えている人は、実は非常に多いのです。インターネットで検索すれば、株式投資、投資信託、不動産投資、FX、仮想通貨、金投資など、様々な投資方法が出てきます。情報が多すぎて、かえって混乱してしまうのも無理はありません。
また、投資というと「お金持ちがやるもの」「専門知識が必要で難しそう」「損をするのが怖い」というイメージを持っている方も多いでしょう。確かに投資にはリスクがありますし、勉強も必要です。しかし、正しい知識と方法を身につければ、誰でも投資を始めることができますし、長期的には資産を増やす可能性が高まります。
この記事では、投資について何もわからない、どこから手をつければいいか迷っている方に向けて、最初の一歩をどう踏み出せばいいのかを具体的に解説します。難しい専門用語はできるだけ使わず、シンプルで実践的な内容をお伝えしていきます。
投資を始める前に、そもそもなぜ投資が必要なのかを理解することが大切です。銀行預金だけではダメなのでしょうか。
日本の銀行預金の金利は、現在ほぼゼロに近い状態が続いています。普通預金の金利は年0.001パーセント程度で、100万円を1年間預けても、利息はわずか10円程度です。一方、物の値段は少しずつ上がっていく傾向にあります。これをインフレーションと呼びますが、物価が年2パーセント上がれば、預金の実質的な価値は目減りしていくことになります。
つまり、銀行預金だけでお金を置いておくと、数字上は減っていなくても、実際に買えるものの量は減っていくのです。これが「貯金だけでは資産は増えない」と言われる理由です。投資は、このインフレに負けないために、そして将来の生活をより豊かにするために必要なのです。
また、日本の年金制度も今後厳しくなることが予想されています。少子高齢化が進む中、将来受け取れる年金だけでは、満足な生活を送るのが難しくなる可能性があります。だからこそ、自分で資産を形成していく必要性が高まっているのです。
投資を始める前に、まず自分の現在の状況を確認しましょう。投資は余裕資金で行うものなので、生活基盤がしっかりしていることが前提条件です。
第一に確認すべきは、毎月の収支です。収入から支出を引いて、プラスになっているでしょうか。毎月赤字が続いている状態では、投資を始めるのは時期尚早です。まずは家計の見直しを行い、収支をプラスにすることが先決です。不要なサブスクリプションサービスを解約したり、外食の頻度を減らしたりするなど、支出を見直すことから始めましょう。
第二に、生活防衛資金があるかどうかです。生活防衛資金とは、病気や失業など、万が一のときに生活を支えるための資金です。一般的には生活費の3ヶ月から6ヶ月分、できれば6ヶ月分を確保しておくことが推奨されています。たとえば毎月の生活費が20万円なら、120万円の貯金があれば安心です。この資金は普通預金など、すぐに引き出せる形で保管しておきましょう。
第三に、高金利の借金がないかを確認します。消費者金融からの借入やクレジットカードのリボ払いなど、年利10パーセント以上の借金がある場合は、投資よりも先にその返済を優先すべきです。なぜなら、投資で年10パーセント以上のリターンを安定的に得るのは難しいからです。高金利の借金を抱えたまま投資をするのは、片方の手でお金を捨てながら、もう片方の手で拾い集めているようなものです。
これらの条件がクリアできていれば、投資を始める準備ができていると言えます。もしまだクリアできていない項目があれば、まずはそちらを優先して取り組みましょう。投資は逃げていきません。焦らず、しっかりと基盤を作ってから始めても遅くはないのです。
投資の準備が整ったら、いよいよ具体的な投資方法を選びます。様々な投資方法がある中で、初心者が最初に選ぶべきなのは「つみたてNISA」です。正確には、2024年から始まった新しいNISA制度の「つみたて投資枠」ですが、ここではわかりやすく「つみたてNISA」と呼びます。
つみたてNISAが初心者に最適な理由は複数あります。まず、投資で得た利益が非課税になることです。通常、株や投資信託で利益が出ると、約20パーセントの税金がかかります。100万円の利益が出ても、手元に残るのは約80万円です。しかし、つみたてNISAならこの税金がゼロになるので、100万円の利益がそのまま手元に残ります。これは非常に大きなメリットです。
次に、投資できる商品が金融庁によって厳選されていることです。つみたてNISAで買える投資信託は、金融庁が「長期・積立・分散投資」に適していると判断したものだけです。手数料が高すぎる商品や、リスクが高すぎる商品は除外されているため、初心者でも安心して選ぶことができます。選択肢が絞られているということは、逆に言えば「この中から選べば大きく外れることはない」ということなのです。
さらに、少額から始められることも大きな魅力です。証券会社によっては、月100円から積立投資ができます。最初は少額で始めて、慣れてきたら徐々に金額を増やしていくことができるので、無理なく投資を続けられます。
積立投資のスタイルも初心者向きです。一度設定すれば、毎月自動的に一定額が投資されていくので、投資のタイミングを考える必要がありません。「今は株価が高いから買うべきか、もっと下がるまで待つべきか」といった悩みから解放されます。毎月コツコツと積み立てることで、価格が高いときも安いときも買い続けることになり、結果として平均的な価格で購入できる「ドルコスト平均法」の効果を得られるのです。
つみたてNISAを始めることに決めたとして、次の問題は「何を買えばいいのか」です。つみたてNISA対象の投資信託は200本以上あり、これでもまだ選択肢が多いと感じるかもしれません。
初心者におすすめなのは「全世界株式インデックスファンド」です。これは世界中の株式市場に分散投資できる投資信託で、一つ買うだけで世界の主要企業数千社に投資したのと同じ効果が得られます。日本だけでなく、アメリカ、ヨーロッパ、中国など、世界中の経済成長の恩恵を受けられるのです。
具体的な商品名としては「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」が非常に人気です。通称「オルカン」と呼ばれるこの商品は、信託報酬(運用管理費用)が年0.05パーセント程度と非常に低く、世界中の株式に投資できます。迷ったらこれを選んでおけば、まず大きな間違いはありません。
もう一つの選択肢は「米国株式インデックスファンド」です。アメリカは世界最大の経済大国で、AppleやMicrosoft、Amazonなど、世界をリードする企業が集まっています。「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」は、アメリカの代表的な500社に投資する商品で、こちらも信託報酬が非常に低く設定されています。
全世界株式と米国株式、どちらを選ぶべきか悩む方もいるでしょう。正直なところ、どちらを選んでも長期的には大きな差はないと考えられます。全世界株式はより広く分散されていてリスクが分散されますし、米国株式は経済の中心であるアメリカの成長を直接取り込めます。自分の考え方や好みで選んで問題ありません。
重要なのは、商品選びに時間をかけすぎないことです。完璧な商品を探そうとして何ヶ月も悩むよりも、ある程度納得できる商品を選んで、早く投資を始める方が良い結果につながることが多いのです。投資において最も大切なのは「時間」だからです。
それでは、具体的にどうやって始めればいいのか、ステップバイステップで説明します。
まず、証券会社を選んで口座を開設します。初心者におすすめなのはネット証券です。SBI証券、楽天証券、マネックス証券などが代表的です。これらの証券会社は口座開設・維持費用が無料で、手数料も安く、少額から投資できます。どのネット証券を選んでも大きな差はありませんが、すでに楽天カードを持っているなら楽天証券、Tポイントを使いたいならSBI証券というように、自分が使っているサービスとの相性で選ぶのも一つの方法です。
口座開設はインターネットで完結します。証券会社のウェブサイトにアクセスし、「口座開設」のボタンから申し込みを始めます。必要な情報を入力し、本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカード)をスマートフォンで撮影してアップロードします。早ければ数日、遅くとも1週間程度で口座が開設されます。
口座開設の際、必ず「NISA口座も同時に開設する」を選択してください。NISA口座は一人一つしか持てませんが、開設に数週間かかることもあるので、最初から申し込んでおくのが効率的です。
口座が開設されたら、銀行口座から証券口座にお金を入金します。これは証券会社のウェブサイトやアプリから簡単に行えます。多くの証券会社では、提携銀行からの即時入金サービスがあり、手数料無料でリアルタイムに入金できます。
次に、積立設定を行います。証券会社のウェブサイトにログインし、「投信積立」や「つみたてNISA」のページに進みます。購入したい投資信託を検索し、積立金額と積立日を設定します。たとえば「毎月1日に1万円」というように設定すれば、あとは自動的に毎月投資が行われます。
最初の積立金額は、無理のない範囲で設定しましょう。月5000円でも1万円でも構いません。大切なのは、続けられる金額にすることです。ボーナス月に増額設定することもできますが、まずは毎月の定額積立から始めることをおすすめします。
投資を始めた後、多くの初心者が陥る罠があります。それは、毎日のように株価や評価額をチェックして、一喜一憂してしまうことです。
投資信託の価格は毎日変動します。今日は100円増えていても、明日は200円減るかもしれません。短期的な値動きに反応していると、精神的に疲れてしまいますし、感情的な判断で売買してしまう可能性があります。
つみたてNISAは長期投資を前提とした制度です。10年、20年、30年という長い時間をかけて資産を育てていくものなのです。短期的な値動きは、長期的に見れば小さな波に過ぎません。過去のデータを見ると、世界経済は長期的には成長を続けてきました。リーマンショックやコロナショックのような大きな危機があっても、時間をかけて回復し、さらに成長してきたのです。
ですから、投資を始めた後は、できるだけ評価額を見ないことをおすすめします。月に1回、あるいは四半期に1回程度チェックするだけで十分です。毎月の積立が正常に行われているかを確認し、問題がなければそのまま放置しておくのが最善の戦略なのです。
特に、大きく価格が下がったときこそ、積立を続けることが重要です。価格が下がると不安になって売りたくなるかもしれませんが、これは最悪の選択です。価格が下がっているときは、同じ金額でより多くの口数を買えるチャンスなのです。安いときに多く買って、将来価格が回復したときに大きな利益を得る。これが積立投資の醍醐味です。
投資を始めようとする人が抱く疑問や不安に答えていきましょう。
「元本割れが怖い」という不安は、投資を躊躇する最大の理由です。確かに投資には元本割れのリスクがありますが、長期投資であればそのリスクは大幅に低減されます。過去のデータを見ると、世界株式に20年以上投資した場合、元本割れする可能性は極めて低いことがわかっています。短期的には値下がりすることがあっても、長期で持ち続ければ、高い確率でプラスのリターンが得られるのです。
「投資にはまとまったお金が必要では」という疑問もよくあります。これは完全な誤解です。つみたてNISAなら月100円から始められますし、月1万円程度でも十分です。むしろ、少額から始めて徐々に慣れていく方が、精神的な負担も少なく、失敗も小さく抑えられます。
「投資の勉強をたくさんしないといけないのでは」という不安もあるでしょう。確かに基礎知識は必要ですが、インデックスファンドの積立投資なら、複雑な分析や予測は必要ありません。基本的な仕組みを理解し、適切な商品を選び、あとは続けるだけです。株式投資のように企業分析をしたり、経済指標を読み解いたりする必要はないのです。
「今は株価が高いから、もっと下がってから始めた方がいいのでは」という考えも初心者によくあります。しかし、市場のタイミングを予測することは、プロでも難しいのです。「今が高い」と思って待っていたら、さらに上がってしまうこともあります。積立投資なら、タイミングを分散できるので、「今が高いか安いか」を気にする必要はありません。思い立ったときが始めどきなのです。
投資を始めると同時に、お金全般についての知識を高めることも大切です。投資だけでなく、保険、税金、年金、相続など、お金に関する知識は人生の様々な場面で役立ちます。
まず、家計管理のスキルを磨きましょう。家計簿アプリを使って支出を記録し、無駄な出費を見つけて削減する。これだけでも年間数十万円の節約になることがあります。節約したお金を投資に回せば、資産形成のスピードが上がります。
保険の見直しも重要です。多くの人は、必要以上に保険に入っていたり、逆に必要な保険に入っていなかったりします。若くて独身なら、高額な生命保険は不要かもしれません。一方、家族がいるなら、適切な保障額の保険に入っておく必要があります。保険料を見直すだけで、毎月数千円から数万円の節約になることもあります。
税金の知識も身につけましょう。会社員でも、ふるさと納税や医療費控除など、活用できる制度があります。これらを適切に使うことで、税金の負担を減らすことができます。また、将来的にiDeCoを始める場合も、所得控除によって税金が安くなります。
お金の勉強は投資だけではありません。お金に関する総合的な知識を身につけることで、人生全体の経済的な安定性が高まるのです。
投資を始めるのに、完璧な準備や知識は必要ありません。基本的なことを理解したら、まず少額から始めてみることが大切です。つみたてNISAで、全世界株式か米国株式のインデックスファンドを、月5000円から1万円程度で積み立て始める。これが、投資について何もわからない人が取るべき、最も確実で安全な第一歩です。
投資は難しそうに見えますが、実際に始めてみると意外とシンプルです。最初の口座開設と商品選びさえクリアすれば、あとは自動的に積立が続いていきます。そして、時間が経つにつれて、少しずつ資産が増えていく様子を見ることができるでしょう。
今日から行動を起こしてください。証券会社のウェブサイトにアクセスして、口座開設の申し込みをするだけでも大きな前進です。完璧を求めて何もしないよりも、まず始めてみて、経験を通じて学んでいく方が、はるかに価値があります。
あなたの未来の経済的な安定と豊かさは、今日のあなたの決断にかかっています。一歩を踏み出す勇気を持ちましょう。その一歩が、10年後、20年後のあなたの人生を大きく変えることになるのですから。











