

FX取引において、リスクを抑えながら利益を追求する手法は数多く存在します。その中でも、両建て戦略とマーチンゲール法を組み合わせた「LS法(ロング・ショート法)マーチンゲール改」は、理論上の優位性を持つ取引手法として一部のトレーダーの間で注目されています。この手法は、相場の方向性に関わらず利益を狙える可能性を秘めている一方で、資金管理と精神的な忍耐力が求められる高度な戦略です。本記事では、この手法の仕組みから実践的な運用方法、そしてリスク管理まで詳細に解説していきます。
両建てとは、同一の通貨ペアにおいて、買いポジション(ロング)と売りポジション(ショート)を同時に保有する取引手法です。一見すると、利益と損失が相殺されて意味がないように思えるかもしれません。しかし、両建ての真の価値は、相場の変動に対して柔軟に対応できる点にあります。
通常のトレードでは、相場が予想と反対方向に動いた場合、損切りを余儀なくされることがあります。しかし両建てを活用することで、含み損を一時的に固定しながら、相場の反転を待つことができます。また、両建て状態から片方のポジションを決済することで、相場の動きに応じて利益を確定させたり、損失を最小限に抑えたりすることが可能になります。
マーチンゲール法は、もともとカジノのギャンブルで用いられていた賭け方の一種です。その基本的な考え方は非常にシンプルで、負けるたびに賭け金を倍にしていくというものです。理論上、いつか勝てば、それまでの損失をすべて取り戻し、さらに最初の賭け金分の利益を得ることができます。
FX取引においても、この原理は応用可能です。含み損が発生したポジションに対して、さらにポジションを追加していくことで、平均取得価格を有利な位置に移動させることができます。そして相場が少しでも有利な方向に動けば、すべてのポジションをまとめて利益確定することが可能になります。ただし、マーチンゲール法には無限の資金が必要という致命的な弱点があり、この点を改善したのが「マーチンゲール改」という考え方です。
LS法マーチンゲール改は、両建てとマーチンゲール法の長所を組み合わせた戦略です。この手法の核心は、相場がどちらに動いても対応できる柔軟性と、ナンピン(買い増し・売り増し)による平均取得価格の改善を同時に実現することにあります。
具体的な手順としては、まず初期ポジションとして、ロングとショートを同時に建てます。この時点では利益も損失も発生していません。次に、相場が動いた方向を確認し、含み益が出ている方のポジションに対してさらにポジションを追加していきます。同時に、含み損が出ている方のポジションに対しても、一定の値幅ごとにナンピンを行います。
この戦略の優れている点は、相場がレンジ相場であっても、トレンド相場であっても利益を狙える可能性がある点です。レンジ相場では、両建てポジションから往復で利益を取ることができますし、トレンド相場では、トレンド方向のポジションで大きな利益を狙いながら、逆方向のポジションは平均取得価格を改善しつつ保有し続けることができます。
LS法マーチンゲール改を実践する際の具体的なエントリー方法について説明します。まず、取引を開始する通貨ペアと時間足を決定します。この手法はどの通貨ペアでも適用可能ですが、スプレッドが狭く、流動性の高いメジャー通貨ペアが推奨されます。
初期エントリーは、テクニカル分析やファンダメンタルズ分析に基づいて行うこともできますが、この手法の特性上、エントリータイミングはそれほど重要ではありません。むしろ、エントリー後の資金管理とポジション管理が成功の鍵となります。
最初のポジションとして、例えば0.1ロットのロングと0.1ロットのショートを同時に建てます。その後、相場が上昇した場合は、一定の値幅(例えば20pips)ごとにロングポジションを0.1ロットずつ追加していきます。同時に、ショートポジションについても、損失が拡大する方向ではありますが、同じ値幅でナンピンを行います。ただし、ナンピンの数量は慎重に管理する必要があります。
相場が下落した場合は、この逆の操作を行います。ショートポジションを追加しながら、ロングポジションのナンピンを行っていきます。
LS法マーチンゲール改において、最も重要なのがポジション管理です。無計画にナンピンを繰り返すと、あっという間に証拠金が不足し、強制ロスカットの危険性が高まります。そのため、明確なルールに基づいたポジション管理が不可欠です。
まず、最大ポジション数を事前に決定しておく必要があります。例えば、各方向について最大5ポジションまでと決めておけば、相場がどれだけ一方向に動いても、損失の上限をある程度コントロールできます。また、ナンピンの間隔も重要です。間隔が狭すぎると、すぐに最大ポジション数に達してしまいますし、広すぎると平均取得価格の改善効果が薄れます。
さらに、ポジション数量の調整も考慮すべき要素です。基本的なマーチンゲール法では、ポジションを追加するたびに数量を倍にしていきますが、これでは資金の消耗が激しくなります。改良版では、固定ロットでナンピンを行うか、緩やかに数量を増やしていく方法が採用されることが多いです。
決済のタイミングも戦略的に考える必要があります。一般的には、すべてのポジションを合計した時に、一定の利益が出た時点で全決済する方法が取られます。あるいは、含み益が大きくなったポジションから順次決済し、残ったポジションでさらなる利益を狙う方法もあります。
LS法マーチンゲール改を実践する上で、資金管理は生命線と言えます。この手法は、相場が一方向に大きく動いた場合、片方のポジションで大きな含み損を抱えることになります。そのため、十分な証拠金余力がなければ、強制ロスカットによって取引が終了してしまいます。
推奨される資金量は、最小取引単位を0.01ロットとした場合でも、最低50万円から100万円程度は必要です。0.1ロットで取引する場合は、500万円以上の資金が望ましいでしょう。これは、相場が一方向に数百pips動いた場合でも耐えられる資金量を確保するためです。
また、レバレッジの設定も重要です。国内FX業者では最大25倍のレバレッジが設定できますが、この手法ではレバレッジを抑えめに設定することが安全です。実効レバレッジで5倍から10倍程度に抑えることで、証拠金維持率に余裕を持たせることができます。
さらに、取引に使用する資金は、生活費や緊急時の備えとは完全に分離された余裕資金であるべきです。この手法は、短期間で大きな利益を狙うものではなく、中長期的に安定した利益を積み重ねていく戦略です。そのため、精神的なプレッシャーを感じずに取引できる資金で運用することが成功の秘訣です。
LS法マーチンゲール改には、理論上の優位性がある一方で、看過できないリスクも存在します。最も大きなリスクは、強いトレンド相場が継続した場合の損失拡大です。相場が一方向に数百pipsから千pips以上動くことは珍しくありません。このような状況では、逆方向のポジションで膨大な含み損を抱えることになります。
また、スワップポイントの影響も考慮する必要があります。両建てを行う場合、買いスワップと売りスワップの合計はマイナスになることが多いです。長期間ポジションを保有すると、スワップポイントによる損失が積み重なっていきます。
さらに、スプレッドとコストの問題もあります。頻繁にポジションを建てたり決済したりすることで、スプレッドコストが積み重なります。特に短期的な値動きで決済を繰り返すと、コストだけで利益が相殺されてしまう可能性があります。
心理的な負担も無視できません。大きな含み損を抱えながら取引を続けることは、精神的に大きなストレスとなります。冷静な判断力を保ち続けることができなければ、この手法を継続することは困難です。
LS法マーチンゲール改をより安全に、効果的に運用するための改善方法をいくつか紹介します。まず、トレンドフィルターの導入が有効です。明確な強いトレンドが発生している時は、新規のエントリーを控えるか、トレンド方向のポジションのみを追加するといった調整を行います。
また、時間による決済ルールを設定することも一案です。例えば、一定期間内に利益確定できなかった場合は、小さな損失でも決済して次の機会を待つというルールを設けることで、大きな損失を防ぐことができます。
ポジションサイズの動的調整も効果的です。口座残高や証拠金維持率に応じて、新規ポジションのサイズを自動的に調整することで、リスクを適切にコントロールできます。証拠金維持率が一定水準を下回った場合は、新規ポジションの追加を停止するといったルールも有効です。
さらに、複数の通貨ペアに分散してこの手法を適用することも、リスク分散の観点から推奨されます。一つの通貨ペアで大きな含み損を抱えても、他の通貨ペアで利益が出ていれば、全体としての損失を軽減できます。
LS法マーチンゲール改は、両建てとナンピンを組み合わせた戦略的なFX取引手法です。相場の方向性に関わらず利益を狙える可能性がある一方で、適切な資金管理とポジション管理が不可欠です。この手法は「必勝法」と呼ばれることもありますが、実際には完全にリスクを排除できるわけではありません。
成功のカギは、十分な資金を用意すること、明確なルールに基づいてポジションを管理すること、そして冷静な判断力を保ち続けることです。また、デモ口座で十分に練習を重ね、手法の特性を理解してから実際の取引に臨むことが重要です。
FX取引においては、どのような手法であっても、リスクを完全にゼロにすることはできません。LS法マーチンゲール改も例外ではなく、適切な知識と経験、そして慎重な資金管理があって初めて、その真価を発揮する手法であることを忘れないでください。











