ディズニー実写映画『リトル・マーメイド』(The Little Mermaid)が2023年6月9日から上映中です。ディズニーのアニメ映画『リトル・マーメイド』(1989)の実写版です。『リトル・マーメイド』はハンス・クリスチャン・アンデルセン『人魚姫』を翻案しました。
『人魚姫』は悲劇ですが、『リトル・マーメイド』は異なる世界の相互理解の物語に仕上げました。実写映画では俳優の人種的な多様性が出ており、よりダイバーシティの作品になっています。主役のアリエル役が黒人歌手のハリー・ベイリーであることに違和感を抱く向きもありますが、アリエルの姉妹の人魚や人間の王国の人種的多様性自体が不思議です。
ディズニーはピクサーと共同制作した『マイ・エレメント』を2023年8月4日から公開します。火や水という元素が暮らす街を舞台に火の女性エンバーと水の男性ウェイドの交流を描きます。人種の違いくらいで作品に違和感を抱くような時代では最早ないでしょう。
一方で『リトル・マーメイド』の王国はヨーロッパではなく、アメリカ大陸の島のようです。そこに白人や黒人が存在することは征服や奴隷貿易の歴史を抜きにして語れません。人種差別をしてはいけないということと過去に人種差別がなかったことは別の問題です。『リトル・マーメイド』の王国は人種差別意識が存在しないように描かれます。それは政治的な正しさを反映していますが、征服や奴隷貿易の歴史があったことを直視しにくくする面もあります。
『リトル・マーメイド』が『人魚姫』と異なる点として魔女が明確な悪役であることです。魔女は事前に条件を提示するフェアな取引を主張します。しかし、実際は大切な条件の記憶を失わせるという不利益事実を隠したものでした。相手をだますアンフェアな取引です。アニメの魔女はアリエルがサインした契約書を盾に正当化しました。これは古典的な悪徳業者の典型的な手口です。
その後の消費者の権利はアニメが公開された20世紀に比べると進歩しています。日本では2000年に消費者契約法が制定されました。契約書があっても不当な契約は取り消しや無効を主張できるようになりました。悪役が契約書だけで勝負しないことには消費者問題の変化を感じます。