速水健朗『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人』(朝日新書、2013年)は食生活の面から人々の政治意識を分析する書籍です。本書は日本社会がフード左翼とフード右翼に分断されていると主張します。
フード左翼は有機野菜、地産地消、ベジタリアン、ビーガン、マクロビ、ローフーディズムなど自然派の食を愛好します。フード右翼はコンビニ弁当、ファーストフード、メガ盛り、B級グルメなどコスパを重視します。私の消費行動はフード右翼的です。
フード左翼とフード右翼という視点は一般的な左翼と右翼のイメージを逆転させる要素があります。貧困問題は左翼の方が熱心というイメージがあります。しかし、フード右翼はコスパ重視の消費行動によって、安くて美味しい食を支持します。閉鎖的な業界の横並び慣行を打ち破る革新的なビジネスの追い風になります。これは食の民主化、貧困の抑制につながります。逆にフード左翼は富裕層に偏り、経済的余裕のある人の道楽という側面があります。
また、右翼には排外主義・国粋主義的なイメージがあります。ところが、フード右翼はグローバルなファーストフードを受け入れます。逆にフード左翼の方が地産地消や国産農作物を重視します。それどころかフード左翼は福島第一原発事故後に福島産農産物を忌避するどころか排撃するなどヘイトとも親和性があります。
フード左翼という切り口から現実の左翼の矛盾が見えてきます。困っている人々のニーズに応えられない独善性です。食費を節約している人々に健康食の購入を勧めるような頓珍漢になります。これが若年層や現役世代のリベラル離れやリベラル嫌悪の要因でしょう。
現実に革新政党や労働組合が昭和の頃からの労働者搾取論を唱えても労働者に刺さりませんが、ゼロ年代前半にインターネット発祥のブラック企業批判に乗っかったところ支持されました。しかし、ゼロ年代後半に安倍政権が働き方改革を打ち出し、お株を奪われた状態です。これは左翼の考える点になります。観念的な昭和の労働者搾取論に逃げず(自分達は唯物論であり、観念論ではないという的外れの反論をしてくるでしょうが)、ブラック企業など現役世代の抱える問題への認識を深める必要があるでしょう。
一方でフード右翼はどうでしょうか。グローバルなファーストフード支持が右翼になることが理解しにくいところです。TPPや移民労働者の議論が参考になります。
ここには左翼のレンズを通した右翼認識が影響しているかもしれません。対米従属の「雇われ右翼」という認識です。日本には「雇われ右翼」しかいないと主張するならば別として、本来の右翼認識とは異なります。やはり右翼は国産農作物重視、チェーン店よりも個人経営店重視の傾向があるのではないでしょうか。
それを踏まえると、本書のフード右翼は右翼よりも、合理主義的な消費者と感じます。本書はフード右翼を食に無自覚な人々と捉えますが、値段などで価値を決めず、自分の食べたいものを主体的に選択する消費者です。本来のフード右翼とフード左翼は本書のフード左翼になり、右翼も左翼も似た者同士という結論がすっきりします。
日本では右翼は「滅私奉公」、左翼は「一人は皆のために」とどちらも全体主義的傾向があります。これに対してコスパを重視し、食べたいものを食べる本書のフード右翼は経済合理性を重視する個人主義の消費者です。対立軸は全体主義と個人主義になるのではないでしょうか。
このように本書の対立軸には疑問がありますが、消費行動を投票行動のような選択の場と捉える視点は有用です。消費が消費者の主体的選択であることを認識し、責任を持った消費を進めます。
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