オンライン旅行サイト「エクスペディア」を運営するベックストラベルジャパン株式会社は世界16地域を対象とした有給休暇の国際比較調査結果を発表しました。2020年は新型コロナウイルスの影響で台湾を除く15地域で有給休暇の取得日数が減りました。増えた台湾も14日が2020年は15日と1日増加したのみです(エクスペディアPR事務局「エクスペディア 世界16地域 有給休暇・国際比較調査 2020発表!コロナ禍で有給休暇の取得が世界的に低下 日本人は世界一のステイホーム率!一方で行きたい旅行先は増加」2021年2月18日)。
有給休暇を取得しない理由は、世界的には「新型コロナウイルスの影響でどこにも旅行できない」が33%で首位でした。これに対して日本は「緊急時のために取っておく」が30%で首位でした。ここだけ見ると、日本は必要以上にリザーブする人が多いから有給休暇取得率が低いとのステレオタイプな日本の労働者批判になるかもしれません。しかし、世界でも「緊急時のために取っておく」は27%で2位です。日本は世界と、それほど乖離がある訳ではありません。
日本は「新型コロナウイルスの影響でどこにも旅行できない」が12%と世界の半分以下でした。これは大きな差ですが、日本は政府がGo toトラベルキャンペーンで国内旅行を推奨していました(林田力「Go Toトラベルキャンペーンを利用してみた」ALIS 2020年10月24日)。「どこにも旅行できない」という前提が世界と異なります。日本と世界の労働者意識の違いの分析にはならないでしょう。
コロナ禍で有給休暇を「緊急時のために取っておく」ことは当然の行動でしょう。誰もが新型コロナウイルスに感染する可能性があります。感染したら一定期間、隔離され、療養しなければなりません。コロナ禍の今こそ緊急時のために取っておきたいと考えても不思議ではありません。
コロナ禍でテレワークが常態化したことも「緊急時のために取っておく」ことを加速させます。テレワークは通勤の疲労や対人ストレスが減少します。それほど休みたいと思わなくなります。
また、最初からコロナ禍が一年続くと予想できた訳ではありません。年の途中でコロナが根絶し、通常出社に切り替わる可能性もありました。疲労の少ないテレワークができる時に有給休暇を取得するのは勿体ない、通常出社に切り替わってから有給を取得したいと考える人もいるでしょう。
そのような労働者にとって有難迷惑になりかねないものが有給休暇の取得義務化です。労働者が折角の有給休暇を使わずに消滅させている状態は不都合です。しかし、取得義務化は目の前の課題を解決すればいいという公務員的発想です。無理やり期間内に休ませるのではなく、有給休暇の消滅時期を延ばす方が労働者のニーズに合っています。その結果、たとえば有給休暇が100日溜まることになれば安心して10日くらいまとめて休む人も出やすくなります。
消費者と事業者に格差があり、消費者法が必要であることと同様に、労働者と事業者にも格差があり、労働法制は大切なものです。しかし、それは労働者の自由を増進するものでなければ本末転倒な労働者管理強化になります。昭和の工場労働者的な集団労働を前提として政策を考えるならば、集団労働に窮屈さを感じ、自由度の高い働き方を求める労働者には有難迷惑になるでしょう(林田力「安倍晋三首相の辞意表明と働き方改革」ALIS 2020年8月28日)。
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