どこに強みがあるのか分からないけれど、浮沈の激しい環境をしぶとく生き抜いている企業は少なくない。エレクトロニクス業界で言えば、CMKやSMKなどそれこそアルファベット3文字の社名を持つ企業がそれに当たる。コネクタを中心とする機構部品を主力としており、お世辞にもハイテクとは呼べないにも関わらず、エレクトロニクス業界における技術変化の波にも転覆することはない。実に不思議な企業である。
千代田インテグレもそんな会社である。かれらのコア技術は「ソフトプレス」。フィルムやウレタン、両面テープなど、「軟らかい素材」を自在かつ高度に加工することができるという。いくつか例を挙げるなら、複写機に使われる用紙押さえ、テレビに使われるゴム足、スマホに使われるタッチパネル両面テープ、自動車に使われるインパネ表皮など。いかにもローテクな製品を多品種に多用途に手がけている。用途別の売上構成比は、OA機器38%、AV機器19%、自動車17%、通信機器13%、家電その他13%。あらゆる用途にまんべんなく納入している。また、生産拠点の海外展開は1970年代と比較的早く、顧客のニーズに文字通りグローバルに対応できる体制を整えていることも特徴だ。それはそうなのだが、玄人目にも素人目にも誰にでも作れるものばかり。にもかかわらず、過去10年の売上高はそれなりに安定しているように見える。成長はしてないが縮小もしていない。実に不思議な会社である。
千代田インテグレには失礼だが、同社の本質を一言で表せば「便利屋」であろう。自分で製造しようと思えばできないこともないが、ボリュームメリットの働く千代田インテグレから購入した方が安く調達できる。「顧客から要求されたものは何でもつくる」と謳っているから無理なお願いも嫌な顔をせずに聞いてくれる。要するに都合の良い存在と言っていい。ただ、それは決して悪いことではない。むしろ他社との違いを立派につくっている。実際、同じような業容の会社は皆無に等しいのではないか。多品種少量の面倒を厭わないことが同社を希少な存在にしているのだと思う。会社も人もレアであればあるほど価値が高い。
広範な業種を顧客に持つ千代田インテグレだが、足元で取引の拡大に注力しているのがヘルスケア分野である。ヘルスケアといっても医療機器ではない。具体的な納入事例は小林製薬の『ナイトミン 鼻呼吸テープ』。口や喉の乾きやいびきの音を軽減して快眠へ誘うこのテープを実は千代田インテグレが供給している。実に可愛らしい会社である。