東京出身の方は豊洲とお台場にどのようなイメージを持っているだろうか。練馬で生まれ育ったわたしが小学生の頃に思い描いていたのは、練馬自体が東京都の中でも田舎臭い地区であるにも関わらず、豊洲やお台場ははるか辺境の地、単なる埋め立ての地であり、『太陽にほえろ』や『西部警察』の犯人が人質を取って立てこもる倉庫街のイメージであった。あれから35年、豊洲とお台場は高層マンションや商業施設が集積する整然たる街並みに変貌した。アスファルトで農道をそのまま固めた結果、迷路のような細道が縦横に走る無秩序な練馬とは隔絶している。
「チームラボ」を訪れた人もいるだろう。豊洲が「プラネッツ」、お台場が「ボーダレス」。空間設計のコンセプトはそれぞれ異なるものの、アーティスト集団チームラボを率いる猪子寿之(いのこ としゆき)代表が提供したかったのは、人間と自然、人間と建物などあらゆる境界線を取り除き相互に溶け合う心地よい「場」の「体験」である。超巨大没入空間であるチームラボに対する評価は海外においても高く、フランスのパリで去年開催された特別展には多くの来場者がつめかけたほか、日本のチームラボについても来場者の約4割が外国人観光客だという。
「モノ」から「コト」へ。よく言われる価値基準のシフトを考えたとき、チームラボが提供する付加価値は、そこに身を置かなければ体験できないリアリティや感動であり、他者とは異なる自分だけの思い出や物語である。その意味ではまさに時流に乗っていると言っていい。
文字も画像も動画もすべてスマホに飲み込まれる中で、スマホでは代替できないプロダクトやサービスをいかに提供できるかが重要な競争戦略となってこよう。チームラボと同じ文脈で考えるなら、アミューズメントパークや(映画館で観る)映画、ライブなどは、優れたコンテンツの継続投入を前提に今後も存在意義を残す可能性が高い。ライブを例に取れば、かつては音楽業界の主要な収益源であったCDやDVDは、今やお祭り騒ぎに参加しアーティストと触れ合う個人的な体験を獲得すためのチケットの位置づけに変わりつつある。
翻って、カメラ機能がスマホに取り込まれてしまった精密機械メーカーは、スマホへの意趣返しとしてB to Cで新たなビジネスモデルを構築できるだろうか。例えば、キヤノンの一眼レフデジカメを購入すれば、同社が冠スポンサーを務めるテレビ番組『世界の街道をゆく』の撮影クルーに同行できる・・・。あまりいいアイディアが浮かばない。みなさんならどのようにカメラメーカーを復活させるだろうか。
年末年始の家族サービスに、恋人との小粋なデートに、チームラボはかなりオススメだ。ただし、大人気の体験空間なのでネットによるチケット購入はお早めに。